『曲矢さんのエア彼氏 3』(中村九郎/ガガガ文庫)
- 作者: 中村九郎,うき
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/04/20
- メディア: 文庫
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「私はこの目で見えるモノしか信じない、現実主義者ですよ」
(本書p35より)
エアという見えるはずのないものが見えていて、それが見えなくなったときには再び見えるようになるように努力してきた木村くん。そんな彼が直面したのは、見えるはずの彼女が見えないという皮肉な現実。本当の彼女=リアル杏子と向き合うために、ついにエア杏子との別れを決意する木村くん。しかし、十年という時をエア彼女と過ごしてきた木村くん。そう簡単にエア杏子と別れることなどできません。そんな彼に対して曲矢さんは、エア彼女と別れるために自分と結婚するしかないと提案するのですが……。といったお話です。何を言ってるのか分からないかもしれませんが、ホントにそういうお話なのです。さすがです。
『曲矢さんのエア彼氏』というタイトルで、登場人物紹介欄を見ますと巽幸雄が「曲矢のエア彼氏」と紹介されていますけど、結局のところ、曲矢さんのエア彼氏は木村だったということなのでしょう。
木村くんに対して曲矢さんが提案した「俺と曲矢がデキちゃった作戦」はいつの間にか「俺と曲矢の間に何かがデキちゃった作戦」に変わってしまい、そしたら二人の間に”ね子”というエア子供(?)がデキてしまうという、相変わらずの斜め上の展開には唖然とさせられますが、冷静に考えると少し怖いです。エア妊娠は想像妊娠と紙一重ですし、「育みかけた命」であり「パパとママを探していた天使」だというね子という存在(?)は水子(水子 - Wikipedia)を想起させます。つまり、ね子=否子で、そう考えると一見トンデモのようでありながら実は相当にホラーな展開なのではないか、といのも決して考えすぎではないと思います。
エアとかリアルとかいったハチャメチャな二元論がクロスオーバーしながら、木村くんに対して認識論について切実で深刻な問題を提起します。そこで選ばれる解決策も理屈も相変わらずぶっ飛んだものではあります。ですが、そこには苦悩と決断が確かに描かれています。自らの妄想との決着。それは、過去との決別と未来との対峙という、誰もが挑まなくてはならない試練です。
エア彼氏エア彼女といういかにもイロモノでトンデモな設定から、こんなに綺麗な結末を迎えることになるとは思いもよりませんでした。中村九郎という作家は本当に得体というか底がしれませんね(笑)。
【関連】
・『曲矢さんのエア彼氏』(中村九郎/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館
・『曲矢さんのエア彼氏 2』(中村九郎/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館