「Once in a blue moon」(41)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは 「Once in a blue moon」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
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☆ やるせない気持ちで麻美を見送った庄司はそれからも蓮のことが頭から離れなかった。
庄司の想い、過去の振り返りです。



















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 41 ‥…━━━☆















”『だから、蓮は風早さん達に何か負い目を感じているような気がしたんだ』”


彼女は本質的に何かに気付いている。でもそれが何かが解らない。

蓮さんはきっと今も負い目を抱えているだろう。

だが・・・その負い目は過去に対するだけの負い目なのだろうか?


* * *


「どうしたのぼーっとして」

「え?」


沙穂は生まれたばかりの子どもをあやしながら不思議そうに聞いた。

庄司は沙穂の言葉で食事中に自分が考え込んでいたことに気付いた。家ではさすがに

医者の自分ではいられないらしい。


「いや・・・蓮さん元気かと思いまして」

「何、急に。そうだね〜全然会ってないもんね。帰って来ないし。彼女とラブラブや

 ってんじゃない。ほんと良かったよねぇ〜〜」

「・・・そうですね」


その時、沙穂がいきなりプッと吹き出した。庄司はその姿に目が点になる。


「あっごめん。何か思い出しちゃって」

「何を?」

「いや・・恥ずかしいから。絶対他には口が裂けても言えない」

「だから何ですか?」

「笑わない?」

「はい。笑いませんから」


しつこく言う沙穂に呆れながら庄司が返事すると、沙穂は恥ずかしそうにそのことを

口にした。


「実はね・・・美穂が色々あったころ、蓮は爽子ちゃんが好きなんじゃないかと思っ

 たことがあったんだよね・・・ねっ?笑えるでしょっ」


がちゃんっ


「大丈夫!?」

「だ・・・大丈夫です」


庄司は思わず持っていた茶碗を机に落とした。内心バクバクさせながら話の先を促す。


「え・・・それで、なぜ?」

「本当に私の想像だよ。だってあの頃の美穂を私が一番理解している自信があったか

 ら、美穂はおかしかったけど、女の部分だけは本物のような気がしたのよ。本能?

 て言うのかな。だから爽子ちゃんに嫉妬したのかなって」

「・・・・」

「もちろん、蓮からはそんなそぶりひとかけらも感じなかったけどね」


沙穂は”忘れて!!”と一人でツッコんで笑い飛ばすと向こうの部屋のベビーベッドに

子どもを寝かしつけに行った。庄司は妻の背中を茫然と見ながら自分の曖昧だった感

覚に確信を持つことになる。


「・・・さすがですね。僕の奥さんは」


庄司はそう言って苦笑いすると、あの日の蓮の姿を思い浮かべた。



* *


あれは8年前―

仙台は七夕祭りが終わり、お盆真っただ中の時期だった。この日も蓮さんは美穂さん

を見舞って病院に来ていたようで、玄関で誰かを見送る蓮さんの姿を捉えた。蓮さん

は不思議にその人物がいなくなってもそこに佇んでいた。


「!!」


それは一瞬だった。私は声を掛けることもできなかった。思わず壁に引っ込めた身体。

その場にいた蓮さんの目は今まで見たことのない目だった。

友人たちを見る目でもなく、美穂さんを見つめる目でもない。


恋・・・焦れる熱い目


(え・・・なぜ?)


庄司は必死で目を細めて、去っていた人物を確認する。

それは長い黒髪の女性。


一瞬頭が真っ白になった。こんなことがあるわけないと。でももしそうだとすると

すべての運命が狂ってくる。

庄司は早鐘を打つ心臓を鷲掴みにした。蓮の背中に感じる、空虚感、孤独感、絶望感。

彼はすべてにおいて無機質だった。でも、今明らかに色を感じた。感情のある瞳。


ドクンッッ


神様は残酷だ。なぜまだ彼に重い試練を与えるのか。もう十分背負ってきたというのに。


その目は一瞬で消えた。でも庄司には永遠のように思えた。

その後その目が庄司の頭から離れなかった。


* *


彼が北海道転勤になったと聞いた時、誰よりも動揺したのは私だろう。

神様は彼をこれからどうしようとなさるのか。

人は誰でも幸せを求めている。でも苦しくなることが分かっていても止められない

感情がある。そしてもう一つ、蓮さんは大きな重荷を抱えてしまった。

それは蓮さんが純粋に自分の幸せを掴もうとした結果か?

彼女を巻き込んで罪の十字架を重くすることに蓮さんなら気付いていたはずなのに・・・?


本当は自分の中で確証があった。でも無意識に曖昧にしたかったのだ。

そうでもしなければあまりにも重い。



”『蓮の幸せって何だと思いますか?』”



蓮さんなら周りの人間が幸せであることを願うだろう。でもきっと周りの幸せを願え

ば願うほど自分を追いつめていくことに気付いてないのだろうか?


貪欲に自分の幸せを願って欲しい。それが自分の幸せだと胸張って言って欲しい。


だが・・・。


この先も蓮さんは自分の想いを葬るだろう。誰に告げることもなく・・・。しかし、

彼女は早かれ遅かれ事の本質に気付く。気付かない方がどれだけ幸せかと思う。

もし彼女が気づかないのであれば、その幸せを蓮さんは全うしようとするだろうから。


でも・・・未来は誰にも分からない。だから今は二人の未来が繋がっていることを願

うことしかできない。もし乗り越えられたのならその先の未来は明るいはずだ。


「一体・・・この先どうなっていくのだろう・・・」


庄司はそう呟くと、せつない目をして夜空の月を眺めた。



その夜、麻美もホテルの窓から同じ月を見ていた。様々な想いを交差させながら、麻美

の仙台の旅が終わろうとしていた。






「Once in a blue moon」42 へ



















あとがき↓
これでとりあえず麻美仙台編終わり。庄司先生はまた出るかも?出ないかも?次は
やっと爽子を出せます〜〜〜〜っ!!うれし。やはり爽子を出せないと書いていて
楽しくないのです。爽風萌えの私としては。