思考の遊戯・続

「雑読雑感」の管理人・レグルスの読書メモ、映画のネタバレ感想など

『天下を制す 三好長慶VS織田信長』出水康生
☆☆★
教育出版センター

人名、地名に固有名詞が多く、誰がどこにいるのかさっぱり分からないのは私が歴史に暗いから。どこでどう動いたのか、逐一の地図が欲しいというのも私の不勉強だとしよう。それでも、本書には問題が多い。
それを一言でまとめるなら「自費出版か?」となる。
まず、記述の軸がバラバラ。教科書的に淡白なところもあれば、そこにいた数十人もの人名の羅列がある。かと思えば、史料の引用、はては小説か?というような叙情的なところがあったりする。
歴史をリアルタイムで列記するスタイルかと思えば、著者のルポのように、現代の地名が突然入ってくる。
さらに、こんなタイトルなので、長慶と信長の違いを比較するのかと期待すれば、そんなことはない。三好一族の固定視点っぽいかと思っていると、終盤で信長寄りになりかけた(しかも完全な信長視点にすらならないのだ)最後は長宗我部氏の四国攻防史になる。
要するに、著者が調べたことを整理せずにぶちこんだ感じ。編集者がいれば、列挙した内のいずれかの立ち位置に絞って再編集したであろう。逆に、自費出版だとすると、担当者が「地味でやたら細かい(深い)内容だから、タイトルくらキャッチーにしないと全然売れませんよ」とでも煽ってこんなタイトルになったのであろうか。

「1568年(略)に織田信長勢が怒濤の上洛をして来るまで、戦国三好一族が天下を制していたのである。」

「四層の天守閣には黒瓦で屋根を葺き、主柱の上下は真鍮で包み、柱の中央は薔薇の絵で飾り、継ぎ目の見えぬ板を壁面に張り、襖には金泥の絵(略)多聞山城は16年後に築造される織田信長の安土山城のモデルになっていることは疑いのないこと」

天下を制す三好長慶VS織田信長―戦国阿波おもしろ百話天下を制す三好長慶VS織田信長―戦国阿波おもしろ百話
出水 康生

教育出版センター 2004-02