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2009-02-14

命を植える/『夏の庭 The Friends』湯本香樹実


「死」に興味を覚えた小学生3人組が、近所に住む独居老人の観察を始める。その目的は「死ぬ瞬間を目撃する」ことだった。老人と少年達の交流を通して死の意味を探る。科白とディテールが巧み。隠喩も見事。


 老人は少年達に庭の草むしりをさせる。広々となった庭に何を植えようかと皆で相談をする――


 アネモネ、カタクリ、ヤマブキソウ、キツネノカミソリ、キリンソウ、ツリガネソウ……。

 おじいさんはぼくたちの知らない草花の名前を、次から次へと並べた。ぼくたちはそれぞれの花畑を夢見ながら、何もなくなった庭に降る雨をただ見ていた。すっかり生まれ変わり、新しく何かが根づくことを待っている土に、天から水がまかれる音を耳を澄まして聞いていたのだ。


【『夏の庭 The Friends』湯本香樹実〈ゆもと・かずみ〉(新潮文庫、1994年/徳間書店、2001年)】


 庭に蒔かれる種は「命」そのものだった。循環してとどまることを知らない水も、生命の流転を象徴しているかのようだ。その後、庭にはコスモスの種が植えられた。コスモスは秋に花を咲かせる。老人の晩秋にふさわしい花といえよう。「すっかり生まれ変わり、新しく何かが根づくことを待っている土」という文章が絶妙。


 少年達と老人との出会いは、生と死との巡り会いだった。少年達が老人から受け取ったのは「命のバトン」だった。死の厳粛さが、生を見つめ直させる。死を意識し、思いを馳せ、深く自覚した時、人は真っ当な道を歩み始める。生命活動が消失した瞬間、亡き人は永遠性を伴って人々の胸に刻印される。死はゼロでもあり無限でもあるのだ。

夏の庭―The Friends 夏の庭―The Friends (新潮文庫)

(※左が単行本、右が文庫本)

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