森林風致 ナラ林

 針葉樹と広葉樹の樹形は、円錐形とほうき型で入れ込むように違っている。針葉樹でもアカマツは傘型で円錐形とは言いがたく、広葉樹にもとほうき型とはいいがたい樹種もあるだろう。針葉樹はカラマツを除き、恒葉が多く、広葉樹は亜熱帯ではほとんど恒葉で、暖帯では落葉が多くなってくる。
 私の体験で、広葉樹林の美しさを感じたのは、北海道の秋の紅葉の林内であった。何段もの階層を構成する多様な広葉樹の葉が光を透かして重なりあって、様々な色彩を織り成している林内は別世界を生み出していた。しかし、紅葉は一瞬のものであり、枯木立に、新緑と変化しながらも、何気ない緑色の中で、木肌だけが樹種の特徴を示していた。
 ミズナラは北海道の紅葉にも混在していたと想うが、伊那谷で見たのは標高を少し上げた場所にあった。最初は切り跡に藪状態であったので、暑苦しい場所の印象であったが、それから20年後、ミズナラの株立ちの一斉林となっていた。林内は暗く、林床はミヤコザサが繁茂する状態となっていた。株立ちの幹が自然間引きによって減少し、藪状態から森林となったのであろう。まだ、競争が株内と樹間で生じており、枯死していく株の幹が各所に見られた。株内の萌芽した幹は間引かれるへれども、株間の競争では株を枯死させるまでにはいかないようで、非常な過密状態が林内を暗くしているといえる。後に人為的な間引き方法を森林組合の現場の人と検討したが、間引く株と間引かない株などの株間の格差を作ることで、より優先する樹木が生育することで、間引きを行った。伐採した幹は、市の事業でボランティアによるキノコの菌を打ち込む作業を行った。伐採跡地に再生したミズナラ林は同齢の一斉林となり、過密な状態で、以前の天然林の状態に戻るには時間がかかるであろう。しかし、一斉林のミズナラ林も秋の黄葉に逆光で光を透かして、美しさを感じさせる。
 同じ山地でも山麓にいくとミズナラは見られなくなり、それに代わってナラ類ではコナラが出てくる。伊那の平地や斜面樹林にもコナラである。コナラは葉が硬く、幹も硬い。以前にクワガタムシの生息を調査する学生がいて、ついてまわったが、コナラ林にはクワガタムシは生息していないようだった。幹の軟らかなクヌギの朽木にクワガタムシの幼虫の生息が見られたが、伊那ではクヌギの林も少なかった。
 飯田方面ではアベマキが多くなると言うし、松本ではクヌギを多く見かける。霧が峰で森林化で問題とされるのが、カシワである。同じように見える広葉樹も地域によって特徴的に棲み分けているようである。それぞれで葉の大きさ、形はもちろん、樹形を構成する幹の別れ方、枝の出方が相違していて、地域の森林景観の特徴を作っているようである。