すごい本屋!


著者:井原万見子  出版社:朝日新聞出版  2008年12月刊  \1,680(税込)  220P


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ど田舎にありながら、絵本の原画展や、トークショーを主催して、元気に頑張っている本屋さんの活動報告です。


すごい本屋さんがあるのは、和歌山県日高郡日高町初川という場所です。JR和歌山駅から在来線で60分乗ったあと、路線バスに50分、町のコミュニティバスに乗り換えて20分乗ると到着する「平」という集落に存在するのです。


付近には図書館もなければ商店もありません。近所のたった一つの教育施設である小学校の全校生徒数が約50人、という相当な田舎です。


こんな田舎でがんばっているのが、「イハラ・ハートショップ」という名前の本屋さんです。


本屋といっても、集落でたった一つの小売店となったからには、日用雑貨や味噌、醤油、お菓子などの食品も販売しています。地域の人々の生活を支え、少ない読者のために定期購読の書籍・雑誌のほか、絵本から農業関係の本まで品揃えしています。


この山奥でも、本屋として何かできないだろうか、との思いで学校自主巡回や絵本の読み聞かせを行い、気がつけば絵本の原画展やトークショーまで開催し、テレビや新聞にも取り上げられるようになりました。


私の大好きな永江永江さんも、2回も取材に訪れています。



余談になりますが、所ジョージさんが司会している「笑ってコラえて!」と言う番組に「日本列島 ダーツの旅」というコーナーがあります。
所さんが日本地図に向かってダーツを投げ、当たった場所の近くの村や町を取材班が訪問してくる、という趣向です。


ある村の地域おこしに励んでいるというおばちゃんがあんまり面白かったので、思いきって手紙を送ったことがあります。
「テレビ見ました。私も田舎出身です。遠くから応援させてもらいます」
というような内容を書きました。



村の名前までしか分かりませんので、「鹿児島県○○村 所さんのダーツの旅にでていた木村さんのおばちゃん」という書き方で送ったところ、無事とどいたようです。
1週間あとに、なんとご返事が届きました。
村の将来を考えると前途多難ですが、元気に頑張ります、というような内容だったと記憶しています。


いま考えると、手紙を出すほうも出す方ですが(笑)、よく返事を書いていただいたものです。


本書を読みはじめたとき、著者の井原さんと、あの元気なおばちゃんが重なって見えました。



しかし、明るいところだけを取り上げるテレビ番組と違い、井原さんの活動報告には楽しいことばかり書いてあるわけではありません。


出版社に絵本の原画展ができないか交渉していた際、電話にでた担当者に、次のように言われたことがあります。

  「絵本の原画? 今まで見たことがないんだったら模写でいいん
   じゃないの」

なぜ、こんなひどい言われ方をしなければならないんだろう。と、井原さんは悲しくなりました。


また、学校で購入する本を子どもたち自身に選んでもらうために2年続けて訪問した学校で、3年目に新しく担当になった先生に言われました。


  「今年は、子どもたちに本を選ばせることはしません。『ポプラ
   ディア』を買ったので、もう予算がありません」


まるで、ポプラ社の百科事典が悪いような言い方に、井原さんはそれまでの2年間が消えてしまったような寂しさを味わいました。


しかし、そこでやめないところが「すごい本屋!」の「すごい!」ところです。
ひとつひとつ、田舎の本屋では考えられないような実績を積み上げ、原画展やサイン会、おはなし会を成功させてきました。


決してスーパーおばさんではない井原さんの訥々とした魅力。
ぜひご一読ください。



本書から少し離れます。

私が参加している「すごい100冊倶楽部」というメーリングリストで知り合った本仲間の
お一人で、静岡市百町森という本屋さんのスタッフがおられます。


百町森さんのWebページ(こちら)を見ると、ヨーロッパの木のおもちゃが中心の「おもちゃコーナー」があったり、「プレイオン」という親子で遊ぶおもちゃの部屋があったり、もちろん充実した絵本コーナーがあったり、遊びに集中できる落ち着いた環境を提供しているようです。


百町森も、きっと「すごい本屋!」の一つに違いありません。


お近くにお住まいで、小さなお子さんをお持ちの方。ぜひ一度、お訪ねください。
できれば、「こんなお店でしたよ」とレポートいただけると嬉しいです。