『うちのメイドは不定形』(静川龍宗/スマッシュ文庫)
- 作者: 静川龍宗,森瀬繚,文倉十
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2010/06/10
- メディア: 文庫
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テケリさん、という名前からピンとくる方もおられるでしょうが、本書はクトゥルフ神話(参考:クトゥルフ神話 - Wikipedia)を下敷きとしたお話です。特に、H・P・ラヴクラフトの「狂気の山脈」(創元推理文庫『ラヴクラフト全集4』収録)からの影響が色濃くて、それだけ読めば本書の元ネタはだいたい理解できるという親切設計になっています。”大きな二回の戦争”とか約1億5千5百万年前に”以前の主人(グレートオールド・ワン)”に反抗してストライキを起こした、とか実はそのまんまですので、興味のある方は是非読んでみると面白いかと思います*1。
クトゥルフもの、特にラブクラフトの作品においては、語り手が禁断の知識を追い求めていくうちに徐々に恐怖に飲み込まれていってしまうというお話がほとんどです。そこで、理性を保つため、あるいはそれを記録して誰かに(よせばいいのに)そうした知識と経験を伝えるために、「手記」という形式によって物語が語られることになります。つまり、語り手である主人公が知識を得ることで破滅への道を歩んでいってしまうというのがひとつのパターンだといえます。
ところが、本書において様々な知識を吸収していくのは人外のテケリさんです。人間界の知識や常識を身につけて馴染んでいくテケリさんと、それをほのぼのとした気分でみつめるトオル。まさに通常のクトゥルフ作品とは真逆のお話なのですが、そこが面白いところです。
その一方で、人外であるテケリさんの存在によってクトゥルフものらしく神経をすり減らして追い詰められることになるのは同級生の金髪ツインテール(←怪獣の名前にあらず)魔術師さんです。テケリさんの存在に気付いた彼女はトオルやテケリさんに魔術で攻撃を仕掛けますが、だけどそんなことは当のトオルやテケリさんは露知らず。ここら辺の関係性はいかにもクトゥルフものらしいといえばらしいといえますが、そんな関係性が解消されることになる終盤の展開はバトルのようであってバトルでなくて、どちらかといえばラノベ的というよりもクトゥルフ作品的な着地をしています。その点もまた個人的に好印象です。
どうやら続きも出るみたいなので、とても楽しみです。
- 作者: H・P・ラヴクラフト,大滝啓裕
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1985/11/29
- メディア: 文庫
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*1:全部が全部クトゥルフ神話が元ネタというわけではありません。例えば、バロールはケルト神話が元ネタです(参考:バロール - Wikipedia)。