黙然日記(廃墟)

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産経抄のインド象観。

産経抄】国際親善に尽くされる両陛下 12月1日+(1/2ページ) - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/life/news/131201/edc13120103090000-n1.htm

 いつものことですが、ひどいコラムです。まずいきなり、東京裁判で判事を務めたパール博士が戦後日本の教科書を見て嘆いた、という、いかにもデマ臭い話が出てきて、うんざりします。なにかといえば「日本人被告を無罪と主張したパール博士」を引き合いに出すのは、昨日付のエントリにもつながりますが、東京裁判史観の否定という歴史修正主義の典型です。そもそもこのエピソードのソースが、産経新聞社『教科書が教えない歴史』だというあたりはもう、失笑するしかありません。パール博士は、東京裁判そのものが戦勝国の押しつけで無効だという論を立てたのであって、日本人被告に罪がないと言ったわけではありません(法律用語の「無罪」は、一般の概念の「罪が無い」とは異なります)。戦後1949年にインドから象のインディラがプレゼントされたことを、インドの人々が戦前からの日本に好意を寄せていた証拠のように書いていますが、「子供に(あるいは国民一人ひとりに)罪はない」という考え方からかもしれませんし、「新憲法で生まれ変わった国だから」という理由からかもしれません。帝国日本と戦火を交えた連合国からも、戦後日本の個々人特に子供には、ララ物資などの好意が寄せられたわけです。引用されているネール首相の演説も、「日本のいいところはいい、悪いところは悪い、いいところは尊敬する(しかし悪いところは……)」という含意のある、外交辞令としては厳しいものです。
 両陛下が、日本国と諸外国の親善に誰よりもお心を砕かれていることは疑うべくもありません。そして今回のご訪印は、あえて言いますが、国賓として大統領との公式謁見が組まれたご公務です。引退した老夫婦が「海外ならどこでもいいんだけど、ちょっくらインドでも行って仏跡を拝んでお祭り見てカレー食ってくか」というのとは、わけが違います。行き先を自由にお決めになられたわけでもありませんし、政治的理由でご訪印が中止されたこともありました。まるで両陛下の自由意思でご訪印したかのように書き、あまつさえ《ゆったりとご旅行いただきたい》などとおためごかしを述べるのは、むしろ両陛下を個人として見る視点がないことを吐露しているのではないでしょうか。