山田詠美 「風味絶佳」

鬼のように久方ぶりの更新。
皆さんお元気でいらっしゃいましたか。わたしはすこぶる元気でした。

あいも変わらずだらだらと本とか映画とか音楽を手にしては穏やかに生かされている毎日。
久しぶりですが、何の前触れもなく本の感想を書き連ねたいと思います。



山田詠美「風味絶佳」を読んだのはもう8年くらい前(!)、ちょうど「シュガーアンドスパイス」として映画化されたとき。
あの映画はとても印象に残っていて、大変好きで未だにたまに観たくなる。
若い男の子にとっての恋愛、女性が恋人に一生求め続ける心づくし、人が人を好きでいる間に起こる悲喜こもごも。そういう全てが‘シュガー’と‘スパイス’で、その切なさをとてもよく描いているとおもうのです。あの映画の沢尻エリカの可愛さときたら!



さて、最近また思うところがあってこの本を読み返してみた。
一番好きな作品、「間食」。最高に最低な男の子の恋愛を書いていながら、読み進めるとどうしても愛おしくなってしまう。

この作品の何が素晴らしいって、恋愛したときに立ち上る‘いつくしむ、可愛がる、愛情を注ぐ’という目一杯はみだすような感情の表現。本当に上手。
主人公が年下の女子大生・花ちゃんに対して思う、とにかく可愛くて可愛くて仕方ない、食べてしまいたいくらい愛おしいという可愛がりの感覚。
自分は女性だからその全てをまま共感することは出来てないのだろうけど、それにしたってこの気持ちはよくわかる。
よくわかるからこそ、その愛情がどんなにいびつで二股かけちゃってようが、どうしても主人公を憎むことが出来ないのです。



丸くてやわらかくてにこにこしていて、とにかく可愛い花。
デート中に中華屋さんの豚の人形を見かけて、「花に似ている」というと小さなポットが湯だったように怒って見せる。頬を膨らますのが愛おしくて、それをからかいながらなだめるやりとりがまた何とも微笑ましい。
もうここの表現だけで、この作品オールオッケーみたいなところがあるとおもったんだよな。




この作品で重要なのは寺内という主人公の同僚なのだけれど、これがまた素晴らしい。
誰かに可愛がられ、誰かを可愛がる、(主人公はその方向を完全に見誤っているけれど)人を愛するということは‘慈しむ’ことの重層なのだと思わされる。



この本を読んでいるといつも、食事がしたくなります。
1人でも、2人でも。
おなかすいたなー。



さすが大御所の長く読まれる短編集、と改めて感じ入ったのでありました。





風味絶佳 (文春文庫)

風味絶佳 (文春文庫)