目覚まし

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物には心は無いと、決めてつけている人はいないでしょうか…。そんな、物と人との間に起こった出来事のお話です。


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俺は、毎日、定時に鐘を叩く、それが毎日の仕事。誰も気付いてないかも知れないけど。感謝されたり憎まれたり、でも、止めなかった、それが仕事。今日は、誉められたよ、主人に、昨日は、投げられたよ。壁に、痛かった、マジで、分るか?時々、止まってやろうか?とか、思うけど。



ジリリ〜〜リン!!!ジリリリリ〜ン!!!
ガチッ、カチカチカチ…、ドカ。


〜〜〜 リュウジ19歳、一人暮らしの予備校生 〜〜〜


「う、う〜ん、はぁわ〜ぁ。」
「うぅ、あ゛ー、だりぃー!!!」


…いつも、むかつくけど、助けられた。


決まって毎日のように、朝は機嫌が悪い。


決まって毎日のように、目覚し時計を投げるから、秒針は折れて、時計の文字盤の下でカラカラと音を立てていた。電池は外れて5つも無くした。壁には3か所の傷がある。


寝起きの機嫌が悪くて、2人の彼女に振られた。今、朝の僕を知ってるのは、この目覚ましだけ。さすがに、コイツまでは、僕を振るまい。そう、決め付けていた。


トーストをオーブンに入れ、やかんをコンロにかける。そうしてる間に、顔と髪を洗う。トーストを喉に送り込みながら、新聞を片手にした。


O建設会社倒産
M電気10000人の希望退職
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確かに、世の中にとって、大きな出来事かもしれないけど、はっきり言って、僕には、なんの関係も無い。


とりあえず、大学に受からなければ、はじまらない。


明日には、第一志望のK大学の入学試験が控えていた。そんなこともあって、すこし、世の中の動きに冷めていた。


3年も通ってる予備校に行くだけなのに、ワードローブの前で服を迷う。


参考書の入ったずっしりとしたカバンを肩に掛けて家を出た。



予備校では、みんな真剣な目をしていた。僕も、そんな大勢の中の一人なのかも知れない。


今までの、模試の結果では、まず合格は間違いない…ということだった。はっきりいって、自信はあるけど、朝が弱いということがひっかかっていた。



みんなと話をして、緊張を無理に消そうとしてる。先生に励まされて、笑顔になった。
「今日は、頭と体をよく、休ませるように。いままで頑張ったことを活かして、必ず成功を掴むように。」


ジンときた。頑張ろう、明日は。僕の人生は、これから、広がっていく。


浪人生活を共にした、みんなと熱い握手を交わした。
「夢を手にしよう!」
目の後が熱くなって、涙が少しうかんだ。



家に帰った後も、夢に燃えていた。


見れるはずもないような多くの参考書をカバンに入れて、熱いお風呂に入った後、体が冷える前にベットに入った。


今日までの、辛い日々を振り返る暇も無く。石のように重くなった体は、 驚くほど睡眠を求めていた。そして、すぐに眠りについた。


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真夜中 、目覚し時計は、カチカチと規則正しく時を刻んでいた。大事なときを待っているかのように、無表情で、カチ、カチ…。


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カチ、カチ、カチ…


カチ、カチ、カチ…


〜〜〜 午前7時 〜〜〜 


ピタッ。



セットされた時間になっても、時計はうんともすんとも言わなかった。そう、俺の大事な日を待ち続けていたんだ。


日頃の恨みを晴らすために…。


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物に感謝してないと、時には、とんでもないような仕打ちを企てるかも知れませんよ。みなさんもお気をつけて。