シュロック・ホームズの迷推理 ロバート・L・フィッシュ
知って驚く意外な事実。
同じ著者の「シュロック・ホームズの冒険」(ハヤカワ・ポケットミステリ) 初読は1969年(amazonのデータは間違い)のことだった。実はパロディというジャンルがあまり好きではない。はっきり言うと嫌いである。他人様がきちんと完成させた原典(パロディになるくらい有名なもの。でなければただのパクリだよね)を利用して、茶化して、なにか賢いことでもやった風に装う。そういうのって虫唾が走るから。
ところが、この作品は突出していた。短編集だけど、それがどれも感心するほど面白い。実在の超有名人物を登場させていじりまくる「画家の斑紋」「ダブルおばけの秘密」、特殊相対性理論が凄まじい結末を招く「アダム爆弾の怪」。そして、文字通り抱腹絶倒の解決「贋物の君主」。たかがパロディと言った軽い気持ちで読んでいたので、本当に打ちのめされるようなショックを受けた。今まで聞いたこともなかった作家が、この瞬間、おれの中で大きな存在になったのだ。ところが――
フィッシュの他の作品はなかなか見つからない。amazonなんて便利なものもなかったから、大きな書店に入ったときこまめにチェックしていて、やっと「懐かしい殺人―パーシバル卿と殺人同盟」に出会ったのは実に1972年のことだった。売れないミステリ作家が3人、これまで展開してきたフィクションの世界を現実に敷衍して、殺人代行業を営むという、これまたかっ飛んだお話。後半は法廷劇になり、これまたおかしな進行をするという佳作だった。
でもね、あのシュロック・ホームズの衝撃に比べると、洒落てはいるけどなんか物足りない印象なんだよねえ。そして、そんなこと自体もう忘れた頃、本書をみつけたのだ。
冒頭の「アスコット・タイ事件」以外被った収録もないし(しかし、ハヤカワ版と微妙に翻訳が違っていて、なおかつ読みにくい)、シュロック・ホームズ物以外の作品も収録されていて充分に愉しめた。と、本書の評価は自分の中ではここで終わっていたのだが――
本書も今回の書斎雪崩から無事回収した書籍の一つ。なつかしさもあって、読み返していて、ふと読み落としていた一節に気がついた。といっても本編中の文章ではない、パラパラ読み飛ばした解説文の一節なのだ。
いや、驚きました。本書に収録されている「クランシーと飛び込み自殺者」。この短編の主人公、クランシー警部補シリーズの長編第一作“Mute Witness”が、あのスティーヴ・マックィーンが主演した「ブリット」の原作だというのだ。
いやあ、全く存じませんでした。そして、今回雪崩からの救出がなかったら、おれはロバート・L・フィッシュを粋な小品を書いた作家とずっと位置付けていたに違いないのだから。
シュロック・ホームズの迷推理―英米短編ミステリー名人選集〈7〉 (光文社文庫)
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シュロック・ホームズの冒険 (1977年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
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懐かしい殺人―パーシバル卿と殺人同盟 (1972年) (ペガサスノベルズ)
- 作者: ロバート・L.フィッシュ,菊池光
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お熱い殺人―パーシバル卿と殺人同盟 (1972年) (ペガサスノベルズ)
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