作農料理人が見抜けなかった食品の偽装

昨年の暮れに、自然食品店が食品産地の偽装を行っていたニュースを題材に、偽装の背景について論じました。http://d.hatena.ne.jp/sakunou/20051227/1135699340

これまでもたびたび行われていた食品の偽装については、大きな要因の一つとして「見た目で判断する人間の選択基準」があり、食べ物なのに味で判別することがほとんど行われていない実情があります。ただし、私個人の場合は、土作りから料理を行うプロの仕事人として、これまで数々の偽装・インチキ食品・イミテーション食品を見破ってきました。

例えばある時、いつも使用している銘柄豚肉の味がおかしいことに気付きました。ところがそのスーパーは、私が使用している銘柄豚肉しか扱っていなかったのです。すべての豚肉のパッケージにはちゃんとその銘柄のシールが貼られていました。おかしいと思い、銘柄豚を納入している人に事情を話したところ、その人が精肉売り場のバックヤードに行ったときに、あるはずがない別の豚が仕入れてあった、と話してくれました。私の舌の方が正しかった一件です。

しかし、ほとんどの消費者はそれに気付かずに購入して、分からずに食べているのでしょう。私の主張の一部には、「味も分からずだまされていることに気付かないで食べている消費者にも一抹の非がある」というニュアンスが含まれています。また、そういうことに多くの人が気付くべきであるということを書いたのが、わしズムでボツになった原稿です。http://d.hatena.ne.jp/sakunou/20051221/1135176030

さて、本日の上毛新聞には、次のような記事がありました。
2006年1月24日(火) 付け 上毛新聞ニュース

製造ラベル間違える 上野村森林組合
 上野村森林組合が昨年夏から販売した中国産の煮豆に、製造者として同組合の名を表示していたことが二十三日までに分かった。県は改善を指導、同組合は店頭から商品を回収した。

 県食品監視課などによると、同組合は昨年九月から今月中旬まで、埼玉県内の業者が輸入した中国産の煮豆を販売する際、製造者の欄に同組合の名前を表記したラベルを張り、西毛地区の「道の駅」などで一キロ入り一袋を五百円で売っていた。

 輸入の加工食品は製造者表示の義務はないが、原産国名や輸入者名を表示する必要がある。県民からの指摘を受けた同課が調査、表示の「欠落」として今月中旬、同組合に対し改善を指導した。同組合幹部によると五百袋を販売、うち店頭に残っていた二百袋ほどを回収したという。

 同組合では村内の花豆を使った煮豆製造を計画しており、同幹部は輸入煮豆について「テスト事業として販売した」としている。製造者に組合の名前を表記した理由については「ラベルを間違えて張ってしまった」などと説明している。

 森林組合の指導に当たる県林業振興課は「農産物の加工など組合振興につながる事業ならば問題ないが、適正な形で行ってほしい」として二十三日、同組合に対し経緯の報告を求めた。

実はこの煮豆は、私が理事を務めている吉井物産センターふれあいの里でも扱っていた商品です。上野村森林組合の人間が売り込みに来て、味見をした上で扱いを決定しました。ふれあいの里でも前日に情報が入り、この商品は店頭から引き上げました。新聞では、「ラベルを間違えて張ってしまった」と報道されており、悪気はなかったということになります。紙面を読んだだけであれば、「今度から間違えずに表示をしてくれ」で済むでしょう。つい先日、私がふれあいの里の事務所で聞いた言葉がなければ、私もそれで済ましていたと思います。

この煮豆は、私から見ても味付けがよく、商品として悪いものではありませんでした。しかし、向こうから売り込みに来ている状況からして、当然ふれあいの里だけに売り込んだのではないだろうし、そうであれば生産体制もかなりしっかりしているはずだ、というのは食品に携わる仕事をしていればピンと来るものがあります。もちろん、原材料である花豆は、人口1500人足らずの上野村産でまかなっているはずがありません。たとえ他県から、いや中国から輸入しているとしても、これだけの加工をしているのなら大したものだ、と考えていました。しかしそこには驚きと疑いの要素も含まれています。ですから、折を見てこの工場にはぜひ見学に行ってみたいと思っていたのです。

そんなときに、この煮豆を納入している人(おそらく上野村森林組合の関係者)が納品伝票を持って事務所に入ってきたので、私はすかさず「この豆の原産地はどこですか」と質問したところ、予想に反してその人は「ほとんどが上野村産ですよ」と答えたのです。

意外な答えにびっくりしましたが、それで益々私は、見学に行ってみたいという気持ちが募っていきました。超高齢化の過疎の村で、自前の豆でこれだけの加工品を作っているとは、さすが上野村は何かが違う。そう思うのに十分な答えです。だいたい人口の少ない過疎の村で、チーズケーキやおからクッキーなど特産品を開発したとしても、地元産の不安定な原材料供給では、量産や通年出荷はまずできないのが常識だからです。

ところが今日の報道で、状況は一転しました。しかも報道では単なる表示間違いとされていますが、これまで私が確認してきた情報を総合的に判断すると、かなり悪質な偽装事件ではないかと考えられます。
まず、 中国産の煮豆に、製造者として同組合の名を表示していた ことから、豆を輸入して上野村で煮たのではなく、すでに煮豆になっているものにラベルだけ貼ったということになります。
また、 同組合では村内の花豆を使った煮豆製造を計画しており、同幹部は輸入煮豆について「テスト事業として販売した」としている ことから、まだ製造さえしていないのは確実であり、私の予想では、袋詰めさえしていないと思います。そのくせ私の質問には、「ほとんど上野産の豆を使用している」と答えたのですから、これは組織的に行われた偽装事件である可能性が高いというのが私の見解です。

*1/24付上毛新聞より