吾妻ひでお『うつうつひでお日記DX』

うつうつひでお日記 DX (角川文庫 あ 9-2)

うつうつひでお日記 DX (角川文庫 あ 9-2)

この本は単行本で持ってるんだけど、やっぱり買ってしまった。
しかしその時とはちょっと事情が違っている。というのも、おれも同じような薬を飲むようになったからだ。
初めて精神安定剤を飲んだときはその効果に驚いたしむしろ少しハイになったくらいで、人間の心なんて「しあわせの理由」じゃあないけど本当に化学物質次第でどうにでもなるものなんだなあと思ったものだ。しかしドグマチールのほうは、「やる気を出すための薬です」なんて書かれているわりにはさっぱり効かなくてすぐ変えてもらったが、よく考えてみればこの手の薬というのは効いている状態こそが「普通」なわけだし、みるみるやる気が漲ってくる、というものでもないんだよな。作者も飲んでいる鎮痛剤のロキソニンは、よく効いて眠くならないし安いので(保険がきくからだけど)、バファリンよりもよほど良い。優しさなどいらんし。また、眠剤を飲まないと熟睡できないところも同じ。
しかし最初に単行本で読んだときには、ギャグをまじえて悲惨に見えないように描かれているので、そんなに深刻じゃないのかなと思ったものだ。確かにおれ自身、仕事をしているとき以外は比較的気分が良いときもあった。実際にはうつ状態がずっと続いているし漠然とした不安感が鳩尾のあたりに常駐しているのだが、仕事をしているときには特にひどいのでそれ以外の時間はちょっとマシに感じる、というところだったが。
そのせいか、はたからみると仕事をサボりたいだけなんじゃないかと思われるらしく、実際に面と向かってそのようなことを言われたこともある。うつ病に関する話題は最近よく聞くようになり、そのつど「気の持ちようだ」とか「仕事をしたくないことの言い訳だ」というようなデリカシーのないことを言う人が現れる。まあそういう、自分に自信があって、社会的立場としては被雇用者もしくは管理される側であるという人は、本当にその手の病気になどなりませんように、とこちらとしても祈りたい気分にはなる。だがそういう立場ではない人には、抗うつ剤の反対の効果をもつ、すなわち一時的にうつになる薬をどこぞの製薬会社に開発してもらって、自傷や自殺などをしないような処置を厳重に施した上で、一週間くらいこの気分を味わってみてはいかがかと思う。
この日記ではところどころに少女のイラストも描かれているわけだが、改めて読んでみると、作者の精神状態とイラストの出来とが相関しているように感じた。特に第五話あたりから雰囲気が暗くなってきて、それがイラストにも表れているように思える。
あと、この文庫版では、メイド喫茶のルポとあとがきが追加されているが、どちらも面白い。これだけでも買う価値があった。さらに、昨日観た映画のチラシを描いているひとによるあとがきもあるが、これはつまらん。