VSシステム東方セットプレビューその3「鈴仙・U・イナバ/ルナティックヘア」

今回のプレビューカードはこちら、「うどんげ」こと鈴仙・優曇華院・イナバです。別にカードそのものの内容はいたって普通ですが、ちょっとこのカードイラストが東方ファンにとって許容範囲かどうかは製作者として未だに不安があります……

鈴仙・U・イナバ/ルナティックヘア "Reisen U Inaba/Lunatic Hare"
コスト:5
チーム:幻想郷
潜伏有無:可視のみ

飛行、レンジ
ATK:11
DEF:7

 鈴仙・U・イナバに対して防御しているキャラクターは支援を失い、支援を得られない。
 鈴仙・U・イナバは支援を得られない。

TPJ-026 イラストレーター:わたなべしんや


東方ファンの中にはこの一枚を見ただけで動揺されている方もおられるかもしれません。これまで何とか隠そうとしてきましたが、我々の東方セットに貫かれているギャグセンスは、多分にこっちの方向性を含んでいるのです。その弁解を兼ねて、このカードがなぜこのようなデザインとなったかを順を追って経緯を説明していきたいと思います。


うどんげのカードは、ゲーム面でのカード内容はかなり早くの段階で完成していた一枚でした。それはキャラに対して私が(正しいかどうかはともかく)ハッキリとしたイメージを持っていたからです。私のうどんげのイメージはまだ永夜抄が最新作だった頃に、吉澤師匠から聞いた情報によるものでした。そのとき吉澤師匠はゲームをプレイ中で、うどんげとのボス戦の真っ最中。


吉澤師匠「このうどんげっていうキャラが面白い奴で、この弾幕が『座薬』って呼ばれてるんすよ」
シミヅ「『座薬』?!そりゃまた凄い呼び名だけれど、何でまた……」
吉澤師匠「こいつの弾幕が後ろからゆっくり飛んでくるタイプで、なかなか嫌らしくて避けづらいんすよ。しかもこのカタチ、白くって先の尖った銃弾型してるじゃないすか。これはもう座薬以外の何者でもないってことで」
シミヅ「たしかにこれは慣れないと避けるのきつそうだわ。そう綽名で呼ぶ理由もわかるなぁ」
吉澤師匠「だからみんなこいつがゲームや同人ネタで出てくると叫ぶんっすよ、『座薬キター!!』って」


そのときに見たスペルカードの名前から「狂気の三月兎」というモチーフであることも知り、その二つのイメージが記憶に強く残っていたためカード化するにあたってデザインはすぐに思いつくことはできました。相手に逃げ場を与えない攻撃は支援無効化能力、しかし狂気の兎なので自分自身はバーサーカー的な超攻撃シフトで!

ということで決定はしたのですが、その後白日君から資料本・文献を渡されて読んでみたところ、意外にもうどんげ本人は普通で素直な性格のキャラであることを知って驚きました。狂気を操るというのも本来のニュアンスは精神操作というわけでもない。本人の性格はむしろ小市民的な善人なのに、身勝手でいい加減なボス(輝夜)と言う事を聞かず腹の底では何考えてるのか知れない部下(てゐ)に囲まれた苦労人である、と。あまりにもカード化の際に想定していたイメージとかけ離れているので、その「中間管理職の悲哀」的な面を表現する別のカードを作ろうかとも思ったほどでした。
結局その部分は次回以降の宿題ということで棚上げにしたのですが、後に思わぬ形で戻ってくる事になります。


その後、イラストレーターの募集と交渉に入った時期のことです。わたなべしんや君はこの二年間に個人・サークルの活動を問わず意欲的に絵を描き続けていて、かなりこちらにとってもイラストをお願いしたい才能の持ち主でした。そこでお願いしてみたところ、東方作品についてはよく知らないがとりあえず描いてみてもよいという回答だったので、うどんげのキャラカードを依頼しました。
わたなべ君の仕事は速く、次の日にはキャラのデザインをネット上の画像から調べ上げて、下書きのラフを見せてくれました。それらの絵は主に立ち絵風ポーズのうどんげで、彼のデフォルメの効いたキュートな画風にアレンジされていて絵の構図の面からもカードイラストに丁度良いものでした。ここ半年らき☆すたキャラを描いていたことで磨かれたテクニックが存分に発揮されています。


シミヅ「うん!こんな感じでオッケー。うまくイメージ出てると思うよ」
わたなべ「……でもなんか普通の絵で、物足りないんですよね。これぞ、っていうポーズがあればもっときまった絵になると思うんですが。
 ところで、調べてみたらうどんげってなぜか指鉄砲をこちらに向けたポーズの絵が多いですね。あれってなぜなんですか?」
シミヅ「えっ?そうなの? ……知らなかった。といっても私も東方については勉強途中だし、わからん。本当なの?」
わたなべ「ええ。(紙にそのポーズのラフを描きながら)こんな感じで」
シミヅ「うむむ。もしかしたらそうやって指から何か撃つスペルカードを持っているのかもしれないが、そんな能力があると聞いた覚えはないし……(シミヅ、考えながら両手でその形を作って色々ポーズを取ってみる。鬼の角とかラッパー調とか)
 ……うどんげ弾幕は『座薬』って呼ばれてるし、まさかこれ(七年殺し)ということはないよね(笑)。この攻撃は確かに防御できない気がする」
わたなべ「えっ、それはないと思いますよ(笑)。まぁ僕も作品については良く知らないので何とも言えませんが」
シミヅ「そうだよね。ははは。じゃあ別のポーズでも考えるかな」
わたなべ「でも僕は絵に描くのなら別にそのポーズ(カン○ョー)でもいいんですけど。うどんげこれをしているとしたら相手は誰なんでしょうね?」
シミヅ「やっぱり日頃からの恨みがある奴だろうから、ボスの輝夜か部下のてゐかな」


言葉の上では遠慮していますが、内心では既にこの危険なアイディアに乗り気な二人。私が調子に乗って構図のイメージ図を描くと、わたなべ君はそれに沿ってその場で下書きを開始。さらに数日後にはカードアートの寸法に合わせて仕上げてくれました。
(ちなみに、うどんげの件のポーズの本当の理由については「弾幕が銃弾のイメージなので、それに合わせた発射のポーズをとっている」ということを周囲の東方ファンに教えてもらったのですが、一度転がりだした石はもはや止まれないのです!)
溜まっていたうらみつらみの爆発が逆襲!ということで取り落としていたキャラ要素も上手く回収する事ができ、デザイナーとしてはこれで心残りもありません。


……という感じで今回のセットには、私の危険なアドバイスや指示がまるで悪魔の囁きのようにイラストを変貌させてしまったケースがままあります。いちおうその度に企画外部の東方ファンの意見を仰いでぎりぎりセーフか確認を取っていました。が、序盤には「東方ジャンルは解釈の幅は広いからこれでも十分オッケーですよ」と言ってくれた人々にも、終盤にはさすがに「これはナイですよ」と言われてしまったケースも。白日君も「だんだん東方ファンに毒まんじゅう喰わせてる気分になってきた……」などと言い出す始末。
そもそも私が笑いのツボがモンティ・パイソンローワン・アトキンソン、レッド・ドワーフ号などイギリス流のブラックジョークにある人間なので、作品に愛を込めて真面目にウケを取ろうとするほど一般には笑えない代物ができてしまうのです。本家のVSシステムも欧米のアメコミファンダムを意識してコミックコンテンツの解釈にはユーモア・ジョークを効かせた作りになってますから、こうするのが自然といえますが……自分なりに東方作品に誠意を持って作ったつもりなので覚悟はできていますが、世間が我々の作品をどう評価するのかいまだ緊張感は拭い去る事ができません。