オフィシャルブックより(4)。スタッフから【1】。。


バラバラだったので。。
撮影の千葉真一さん・・準備稿を読んだあと、まず感じたのは、この作品の画は止まっているのではなく、常に動いている「躍動」を感じさせる作品だなということでした。ロケハンで監督と話した時に、監督も「疾走感とテンポを大事にしたい」と監督と同じ方向性だったので、ステディカムは常に現場に持っていくなど、動きに応じて機材や手法は敏感に対応しようと考えました。監督が「こういう画にしたいんです」という明確なビジョンを持っていたので色々とアイデアを出し合えましたし。。当時開発中だったハイスピードカメラを借りられ。。事前にテスト撮影して本番に臨むなどして準備から色々と試せました。
略。。5人の「今」「3年前」「10年前」の違い。。
 色味もイン前に提示してくれていたのでカメラリストさんとも方向性を確認できた。監督との時間が少なくてもその分密度の濃い話し合いが出来ました。
 小栗監督とは初めてのお仕事でしたが、監督がずっと大切にあたためてきた、そういう思いが台本から伝わってくるような、よくできた本でした。なので最初の段階で、監督に対する信頼が生まれていました。
 演出の部分では、その時のキャラクターの気持ちを読み込み心の変化の説明。理解度。計算。。どれをとっても26歳とは思えないくらい優れている監督でした。
でもプールのシーンで監督が撮影した時があるのですが。。その時はいたずら小僧みたいな笑顔で喜んでいて。しっかりとしていてもやっぱり若いんだなと、微笑ましかったですね。いやあ、体力もすごくて、もう少しバテてくれないとこっちがきついよ〜ってくらい、パワーのある監督でした(笑)。

照明の高坂俊秀さん・・「あずみ」「クローズZERO」「TAJOMARU」など、俳優・小栗旬さんとは何回も一緒の現場でやっていましたし、トライストーン制作作品も多く担当していましたので、インの一年くらい前から映画の話は聞いていました。今回は外での撮影が多かったことと、男の俳優が多いので、照明としてはそんなに作り込むことはなかったですね。最初に全体の色味の方向もきちんと決まっていたし、VTRだったので、作りすぎるとかえってのっぺりしてしまうので、基本は上からクレーンで明かりをつっくって、どこかにカゲができることでコントラストをつける方針で進めていました。監督からは「男はかっこよく、美沙はきちんと当てる方向で」ということだけは言われていたので、それを念頭に置いて作業しました。
気を付けたのは、亀頭たちから逃げるシーンの巧の車内ですね。昼間の車内は何もしないと暗くなりがちなので。略。。
個人的にこのカーチェイスのシーンは演出も面白いなと思ったし、ここは好きな場面ですね。
 俳優としての小栗さんは妥協しない役者という印象があります。でも我を張るタイプではない。自分ではこうした方がいいんじゃないかと思うこともあるだろうけど、とにかくストイックに、監督の求める演技を監督が納得するまで何回もやる、そういう意味での妥協をしない役者。熱い人間ですね。そういう面は監督・小栗旬にも本当に出ていたと思いますね。個人的にはそんなにカットを割ったり、寄りの画にしないで、舞台みたいに引きで芝居を見せたらどうかという話もしましたが、初監督であそこまで判断して画を作っていったことはすごい。本当に頑張ったと思います。
 現場で楽しみだったのは監督の靴。初日は雪駄だったけど、2日目から毎日違う靴を履いてきてました。「いい機会だから、家にあるの全部履いちゃおう。」って言ってましたが、オシャレで目立つ色のデザインが多かった。いったい何足持ってるんだ?と驚きの毎日でした。(笑)

美術の橋本創さん・・俳優・小栗旬さんとは『あずみ』『クローズZERO』『TAJOMARU』など、俳優・小栗旬さんとは何回も一緒の現場でやっています。今回、僕の師匠である林田裕至さんのところに話が来た関係で、僕が美術を担当させてもらいました。
まず、台本を読んだイメージでバーのラフ画を描いて、大阪で『ムサシ』公演中の監督に会いに行きました。そこで、メインの舞台は東京の郊外みたいな雰囲気を出したいねと確認し合いました。監督は最初、吉祥寺をイメージしていたけれど条件的に撮影するのが難しく、「人間味あふれる若者っぽい」匂いのする街をギリギリまで探しました。横浜のニュータウンになりかけたこともあったのですが、僕はどうしても違うと主張しまして(笑)、新旧が入り混じった町の雰囲気があった上野駅周辺をメインのロケ地にしました。宮城と秀人が歌っていたコンコースは、3年前落書きとか、フライヤーが貼られていたのに、今は綺麗になっている設定だったので、現場に落書きを書いては切り抜いて貼ったり剥がしたり慌ただしく作業しました。でも『クローズZERO』で慣れていた(笑)ので、そんなに大変では無かったです。
イメージに合う場所を探したといえば、バー「FOOLMEN」。吉祥寺にそれこそイメージに合う外観の建物があったのですが、撮影ができなくて。撮影に入ってもまだ決められなくてまずいなと焦っていた頃、五反田集会でロケハンに行くことになり、偶然、周辺を見て回っていたんです。その時、ツタの絡まったビルの壁の佇まいがイメージ通りの外観を持つ洋食店を見つけて、ココ!だと。
コンセプト全体として気にかけた点は、映画の色身が鮮度が低い画になると聞いていたので、それだと青みが強く出る可能性が高いので、鮮やかな青色は使わないことと、逆にセットの色はパキっとはっきりした色調にすること。ザラっとした、いい質感が出せたと思います。
個人的にこだわったのは宮城の部屋に美沙が飾る鉢植えです。3年後、巧たちが訪ねてきた時にはそれが枯れているんですが、映像ではわからないだろうな(笑)。

録音の小原善哉さん・・監督からは「芝居重視で、スピード感を出したいんで、セリフは食い気味で撮影したいんだけど」という話が最初にありました。これは諸刃の剣という部分があって、芝居はやりやすいけれど、編集で間を詰められないのでもっとテンポをあげたいという時に苦しくなるんですね。で、無理して繋げばしわ寄せは音の方に出る
いい画が撮れれば音はなんとでもしてやる」と言いつつ、少し心配でしたが、最終的に無理な編集がほとんどなかったのは、納得いく芝居が撮れるまで、監督が現場で粘っていたからでしょうか
録音部としては、上野のロケはきつかったですね。首都高速と大通りの雑音。ここは芝居の繋がりというより背景の音が繋がらなくて何カ所かアフレコしました。それからそれから墓地のシーンは蝉の声がうるさすぎて、撮影時からアフレコだなという感じでした。あと大変だったのは亀頭に追われた巧たちが逃げ回るショッピングモールの俯瞰カットかな。あちこち走り回るのを1カットで撮影するということと、アップで追いかけるカメラと全景を撮っているカメラがあったので、マイクポジションには苦心しました。録音部全員で物陰に隠れて狙ってます。
上野の演奏シーンでは、観客の雰囲気の素材は現場でも録っていたのですが、ダビング作業時に手拍子の音を足したいという話が監督から出て、急遽、その場にいたスタッフで録って足しました。そうするとライブの盛り上がり感がぐっと出て、すごくよくなった。実は上野の観客は誰も手拍子をとってないんですけど、ばれないようにうまくはめ込むことができた。監督の柔軟な発想に感心しました。『あずみ』シリーズや『クローズZEROII』などで俳優としての小栗さんの仕事をしてきて、それらのアフレコの時に「あ、この人は自分の芝居も、退いて冷静に見られるんだな。」と思ったことがありました。だから監督をやると聞いた時も不思議な感じは全然しなかったですね。小栗監督はやりたいことがはっきりしていて、そこに向かって、スタッフ、キャストを引っ張っていける現場でしたので精神的な辛さはなかったですよ。

スクリプターの中西桃子さん・・助監督の松永さんと『女の子ものがたり』でご一緒していたことから、今作の現場に声をかけて頂きました。スクリプターは、カットごとの繋がりをチェックしたり、所要時間の管理をしたり、何テイク目がOKだったのかなど撮影工程を把握する仕事なので、監督と密にコミュニケーションを取ることが多い立場です。小栗監督とは今回が初めてでしたけど、フランクで話しやすく、自分の考えをきちんと言う方なので、とてもやりやすかったですね。こうしたいというイメージをわかりやすく伝えることが出来る人だなと。それは俳優という仕事を通して、多くの人と「作り上げる」作業に慣れているという部分もあったと思いますが
バー「FOOL MEN」で京平が巧たちに「俺のこと情けないと思ってんだろ」と食ってかかるシーンがあったのですが、とてもいシリアスで、勝地さん自身入り込んだ芝居をしている場面だったんです。そういう緊張感あふれる中でカメラ位置を動かして撮影したので、勝地さんは同じ芝居を何回か繰り返さないといけなくて・・。その時、振り向くタイミングが違うと繋がりが困るので、そういう細かい指示をさせて頂いたのですが、役者さんは、皆さん、感情が昂ぶる芝居で細かい部分を言われるのってきついし、うっとうしく感じると思うんです小栗監督は俳優の気持ちや生理がよくわかっているので、「なんとかなるでしょ?」みたいな雰囲気で。そうなるとこちらも遠慮気味になってしまうのですが、監督が見てないところを狙って役者さんに細かい直しをお願いしましたね。監督に気づかれないようにしながら小さな戦いをしてました(笑)。
小栗組は体育会の部活のような現場でした。みんな熱くて、ひとつのものにパーッと向かっている感じ。監督自身が熱血漢で、スタッフの中に溶け込んでいましたし。かなり日灼けして、撮影を見に来た人に小栗旬だと気づかれなくなっていたのが、面白かった。個人的には、特に校庭のシーンが印象的に残っています。自分の高校時代も「こんなノリだったな」と思いだしましたね。

助監督の松永洋一さん・・『リターンマッチ』『名探偵コナン』シリーズで仕事をして以来。。仕事を離れても飲む仲で。。気心が知れてる関係。そんな旬から「僕が監督をするときは横に居てほしいい」と言わたことがきっかけです。
小栗監督はとにかくよく動くし、全てのセリフを覚えていて。。しっかり自分の撮りたい画。芝居を示していたと思います。でも敢えていうならもっとシビアに芝居をつけてもいいと思うところもありました。
「監督。本当にOKですか?」と訊くと「え?今のダメ?」と言いながらもその場できちんと「これで大丈夫。」という最終判断を下すことももちろん多かったですが、翌日あたりに「いろいろ考えたんですけど、やっぱりあれでOKだと思います」と返してくる場面もありました。そういうキャッチボールの出来る人間ですね
また現場でこっちの意見を受け入れた時は、「じゃあ、もう1回やりましょうか?」と、なぜか敬語になる(笑)。そういう部分も人間くさくて面白い男ですね。
監督という作業は事前準備が大切ですが、イン直前までドラマ撮影をしていたので、ずいぶんもどかしかったでしょう。初経験でわからないこともあっただろうし、そういう引け目もあって、初めのうちはスタッフがいいと勧めることに対して遠慮して言えなかった部分もありましたね。そんな時に「言いたいことはちゃんと言いなよ!」と、あえてシビアに接することも僕の役目だったと思います。
小栗監督ということで、普通は出来ないことがいくつもOKになりましたね。例えば、美沙が旅立つ成田空港第1ターミナルのシーンでは、飛行機がよく見える所にコーヒーショップがあって。その辺で撮影すると営業の邪魔になるのであまり貸してもらえない。で、ロケハンの時、ダメ元で監督と一緒にお願いしたら、何とOKが。あらためて人気者が監督なんだと実感しました最後にこれだけは(笑)。なによりもびっくりしたのは、俳優小栗旬は朝に本当に弱いのに、小栗監督は現場に1回も遅刻をしなかった。すごいことだと思います(笑)。

共同プロデューサーの佐谷秀三さん・・この映画は、監督の小栗が、プロデューサーの山本又一郎氏に、脚本家の武藤将吾さんが書きあげた第1稿を読んでもらった時から本格的に始まったわけですが、その脚本の素晴らしさ、面白さに山本氏はじめ、僕も驚きました。読んだ瞬間から、その完成度の高さに、これはいい映画にしなくてはいけないとも思ったわけです。
スタッフィングから、キャスティング、すべてにベストを追求し、準備を進めました。勿論、準備段階でもいろいろと問題はありましたが、最高のスタッフ、キャストが揃い、着々と撮影に向かっていきました。
しかしながら決定稿はクランクイン直前まで上がりませんでした。小栗監督も脚本の武藤さんも僕らプロデューサーも、「すっ飛んでいていい部分と、イキすぎ」とのストーリーバランスや「エンタテイメント性」にこだわって、より面白いと思う方向を徹底的に考えようよ、という姿勢をギリギリまで貫いたからでした。特に日本では、若者にアピールできるギャングとか、ヤクザもの=クライム・ムービーがないので、亀頭に追いつめられる巧たちの感覚がお客さんにとってリアルなのかどうか悩み、途中、本作りは様々な方向を模索しました。そして、紆余曲折を経た結果、「原点」である第1稿には、描きたいことがすべての要素がちゃんと詰め込まれていることを再認識し、それを深化させていったのです。
キャスト、スタッフの皆さんをやきもきさせて申し訳なかったけれど、武藤さんが最後まで僕らの意図を汲んで書きなおしてくれ、面白い本に仕上げてくれたこと、キャストやスタッフが新人である小栗監督のもとで力を尽くしてくれたこと、事故なく撮影を終えられたことにホッとしています。
また撮影後のポストプロダクションも最高のスタッフが終結し。。監督・小栗を中心に徹底的に頑張ってくれました。もちろん映画に完璧はありません、でも携わってくれた人たちすべての力で最高の出来で皆さんに観て貰える作品が完成したとことに自負しています。