「現在価値」の発見

さて、いま一つの方向は、いわゆるデリバティブによるヘッジの考え方である。つまり、リスクを構成している要因と同じように不規則に変動する金融商品が見つかれば、それを使ってリスクをヘッジすることができる。たとえばある銘柄の株式に投資するとして、その株式の価格変動を、二つの変動要素、すなわち株式市場全体のシステマティックな変動と個別銘柄の変動に分けられれば、株式市場全体の価格変動に対応する株価指数先物というデリバティブを使って前者のリスクを回避しつつ、その銘柄の価格変動だけに注意するという手法が成立つ。

また、保有する株式の値上がり益だけを獲得し、値下がりのリスクを避けようとすれば、その銘柄を将来のある時期までに、ある一定の値段で売却する権利(プット・オプション)を購入すればよい。株価しだいでは売らなくてもよい。これもデリバティブの一つである。買い手にとってはどんなに株価が下がっても約束の値段で売りっけることができるので、すこぶるうまい話ではあるが、オプションの売り手、つまり売る権利を行使される側は、暴落するかもしれない株を約束した値段で買うという大きなリスクを負担する。したがってそのようなリスクに見合う対価(オプション価格)をあらかじめ買い手から受け取る必要がある。

リスクに見合う対価などが算出できるものだろうか。この場合、ひとまず、その対価は、売る権利を行使するオプションの買い手が、売り手から受け取ることが期待できる、将来のキャッシュフロー(資金の流出入)に等しい。いや、正しくは将来のキャッシュフローの「現在価値」に等しい、と考えるのである。

一般に、デリバティブ取引は、同じ現在価値のキャッシュフローが交換される取引だと考えることができる。じつは、この現在価値という考え方こそは、デリバティブ取引に限らず、先から述べている新しい金融技術の根幹にある考え方だといっても過言ではない。したがって、将来得られるキャッシュフローを、どのように算出するかという話に入る前に、この現在価値という考え方について、少々ふれておく必要があるかもしれない。