「そのお腹の子、誰の子?」

メモ的にアップ。代理母出産については、いくつかのパターンがある。受精卵から見たパターンで分類すると以下のようになるか。

A.依頼者夫婦の受精卵を使う場合
B.夫の精子卵子ドナーの卵子を使う場合
C.精子ドナーの精子と妻の卵子を使う場合
D.精子ドナーの精子卵子ドナーの卵子を使う場合

これをさらに展開すると以下のようになる。依頼者夫婦が育ての親になることが前提。

A1:いわゆる借り腹。夫婦の受精卵を代理母に出産してもらう方法。依頼者夫婦が遺伝子的にも両親となる。向井亜紀さんのケース。
B1:卵子ドナーが代理母となって出産する方法。子供から見ると母親が2人。
B2:卵子養子型代理母出産。卵子ドナー以外の第三者代理母になる方法。子供から見ると、依頼者である母、遺伝子上の母、出産の母の3人の母親ができる。
C1:精子養子型代理母出産。依頼者夫婦以外に、精子ドナーの父および出産した代理母とのつながりが存在する。
D1:受精卵養子型代理母出産。卵子ドナーが代理母となって出産。依頼者夫婦と子供との間に遺伝子的つながりは無い。
D2:受精卵養子型第三者代理母出産。卵子ドナー以外の第三者代理母になる。夫婦と子供との間に遺伝子的つながりは無い。子供から見ると、父親が2人、母親が3人。

妻の卵子を使う場合、他に登場する女性は代理母(=出産する人)だけなので、まだわかりやすい。卵子ドナーの卵子を使う場合は、出産する人が卵子ドナーなのか、それ以外の代理母が出産するのかで別れてしまい、複雑になる。さらに精子が夫のものか精子ドナーのものかで別れると、組み合わせはさらに複雑になる。
ちなみに、精子ドナーの精子を妻の子宮に送り込んで受精させる人工授精をAID(Artificial Insemination by Donor)と言うのだが、夫の同意を得てAIDがなされた場合、生まれた子は夫の嫡出子になると解される(遺伝子上のつながりはなくても)。逆に夫の同意を得ないAIDの場合は、夫は嫡出否認の訴えを起こすことで自身の父性を否定することができる。たとえば夫の長期不在の間に、妻が夫の同意を得ないでAIDを行い懐妊した場合など。
このAIDの解釈を敷衍すると、B2では卵子ドナーの母性は否定され、出産した代理母が法律上の母である。またC1では、依頼者の妻が出産しない以上は夫も父になりえず、精子ドナーが父、代理母が母と考えるしかない。もちろんどちらのケースも、養子縁組によって依頼者夫婦が子供を引き取るのが、子の福祉にとって妥当だろう。
代理母出産にかかわる親子関係の解釈については、上記以外にもいくつもの論点があるものと思われる。生殖医療の話題が報道されるたびに、現状の医療技術に合うように法律を改正しろという声があがるけれども、そういった問題点にかかわる議論が広く行われているようには思えない。生命倫理にかかわる法整備は、立法府・行政府・学者だけでなく国民的な議論が行われる必要があると思うし、そういった議論を乗り越えないままに制度を設計してしまうのはおかしいんじゃないだろうか。
エントリのタイトルに挙げた質問は、現在ならどう考えても相当シリアスな状況だけど、代理母出産が認められた未来ではカルい気持ちで聞けるのかな。生命がどんどん軽くなりそう。

「そのお腹の子、誰の子?」
「兄の子です。お義姉さん、○○で忙しいから。」

(追記)人工子宮をギミックに用いたSFですごく印象的だった話があったと記憶しているのだけど、ストーリーをちゃんと覚えていなくて探しきれなかった。単に人工子宮が登場するだけならいくらでもあるしな。
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