孤独と仲間と花言葉:『サマーウォーズ』と『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』


※おもいっきりネタバレしてます。ご注意ください。


 夏の定番映画『サマーウォーズ』を観ました。
 やはり傑作ですね。もう10回は観ているはずなのに、どうしても涙腺が揺るんでしまいます。ううぅ。



 観ていて気づいたのが、細田守監督の「仲間」や「孤独」への関心です。
 同監督による『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』にもそれが伺えます。


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『ワンピース』は、前半、ジャンプ的なノリの明るいトーンですが、後半は暗いトーンにガラリと変わります。仲間たちがオマツリ男爵によって次々とさらわれてしまい、ルフィーは一人ぼっちになってしまう。この孤独状態を共有しているのが「オマツリ男爵」と「ちょびヒゲ海賊団船長ブリーフ」です。
 オマツリ男爵は嵐によって、ブリーフ船長は男爵の手によって、仲間をすべて失いました。


 なぜ、オマツリ男爵は仲間を奪うのか。
 理由は二つあります。


 一つには、仲のいい仲間を持っている人間が羨ましくて許せなかったからです。
「おまえらのような仲間を見ていると怒りが込み上げる。バラバラにしたくなる。そしてワシとおなじ気持ちを味あわせたくある」と公言しているところからも、ただならぬルサンチマンを感じます。
 また、男爵の肩には「リリー・カーネーション」という不思議な黄色い花が咲いてます。黄色いカーネーション花言葉は「嫉妬」や「仲間」。つまり、男爵の暗い心を表している存在なのです。

 
 もう一つの理由は、リリーという不思議な花に人という資源を入れることで、嵐で失った仲間を一時的に復活させることができるからです。
 植物は光合成をしますよね。花であるリリーは、二酸化炭素の代わりに人を吸い込み、酸素の代わりに男爵の仲間を作り出しています。よく見ると、男爵の仲間たちの頭にはみんな双葉が生えています。
 孤独に耐えられない男爵は、そうして心を癒してきていたのです。

 
 が、リリーによって復活した以前の仲間は、リリーという仲間復活システムと、人という資源に縛られている一時的なものです。資源が不足すると、仲間たちはすぐに枯れてしまいます。
 逆に、仲間を失ったけれど、幸せをつかんだのはブリーフ船長です。最初は仲間の勧誘に失敗し、仲間同士の挨拶「ちょびヒゲ!」を完全にスルーされていましたが、男爵との最終決戦時に何度もルフィーを助けることで仲間になることができました。ルフィーがブリーフに向かって「ちょびヒゲ!」の挨拶をするところは、号泣ポイントです。


 この孤独と仲間の話とリンクするのが『サマーウォーズ』です。


 この映画で真に孤独なのは侘助という中年男です。
 彼は愛人の子であり、陣内家の一員として馴染めず孤独を感じて生きてきました。だから育ての親・栄ばあちゃんに認めてもらうためにアメリカへ渡り研究に没頭しました。
 そこで作り出したのがラブマシーンです。ラブマシーンとは、つまり侘助の孤独が作りだした怪物なのです。


 ラブマシーンは、OZ(オズ)内にいるアバター(自分の分身)を吸収してどんどん強く大きくなっていきます。
 この「人を吸収する」という機能は、リリーとおなじですよね。
 リリーの正体は、男爵が作り出す弓矢の集合体であり、弓矢とは「孤独の日々」「突然仲間を失った後悔の数」と男爵がいうように、孤独を見える化したものです。ルフィーは、この孤独の矢に貫かれ、瀕死の状態になります。『サマーウォーズ』ではキングカズマがぼこぼこにされます。
 このほぼ勝ち目なし状態をひっくり返すのが「仲間」です。


 リリーやラブマシーンを倒すのは、仲間である海賊であり、仲間の代表である夏希です。
 何千万もする賞金首・ルフィーや、OZ内最強の格闘キャラ・キングカズマでも勝てなかった敵を倒せるのは「仲間」のおかげなのです(カズマも仲間の支援を受けて敵を倒しますよね)。


 なぜ敵は負けたのか? その答えは祖母・栄の遺言のなかにあります。
「一番いけないことは、お腹をすかしていること。一人で居ること」
 陣内家は栄の遺言通り、お腹を満腹にし、みんなで敵に挑み勝利します。
 そう、孤独は仲間に負けるのです。


 オマツリ男爵は、仲間を求めたところまでは正解でした。しかし「以前の」仲間にこだわってしまったのが敗因だった。
 では、どうすれば勝てたのか? 答えは出ています。ちょびヒゲ船長ブリーフの姿に、男爵と仲間の会話のなかに。


「行かないでくれ。ワシを一人にしないでくれ。おまえたちがいなければ、ワシは・・・ワシは・・・」
「男爵さま、長い間、一人にしてすまなかったのう」
「ケロじい・・・」
「ぼくたちのこといつも想っていてくれてありがとうっプ。とってもうれしいっプ」
「DJ・・・」
「でもあの嵐の夜にあっさり死んじまったオラたちのことは忘れてよかっただ」
「ムチゴロウ、何を言う」
「オラたちは気にしねぇ。だから新しい仲間を求めてもよかっただ」
「新しい仲間・・・」
「ほら、あいつらのように」


 戦いの後、ルフィーのもとに仲間たちが駆けつけてきます。ロビンはその途中で男爵のメガネを見つけます。その隣にはタンポポの花が咲いています。
 リリー・カーネーション(黄色)は「嫉妬」や「友情」を意味していましたが、タンポポ花言葉は「また逢う日まで」や「別れ」。仲間たちに執着していた男爵の心が、この会話によって解放され、浄化されたことを示しています。


サマーウォーズ』にも花は頻出します。こちらの花は朝顔花言葉は「固い結束」。
 激しい戦いの後、朝顔が画面いっぱいに登場します。仲間の代表である夏希の朝顔の着物や髪飾り、栄の遺影の前にたくさん添えられている朝顔が、結束の強さゆえの勝利であることを象徴しています。


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