OSの基本を学び直す本「オペレーティングシステムの仕組み」

OSの仕組みを解説した本はいろいろあるけれど、専門書になるとやたらと分厚いものが珍しくない。確かに巨大なOSの中を詳しく解説したら分量が増してしまうのは仕方ないとはいえ、そこまで詳しくなくても良いので、もう少し手軽に、しかし専門家が書いたしっかりとした内容の書籍を求める人は少なくないはずだ。

そんなわがままな人(もちろん私のその一人)に勧めたいのが「オペレーティングシステムの仕組み」だ。170ページほどの手軽な薄さながら、OSのエッセンスが簡潔にまとめられており、説明が分かりやすい良書だ。デバイスカーネルの話から始まり、プロセス、メモリ管理、仮想記憶、ファイルシステム、セキュリティなどOSの基本が一通り載っており、最後には「ケーススタディ」としてWindowsに関する説明もある。

特に、前半の34ページに早くもスレッドの説明が出てくる辺りは、昨今のOSの状況を踏まえた上手い構成だと思う。マルチスレッドの典型的な問題の一つである排他制御についても、いわゆる「Dekkerのアルゴリズム」を導き出すために、デッドロックやライブロックを伴う試行錯誤の事例が載っており、ロック、セマフォ、モニタそれぞれの役割と短所・長所も説明が出ているので、初めて学ぶ場合でも理解しやすいはずだ。

もちろん、この本を読んだだけでOSを作れるわけではないし、OSの専門家になれる訳でもない。カバーされていない内容も多々あるけれど、より詳細な参考書へ移行するための入門書として捉えれば良い書籍だと思う。普段はOSに直接関わることが少ないアプリケーション開発者でも、OSの基本を学び直したり動作の根本を理解しておくために目を通しておきたい。

オペレーティングシステムの仕組み (情報科学こんせぷつ)

オペレーティングシステムの仕組み (情報科学こんせぷつ)

なお、巻頭の「発刊にあたって」に記載されているシリーズの説明が面白いので、併せて紹介しておきたい。コンピュータやソフトウェア関連の書籍(特に大学の先生が書いたもの)には現実離れした机上の空論が並んでいるものが少なくないが、このシリーズはそんな書籍とは一線を画すものとして企画されたらしい。

中には特色のある本,意欲的なシリーズもすでにあるが
◎理論的にしっかりしているいるが現実問題との結びつきが弱いものや
◎実践的で「わかった」ような気にはさせるが,基本的概念の説明が不足している
ものも少なくないように思われる.外国の教科書の内容をつぎはぎして「たくさんの方法・話題を羅列しただけ」の本もある.このシリーズでは,これらの危険に陥らないよう,次の3点を目標として掲げることにした.

シリーズの他の本を読むと、その狙いは必ずしも成功しているとは言えないものの、この本に限って言えば『情報科学の基本的な概念・コンセプトに対して、適切な「言葉による定義」を与え、論理的にはっきりした理解が出来るようにする』という目標は充分に達成していると思う。



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