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2015-02-25

自分眼を磨こうぜ、というお話 〜 『マーケット感覚を身につけよう』

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ブログやツイッターで「大事なことをたくさん書いた」と著者がしつこく宣伝するものだから予約までして入手しちゃいましたよ、『マーケット感覚を身につけよう』(ちきりん著)。とはいえぼく的には、この本と対になるとされる既刊『自分のアタマで考えよう』も三年前に読んでいましたし、著者ちきりんのブログも興味を引くタイトルのエントリーがRSSに流れてくれば立ち止まって読んでいますので、執拗な宣伝行為がなくとも読んでいたでしょうね。なお、「マーケット感覚」というみょうちきりんなコトバを発明したのは技ありですが、いわゆるマーケティングの本ではありませんのでご注意を。


ぼくなりに理解した、この本のメッセージは以下。

  1. 物事の本質的な「価値」を 「自分の目(アタマ)で」見極めるようにしよう!
  2. そうすれば、仕事も人生ももっとすてきなものにできるはず! なぜなら社会は市場化しているから!

上記2点を見て興味をひかれれば即購入、んなことわかっとるわいという人はスルーで問題ないでしょう。


いろいろ断定的に過ぎる表現が鼻につくと感じる読者も少なからずいるかと思いますが、大筋において正論であり、ちきりんらしい本と言えますね。インターネットがもたらした変革の一つとして「社会の市場化」について繰り返し述べていますが、これは確かにそうで、世界中の人がネットでつながってるっていうのはこういうことだよね、てな話をあの事例この事例と次々とかみ砕いて語っていきます。勘のいい人は最初の方の説明で得心してしまうでしょうから執拗に繰り出される実例の数々にちょっと辟易してしまうかもしれませんが、わかりやすく書こう、何とか思いを伝えよう、という著者の執念を汲んでいただき、目くじら立てずに黙々と読み進めるのがよろしいかと思います。


そんなこんなでこの本では、社会が特定個人同士の価値交換(相対取引)から不特定多数同士のやりとり(市場取引)に変化している現代において、ぼくたちはこれまで以上に「自分の眼(とアタマ)」で物事の本質的価値を見抜く、あるいは場合によっては価値を作り出す努力が求められているよ、という指南が続きます。「価値」って、わかっているようでいて実のところあいまいな理解をされていることが多いよなあ、と常々ぼくは思っていまして、その点でも、納得感ある話が展開されている本ではあります。(「価値」の理解に関するぼくの思いは、IBM勤務時代に学んだ「Value Proposision」の考え方に沿って過去のブログ(『バリュー・プロポジションと関係代名詞』)に書き記してあります。「価値」を単に優位性とか差別化要素という深さで理解していると本質にたどり着く前に思考が途中で止まってしまってもったいない、という話です。)


この本がきっかけとなるかどうかはさておき、日頃から「自分の価値眼」を信じ、鍛える習慣を持ち続けることは、とても重要なことだと思います。「他人の評価」、「相場」などなど、評価基準を自分の "外" に置く傾向のある私たち日本人は、このネットな時代にいよいよ変わる必要があるのでしょうね。いやもしかすると変わらなくちゃと考えているのは私たち中年以上の年寄りだけであって、いまどきの若い人はみな自分の眼で物事をとらえているのかもしれませんね。というか、そうであることを願いたいです。(過去の関連エントリー『自分のセンスで選ぼう=若者の高級ブランド離れ』)


『マーケット感覚を身につけよう』は、書籍として読み入ると散文的な感は否めないのですが、社会の市場化の例としてふるさと納税による自治体の市場化革命の話とか徳島市上勝町の葉っぱビジネスの話とか興味深い実例がたくさん盛り込まれていて、読みやすくかつムズカシイことは書いてない「なるほど本」と考えていただければ有益な書だと思います。


ということで読後感を一言でまとめますと、

  変化を恐れたり嘆いたりせず、プラスに転じる自分眼を磨きましょう

といったあたりに落ち着きますです。

そいじゃーね。


マーケット感覚を身につけよう

マーケット感覚を身につけよう

2015-02-07

仮タイトルは「麻布って変だ」 〜 『「謎」の進学校 麻布の教え』

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タイトルにつられて買ってみたのですが、なかなかおもしろい本でした。


うちの場合は、親としての私たちの考えと子供自身の気持ちを合わせて考えた結果、娘も息子も中学受験はしない(=地元の公立中学に通う)と決めていましたので、麻布については深く調べもせず単に「御三家のひとつに数えられる頭のいい子が行く超進学校」程度の認識だったのですが、こりゃまた随分と過激でまともでいい加減で真面目な学校なんだなあ、とこの本を通じてはじめて知りました。ぼくが通っていた目黒の公立小学校からも同級生が何人か麻布へ進学して行ったのですが、この本を読んで振り返って考えてみると、うん確かに麻布へ行ったやつらはただ頭がいいってわけではなく、どこか変わった風体だったなと妙に納得してしまいました。


進学校でありながら進学校としての教育を二の次にしているという点が麻布の特長である、とこの本は説きます。偏差値を上げるための指導を重視してないんですね。自分の頭で考え表現させる独特な入試を乗り越えて来た男の子たちですから結果として地頭がいい生徒が多いせいだと言ってしまえば身も蓋もないですが、受験勉強よりも教養をつけるという理念を徹底しているにもかかわらず毎年あれだけの数の生徒を東大へ送り続けているのは驚きであります。ただ、この本はこの驚きには直接答えてくれません。執筆にあたって二年かけて取材したという著者の視点から、麻布がいかに変な学校であるかを徹底的に記録してある、そんな本なのです。物事を多角的に見る目とか、既成概念にとらわれない姿勢とか、自分自身で芯を持って考える頭とか、知識を与えるということと同じかあるいはそれ以上に教育が果たす役割として重要な「教養を身につけさせる」ということに信念を持って取り組んでいると、なぜか「変な学校」になってしまうみたいですね、世間的には。一方、これだけ風変わりだと好き嫌いがはっきり分かれる学校なんだろうな、とも感じました。


男子校である麻布を題材としている関係で、中高生という時期は女子と比べ精神的にまだまだ幼い男子が学校という環境から何を学び、一方学校側はどんな思いでそんな男子をサポートしているのか、という話題が中心となってはいますが、女子あるいは女子を持つ親御さんが読んでも十分得るものがある本だと思います。また、(麻布かどうかに限らず)いまどきの男子高校生の生態がじんわり伝わってくる生徒へのインタビューも多く掲載されており、男子高生の息子を持つ親としてもいろいろ参考になりました。


「受験」というプロセスとか枠組みのことはいったん忘れて、教育とか教養などといったことについて考えてみるのもいいのではないでしょうか。そういうきっかけになる本です。教養ってイノベーションなんだ!ってことがよくわかって、とても有意義な読書体験でした。


2015-01-21

「SAP本」へのお誘い

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2014年、その年末も押し迫った砌、「SAPの"いま"」を伝えることを目指した本が出ました。日経BPビジョナリー研究所さんによる書籍ですが、SAPジャパンの多くのメンバーも参加したちょっとしたプロジェクト(社内コードネーム「エスエーピーボン(SAP本)」)から生まれた、その名も『SAP 会社を、社会を、世界を変えるシンプル・イノベーター』。


まえがきでは、本書はいわゆるIT本や技術書の類ではなく、IT知識がないビジネスマンを想定して書かれたとあります。ところが一方で、上で述べたように「SAPの中の人」が様々な形で支援に入っているということもあって、本書の一関係者でもある自分から見てもなかなかチャレンジングな企画だったなと思います。なぜなら、この手の本づくりにおいては、関係者の関与が大きくなればなるほど「中の人が言いたいこと」すなわち中の人目線での総花的で宣伝調な内容が色濃い書籍になりがちだからです。実際、読み終えてみてそういった面がまったく感じられなかったと言えば嘘になりますが、それでもなお、SAPをよく知らない人、あるいは、知っているつもりでも「SAP = ERPの会社」と思っている方々へは、ぜひ一読をおすすめしたい、そう自信を持って言えます。


この本を読むと、以下のことがわかるようになります。

  • SAPとは何者か (企業紹介)
  • グローバル視点で見たSAPのポジション (どれだけの企業に活用され、どれだけのブランド価値があり、どれだけの「大きさ」の会社なのか)
  • SAPはもはやERPの会社ではないこと (じゃあいま何やってんの?どんな製品やサービス、活動をしているのか、の全容)
  • SAPのビジョン (どこへ向かって、何のために存在しているのか)
  • 会社を、社会を、世界を変革していくためにITが果たす役割やあるべき姿と、そこに対するSAPの考えと取組み、実績 (未来を見通してみる)

本の構成としてはChapter 1から9までという章立てになっていて、順番に読んでいけば上記のすべてがよくわかるようになっていますが、必ずしもChapterの順序にとらわれなくてもいいとぼくは思っています。「SAP」を理解しようとするとき、ぼくなら以下のような順番で読むかなあ、というごく個人的な切り口で各Chapterを整理しなおすと、以下のような5つの「群」になりました。この順で読み進める(あるいは興味のない「群」は後回しにするとか)のもいいかもしれません。


第一群:ERPの歴史とSAP 〜 Chapter 1、5

ITに従事する人なら大なり小なり知っている「ERP」。一方、業界外の方からすると何のことやらいまひとつわからないこのソフトウェアが、非常に明快に説明されています。ERPのあり様を解き明かすことはSAPの理念をひも解く作業とも言え、必読の章です。さらにここでは、SAPの他の重要な側面(サービスビジネス)や、ユーザー企業との愛と厳しさが同居する関係性なども紹介されています。またChapter 5では、SAPのアタマの中を覗き見ることができる「デザインシンキング(Design Thinking)」の説明と実例が続きます。

☆ERPを起源とする「The SAP」がわかる


第二群:広がるビジネスアプリケーションの世界 〜 Chapter 3、4

ERPやその他のITシステムによって管理される宝の山、大量の「データ」。これを十二分に活用するために近年SAPが拡大してきた事業領域とその価値について解説されています。ビッグデータ、モバイル、アナリティクスといったカタカナで表されるテクノロジーのビジネスへの活用や利用現場での意義について、実例とともに紹介されています。

☆ERP以外へのSAPの取り組みと広がり


第三群:クラウド 〜 Chapter 6、9

SAP社CEOのビル・マクダーモットによれば、「クラウド」の最もシンプルな定義は「ソフトウェアのすべての価値をサービスとして顧客が利用する方法」とのこと。ソフトウェアの価値をサービスとして提供、利用するクラウドは、単に技術が進化したという話ではなく、ERPが変革してきた企業の業務のあり方をさらにもう一段階高みに上げ、まったく新しい次元でテクノロジーの活用方法を世界ににもたらしました。これらの章では、技術論に偏らず、実業務での価値に焦点を当ててSAPのクラウドを語っています。

☆業務目線で語るSAPのクラウド


第四群:新たなビジネス価値を生む最先端テクノロジー 〜 Chapter 2

ここは他の章と比べて技術色が濃いです。なにせ最先端で超高速なナノでデジタル世界へのいざないを担った章ですので、ある程度は横文字、カタカナが増えてしまうのは致し方ないところ。ただ、ここで語られるSAPのテクノロジー(インメモリー/プラットフォーム)は技術的な優位性だけではなくて、その先進性が業務アプリケーションの効率化や高速化、さらには業務プロセスの変革までも引き起こしていく画期的なものであるという点で、IT従事者にはぜひ読んでいただきたいところです。

☆SAP HANAを掘り下げて縦書きにしてみた


第五群:ありのままのSAP 〜 Chapter 7、8

ここでは、「エコシステム」〜SAP自身のことと言うよりは、ビジネスパートナーや大学、スタートアップ企業との関わりや協業についてSAPの意外な側面もあわせて紹介されています。また、ドイツ発のグローバル企業であるSAPのビジネス文化や、「世界で一番最初にSAPを使っている」自分自身の製品利用とそのノウハウをサービスとして展開する話、さらには社会貢献活動への取り組みなど、バラエティーに富んだ内容でありのままのSAPを理解することができます。

☆SAPの素顔


以上、ご参考になれば幸いです。

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