『茶柱倶楽部 1』(青木幸子/芳文社コミックス)

茶柱倶楽部 1 (芳文社コミックス)

茶柱倶楽部 1 (芳文社コミックス)

本物の「お茶」の味…たいして興味のない人にこそ飲んでほしいの
専門店とか講習会に来るような人は自分からどんどん飲むでしょう?
だから こっちから行く!
(本書p28より)

 将棋漫画『王狩』1巻と同日発売の本書は、移動茶店で人探しをしながらあちこち旅するお茶漫画です。
 「喫茶店」は何店もありますが、喫茶店が売りとしているのはコーヒーの場合がほとんどで、文字通りお茶をメインとした喫茶店というのはほとんどありません。その理由として、まず作中で指摘されている、”「茶葉」は売り物でも「お茶」は売り物じゃない”(本書p121)、というのは感覚として確かにそのとおりでしょう。実際、プロが淹れたお茶を飲む機会など滅多にありません。それと、これまた作中で触れられていますが、ペットボトルより高いものを飲もうとしない、というのもこれまたそのとおりだと思います。
 また、ペットボトルのお茶の普及も理由として挙げられています。コーヒーは缶コーヒーが早くから普及しましたが、缶コーヒーとコーヒーの味は正直言ってかなり異なります。なので、缶コーヒーがいくら普及しても喫茶店でコーヒーを飲む価値はあります。そんな缶コーヒーの味に比べれば、ペットボトルのお茶はそれなりにお茶の味がします。でも、やっぱり茶葉から淹れたお茶のほうが美味しいに決まってますし同じ茶葉でも入れ方ひとつで味が変わります。それは単に淹れ方の上手い下手による美味い不味いというだけでなく、熱いお湯で淹れれば苦味が強くて冷たい水でゆっくり出せば甘みが強くなる、というようなお茶の淹れ方というのもがあります。また、お茶の種類も全国各地にたくさんあります。そんなTPOに応じたお茶の飲み方を、本書は楽しく分かりやすく教えてくれています。
 本書は『王狩』とリンクしています。「第六煎 なごませないお茶」では『王狩』の登場人物・園川圭一が関西奨励会の若手のホープとして三段リーグを戦っている姿を垣間見ることができます。『王狩』1巻ではエレベータでの出会いから園川の出番はまったくないので(笑)、『王狩』読者の中には気になっている方もおられるでしょう。そうした方には本書を読まれることをぜひオススメします。
 ちなみに、このお話は将棋ヲタ向け(あるいは『王狩』読者向け)というだけではなくて、本書の中でも重要なアクセントとなっています。通常、お茶を飲むのは安らぎとかなごみとかくつろぎとか、そういった「癒し」を求めて飲むのがほとんどでしょう。ですが、このお話はタイトルどおり「なごませないお茶」がテーマです。では何のためにお茶を飲むのかといえば、それは本書を読んでのお楽しみです。
 ただ、例えばNHK杯テレビ将棋トーナメントでは対局中にお茶を飲む棋士の姿を見ることができますが、そこでのお茶を飲むタイミングは本当に様々です。一手目を指す前に気勢を整えるために飲むこともあれば、水分補給のために飲んだり気持ちを落ち着けるために飲んだり、そして、投了の準備としてのどを湿らせるために飲んだりと。将棋の対局ひとつを取ってみてもいろんなお茶があります。
 作法や礼儀にとらわれない自由で美味しいお茶のいろんな楽しみ方を知ることができるオススメの一冊です。
【関連】『王狩1巻』将棋講座 - 三軒茶屋 別館

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