『泥棒成金』

この週末は、ブルーレイで『泥棒成金』を見た。

泥棒成金 [Blu-ray]

泥棒成金 [Blu-ray]

1955年のアメリカ映画。
監督はアルフレッド・ヒッチコック
主演は、ケイリー・グラントグレイス・ケリー
本作はビスタビジョンで撮影されており、半世紀以上前の映画にも関わらず、素晴らしい画質である。
(※ビスタビジョンとは、ワイド・スクリーンの一方式で、通常は縦に走らせる35ミリフィルムを横に走らせ、2倍の画面面積があるため、非常に画質が良い。ただし、撮影機材が大型で手間が掛かるので、すぐ下火になった。昨今の映画の多くは「ビスタ・サイズ」と呼ばれるが、これは、画面の縦横比だけビスタビジョンに倣っているが、実際は通常の35ミリスタンダード・サイズの上下にマスクをしているだけなので、本来のビスタビジョンとは違う。)
フランスでロケをしたようで、とにかく美しい風景が見事に記録されている。
航空撮影やカーチェイスなどもあり、当時としては革新的だっただろう。
ラストの舞踏会の絢爛豪華な衣装も、テクニカラーの発色の良さを見事に活かしている。
おかげで、本作はアカデミー賞撮影賞(カラー)を受賞した。
ただ、内容はちょっと物足りない。
サスペンスという程のサスペンスはないし、どちらかと言うと、ケイリー・グラントグレイス・ケリーのロマンスに主軸が置かれている。
それも、美男美女による、いかにも50年代ハリウッド黄金期の出来過ぎたロマンス。
まあ、映画で夢を見る分にはいいのかも知れないが、我々のような平凡な市民にとっては、共感するのは無理だわな。
細君は、かなり文句を言っていた。
導入部は、なかなかサスペンスフルで面白い。
かつて「キャット」という呼び名で宝石泥棒として有名だったジョン・ロビー(ケイリー・グラント)は、今は引退して、悠々自適な生活を送っていた。
ところが、ある日、彼の手口とそっくりなやり方の宝石泥棒が現われ、ロビーは警察に疑われ、追われる身となってしまう。
冒頭の警察との知恵比べとカーチェイスは、なかなかの見せ場。
何とか無実を晴らそうと、ロビーは昔の仲間から保険屋を紹介してもらう。
宝石泥棒がいかにも狙いそうな、高額の保険を掛けている者のリストを手に入れるためだ。
本来、こういう映画では、犯人は誰だろうという謎解きが中心になるものだ。
だが、本作はそうならない。
ロビーが目を付けたのは大富豪のスティーヴンス親子。
母親と年頃の娘。
しかも、大量の宝石を持っている。
ここから、この娘(グレイス・ケリー)とロビーとのロマンスになる。
それが、かなり唐突なもので、しかも、最初から結論が見えているため、どうにも楽しめない。
ヒッチコックは、自分のお気に入りのグレイス・ケリーを美しく撮ることばかり考えているようだ。
まるで、彼女のファッション・ショーである。
確かに、彼女は非常に美しい。
ファンにはたまらんだろう。
でも、それだけなんだよなあ。
その後の展開は、犯人が誰か判っても意外性もないし、面白いとは言い難い。
何だか、大スターを共演させて、ハリウッド流の、中途半端な娯楽作を撮ってしまったように思える。
あっと驚く展開のヒッチコック映画を期待していた身には、ちょっと肩透かしだった。