黙然日記(廃墟)

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古森義久氏の重大な誤解。

小沢一郎氏の国連についての重大な誤解?――亡国の国連至上主義-ステージ風発:イザ!
http://komoriy.iza.ne.jp/blog/entry/335652
これまで小沢氏は日本の自衛隊の海外での武力行使はおろかインド洋での後方支援活動にさえも反対を述べてきました。(中略)
この小沢氏の「論理」は明らかに日本という主権国家憲法や規則や政策よりも、国連の承認が優先する、という途方もない考え方に基づいています。
日本の主権よりも国連の決議が強く、上にあるというのです。

 昨日のエントリは、タイトルだけ見てどうせまた使い回しの焼き直しだろうと思って後回しにしていたのですが、珍しく書き下ろしのようです。
 しかし中身は、あいかわらず論評の必要もないシャドーボクシングでしたね。引用部前半は明らかに嘘です。そもそも小沢氏といえば、自衛隊の海外活動による国際貢献に誰よりも積極的な政治家として知られています。その点では14年前からなにも“変節”していません。ただ、憲法論も無視して海外活動だけを叫び立てる凡百のタカ派よりはもうちょっと頭がいい(あるいは現実的な)人なので、日本国憲法の平和主義――国家主権の発動としての戦争に日本を巻き込まない――と国際貢献止揚できるように、「国連決議が必要条件である(海外活動のためには国連決議が必要である)」と提唱しているわけです。そしてこれを古森氏は、「国連決議が十分条件である(海外活動は国連決議さえあれば成り立つ)」と勝手にすり替え、「国連至上主義者の小沢一郎氏」と名付けた藁人形の主張を叩いているわけです。
 エントリ後半は、米国の反国連主義的な主張を並べているだけで、特に言うべきこともないですね。そして最後に、こんなことを言っています。
 「無知による誤解なのか、意図的な曲解なのか、歪曲なのか。単なる思い付きだけの政治宣伝なのか」。古森氏の脳内に存在する小沢氏に投げかけた言葉ですが、“蟹は自分の甲羅に似せて穴を掘る”、脳内に投げかけた言葉は自分自身に戻って来るものでしょう。

古森義久氏の世界観。

「日本軍の性的奴隷(慰安婦)は合計40万人だった」――中国系反日団体の会長が発表-ステージ風発:イザ!
http://komoriy.iza.ne.jp/blog/entry/338910
2007/10/11 17:38

 古森さん、あんまり夜更かししちゃいけませんよ。もう無理が利く年齢でもないのですから。


 米国下院の決議を受けて、世界抗日戦争史実維護連合会(以下GAと略す)が開いた*1国際会議について、ロサンゼルス・タイムズが報じる内容から引用しています。あいかわらずソースにリンクしていないので、いちいち調べにゃなりません。

Activists seek redress for sex slaves - Los Angeles Times
http://www.latimes.com/news/local/la-me-women6oct06,1,5989059.story?ctrack=2&cset=true

 ざっと見た限りでは、古森氏の訳にあまり問題はないようです*2(わたしがなにか見落としている可能性はかなり高いですが)。ただ、古森氏が直訳で紹介している「日本軍事性的奴隷問題行動ネットワーク」"Japan Action Network for the Military Sexual Slavery Issue"というのはおそらく、「日本軍『慰安婦』問題行動ネットワーク」*3のこと、Haruko Shibasakiというのは同ネットワークに所属する柴崎温子氏のことでしょう。こんな、ぐぐれば5分でわかるようなことはちゃんと調べてから書いてほしいものですが、古森さんは眠かったのかもしれませんね。


 古森氏は、GAが各国でロビー活動をして決議を出させようと計画していることを、恐るべき陰謀であるかのようにまたぞろ訴えているのですが、計画することと実際に各国議会が動いて決議を出すことの間には、かなりの隔たりがあります。たとえば、なんの組織も影響力も持たない個人ブロガーのわたしが「全世界の議会に古森非難の決議を出させるぞー!」とわめいても、言うだけならタダです。
 ひとつ前のエントリとも重なるのですが、古森氏は《必要条件》と《十分条件》の違いを、理解していないのではないでしょうか。言葉としては混同されがちであり、わたしもよく勘違いするので今も辞書で確認してから書いているのですが、そういうことではなく、です。ある命題(ここでは決議)が成立するために、最低限必要なものと、それさえあれば命題が成り立ってしまうものの違いです。ロビー活動は、きっかけになったりあるていどの影響を及ぼしたりはしますが、それだけで決定的な結果はもたらしません。そこには各国議会の意志が絶対に必要なのです。*4
 あるいは、ロビー活動があれば従軍慰安婦問題非難決議が自動的に成立するという考えは、各国議会の意志を前提とせず、必要な過程も無視している点で、「藁人形に針を刺せば相手が苦しむ」という呪術的世界観のレベルに近くありませんか。

*1:註(10/12):コメント欄でni0615さんにご指摘いただきました。この会議に関して、GAに所属する参加者はいましたが、開催そのものには関わっていません(少なくとも直接名前は出ていません JMSS http://jmss.info/about.html)。お詫びして訂正します。

*2:註(10/12):やはり見落としておりました。コメント欄でStiffmuscleさんにご指摘いただきましたが、記事にとって都合のよい部分だけを抜き出しているという点で、問題のある恣意的な訳といえます。

*3: http://kodonet.blog54.fc2.com/ 。ただ、「日本軍『慰安婦』問題緊急行動ネットワーク」という検索結果もあって、改名したのか複数の名前を使っているのか、よくわかりません。

*4:その意志は、「日本の過去」に向けられるのではなく、「過去を直視しない現在の日本」に向けられているのだということも附記しておきます。