杉浦非水装丁『暁鐘』

手元にある『暁鐘』は東京堂発行、明治45年2月7日12版だ。この本の初版は明治34年5月20日に発行されている。ネットで販売されているこの本のデーターを見ると明治34年に発行された『暁鐘』は有千閣/佐養書店から発行。明治37年に発行された『暁鐘』も有千閣/佐養書店だ。明治41年に発行されたときは上田屋書店から発売されている。

なぜ初版の装丁にこだわるのかというと、初版の装丁が11版の装丁と同じものだとすると、定説になっている「非水の最初の装丁本は『巣林子撰註』(東京専門学校出版部、明治34年)」説が崩れるからだ。

「みだれ髪歌かるた」(『明星』明治37年正月号に掲載)の非水のサインは「S」であったが、『暁鐘』のサインは「非」になっている。杉浦朝武が杉浦非水と名乗るのは明治38年からでそれ以前に「非」というサインを使う事は考えられない。


つまり、年月は不明だが、発行所が有千閣/佐養書店から上田屋書店へ、そして東京堂へと変わっていく過程で非水の装丁が採用されたものと思われる。いずれにしても『暁鐘』は明治45年に日比谷図書館で開催された日本初の印刷図案の展覧会「書籍装幀雑誌表紙図案展覧会」には出品されていたものと思われる。

もう1冊、「書籍装幀雑誌表紙図案展覧会」出品されていただろうと思われる非水の装丁本が見つかった。伊藤銀月『秀吉と家康』(杉本梁江堂、明治45年1月)がその本。

函入り、装丁クロース装の豪華な造りの本で、表紙の装画は金箔、緑と赤茶の色箔押し。サインは○の中に「非水」と記しているのを読みとれる。