餌付け・・・その2

宮崎さんの実験に対し反対派の人はともかくとして、容認派の人達はこの結果をどのように考えているのか・・・・・に、実は大きな感心を持っているのです。今回は、その当たりの話しを少ししようかと思っています

誰もクマがやってくると予想はしていないようですが、実際はどうかと考えてみると、来るだろうと予測している人は多いのではないかと思っています。つまり、クマはドングリを食べていると考えているからで、ドングリが撒かれていれば、それを食べるのは当たり前で、早くその場面が写し出されないかと興味を持っているのではないでしょうか

僕自身の考えは、『来ない』で、、宮崎さんのブログでもそのようにコメントしましたが、もちろん誰からも反応はありません。これは当たり前のことで、ほとんどの人は食べると信じているからでしょう

『クマがドングリを食べない』と僕が考えている根拠は2つあります。以前にもちょこっとだけ書いたような気がしますが、それは、ドングリという堅果類の持つ特徴にあります。ドングリ類はタンニンを含んでいることが知られていて、これはドングリの種類毎に含有量も違いますし、同種であっても全ての果実が同じ割合で含まれているわけでもなく、同じコナラであっても多いものもあれば少ないものもあるそうです

タンニンは苦みの成分として知られていますが、それだけではなくいわゆる毒にもあたるもので、タンニンを過剰に摂取してしまうと消化器官などに悪影響があることも知られていますし、動物によっては市に至るくらいです

そのタンニンを含んだドングリを、なぜ動物達は食べるのか、食べても平気なのか・・・・・ということを実験した人もいまして、有名なのはアカネズミでの実験です。これは検索してもらえばすぐにわかりますが、ドングリを食べるアカネズミに対してもタンニンは毒にあたり、過剰摂取するとタンニンの影響で死んでしまうことがわかっていて、アカネズミは含有量の少ないものを食べたり、いわゆる馴化ということで、少しずつ体内に取り込んで体を馴化させながら、ドングリを食べていることがすでに明らかになっています

あと、ドングリを食べそうな動物というと、ネズミ以外ではイノシシ・シカ・アナグマ・サル・ムササビ・リスなどでしょうか。これらの動物達もネズミのように馴化しながらドングリを摂取しているのか、それともタンニンを大量に摂取しても平気な内臓構造になっているのか定かではありませんが、ドングリを食べています

キツネやタヌキなどは草食と肉食が半々程度の雑食性であるものの、恐らくドングリは食べないでしょう。また、テンやイタチなども食べないでしょうね。理由はさまざまありますが、ドングリを食べる種と食べない種があるのは間違いありません

そして、今回の最大のポイントはクマが食べるかどうかでしょう

ほとんどの人は食べると思っているでしょうが、僕は反対で食べないだろうと予測しています。その根拠となる最大の理由は、クマはタンニンが嫌いであろうということです。それはどのような理由からかといいますと、捕殺されたクマの胃内容物を調べますと、8〜9月までに捕殺されたものの胃内容物からは青いドングリを食べていることが確認できましたが、ドングリが茶色くなり落果する頃より以降になると、捕殺されたクマの胃内容物からは、その茶色いドングリが食べられている痕跡が少ないという過去の経験があるからです

このことから、クマは青いドングリは食べるが、落果したドングリを食べることは無い(あるいは極端に少ない)と思っているからです。考えられる原因は2つで、ドングリに含まれているタンニンが嫌いであることか、その時期になると他の食物(主にヤマブドウなどの將果類や栗等のタンニンが無いもの)に移行していることしか考えられません

もちろん、木に登って青いドングリを食べている姿を目撃した人はいますし、コナラやミズナラではドングリを食べた熊棚は普通にたくさんあります。しかし、落ちているドングリを食べている姿を目撃したり、食べた痕跡を見たという人は恐らくほとんどいないはずですから、そのようなことも根拠の一つとなっています

では後者の食べている餌が変わっていくのでドングリを食べない・・・・・可能性を考えてみると、そこでヒントになるのは山栗の存在です。山栗は広義の意味ではドングリの一種になろうかと思いますが、実の中にはタンニンは含まれておらず、いわゆる渋皮の部分にのみタンニンが含まれていて、人間でも栗の渋皮は食べるなと言われているくらいですから、含有量は結構高いのではないかと思っています

そして、クマとタンニンの関係を類推するポイントは2点あり、1点目はいつ食べているのかということです。他のドングリ類が落果している同時期に山栗しか食べていないのであれば、タンニンを含んだ他のドングリ類を避けているであろうことは推測できます。2点目は食べ跡を確認してみるとすぐにわかりますが、外側の殻を破ったあと、渋皮と一緒に中にある実を食べているのではなく、渋皮については食べていない(あるいは避けている)ようにその食痕から類推することができます。つまり、タンニンを含んでいる渋皮を避けているようにしか見えないのです

また、山柿についても同様で、山柿はタンニンをたくさん含んでいることでも知られていますが、完熟しますとタンニンの成分が減少し、その頃になりますと、クマをはじめいろんな動物や鳥類に食べられるようになります。タンニンが平気ならば完熟するまで待つ必要はなく、競争原理から考えても完熟する前(タンニンが抜ける前)にさまざまな動物と奪い合いになっているはずですが、そのようなことはありません。タンニンが抜ける頃から食べられているのは間違いないでしょう

これらのことを考え合わせますと、クマはタンニンが嫌いで食べることはなく避けていて、ドングリについてはタンニンが含まれない(若しくは非常に少ない)青いドングリだけを食べている・・・・・と考えるのが普通かなと思っています。この推測の前提には、『ドングリは青いうちはタンニンを含んでいない(もしくは、タンニンの含有量が非常に少ない)』ということがありますが、これは調べていないからわかりませんが、なんとなくそのように考えています

ドングリとは微妙に違うのかもしれませんが、トチの実というやはりタンニンの含有量が多い木の実がありますが、この実を考えても同じで、トチの実はタンニンの含有量が多いため、他の動物があまり食べず、飢饉時などに人間の非常食になることで昔から大事にされてきました。そのため、どこに行ってもトチの巨木があり、クマが冬眠穴にも良く使っている木です

他のドングリの木もそうですが、トチの巨木は非常に目立つ木で、この木に登って実を食べていれば、確実に目撃例やその痕跡がわかるはずですが、実際には見たことはありませんし、どこに行ってもそのような話しなど聞いたことがありません。もちろん、ドングリが茶色になり落果しようという時期に、ドングリの木に登っている姿をみることもほとんどありません

以上。これらは過去の目撃例などを参考にして類推した根拠です。また、それを補完することができるかどうかわかりませんが、次回はドングリを食べる動物と食べない動物の違いについて考えてみたいと思います



参考までに、この画像は11月に撮影したオス鹿の胃内容物です

ヤマブドウ・サルナシ・木の芽・草本類・枯れ葉・ドングリなどの固形物が確認できるとともに、黄土色をしたドロドロの状態のものがドングリの未消化状態(ペースト状)のものです。こうしてみますと、この鹿は、かなりドングリを食べているのがわかりますね

以前このブログでも書きましたが、日本全国では大量のクマが捕殺されているわけですから、胃内容物を調査しておけば、その地域における季節毎の食性など簡単にわかってしまうに、動物学者は何をやっているのでしょうか。いつも不思議に思っています(笑)