学生へのメッセージ

一条真也です。

今日は、北九州市立大学の学生さんたちの取材を受けました。
「僕らのハロープロジェクト」という企業研究の冊子のためのインタビューです。
10時からという約束だったのですが、時間が過ぎても来ません。
連絡すると、なんと勘違いして11時からだと思っていたとのこと。
わたしも驚きましたが、彼らはタクシーに乗って慌ててやって来ました。



                  大学生の取材を受けました



まず、わたしは彼らに次のことを話しました。
人生とは、時間を生きることである。
一つひとつの時間の積み重ねが、人の一生である。時間とは生命そのものなのだ。
ある人が会議や待ち合わせの時間に遅れてくるとき、他人が被る迷惑は、計り知れないほど大きい。待たされる時間は、完全に「失われた時間」である。
時間を守らない人は信用されないだけでなく、「時間泥棒」と呼ばれても仕方ない。
それもこっそりと盗んだのではなく、無理やり強引に奪ったので「時間強盗」と言うに等しい。さらに、強盗された時間という財物は、いったん失ったら取り返すことのできない生命の一部である。
その意味では、約束の時間に遅れることは、待たせた人の生命の一部を奪ったのと同じことになる。そうなると、時間強盗どころか「部分的殺人」の罪と断ずることもできる。
だから、約束の時間には遅れてはいけない。
これは、学生とか社会人とかには関係ない、人間同士のルール中のルールである。
以上のようなメッセージを最初に伝えました。
彼らも大いに反省していましたので、この件はこれで終わり!
学生さん、ドンマイッ!ドンマイッ!


                  就職や未来についても話しました


それから、就職に関わる話をしました。
わたしは、これまで何度も就職活動中の学生さんたちに講演してきました。
学生さんたちに、どういう業界や会社をめざしているのかと聞くと、現時点で一番栄えている企業、脚光を浴びている企業が常に上位を占めていることに気づきます。
もちろん、そうした傾向は今に始まったことではありません。  
たとえば、昭和20年代に大学を卒業した人々の多くは、砂糖、石炭、合繊などの分野の企業を志望しました。
そして有名大学を出た天下の秀才たちが入りました。
30年代に入ると、鉄鋼や造船といった重工業に人気が集まりました。
40年代には銀行や商社などが、50年代になると、それまでは低く見られていた保険や証券などの業界が、高額のボーナスなどの魅力もあって、名門大学出の秀才たちが続々と就職しました。
しかし時代の変化とともに、かつての花形産業は次々に勢いを失っていきました。
当時、最難関の会社に意気揚々と入った人々は、その後サラリーマンとしてあまり充実感が味わえなかった人も多かったように思います。



そして、「未来」の話をしました。
本来、大学生というものは「未来」が最大の資産です。
よって、誰よりも未来を読むべき存在であるはずです。しかし、常に実態より遅れた世間の、マスコミにつくられたイメージに踊らされてきました。それも、いま見えている現実が、あたかもそのままの状態で推移でもしていくように錯覚してきたのです。
しかし、少しでも物を考える人間なら、この世界に永遠に続くものなどないことがすぐわかるはずです。
強大で不滅のように思われたローマ帝国でさえ滅び、栄華を極めて終わりがないように見えた唐王朝も終焉を迎え、万全の防御体制を誇った徳川幕府もいとも簡単に倒されてしまいました。このような強大な権力でさえ衰亡するのです。
ましてや民間企業が、いつまでも繁栄し続けられる道理などありません。
ぜひ、今の時点で花形産業だからとか、給料が高いからといった理由で会社を選ぶのではなく、本当に自分がやりたい仕事ができる会社を選んでほしいと思います。
本当に自分がやりたい仕事なら、たとえ業界が衰退したり、極端な場合は会社が倒産したとしても、けっして後悔することはないはずです。
なぜなら、自分の天職として、自分が選んだ道だからです。


               経営理念の「S2M」について説明しました


そして、自分がやりたい仕事、好きな仕事というのは、自分の「強み」を生かすことができる仕事なのです。
「強み」を生かすことの大切さを訴えたのは、経営学者のピーター・ドラッカーです。
わたしは、北陸大学未来創造学部の客員教授を務めています。
そこで、ドラッカーについての授業を担当しています。
ドラッカーを未来学者だという人がいます。
たしかに彼の予測はよく当たるといわれています。
しかし、ドラッカーはけっして未来学者ではありません。彼自身がそう断言しています。ドラッカーは、未来など誰にもわからないとした上で、『創造する経営者』(ダイヤモンド社)で次のように述べています。
「我々は、未来について二つのことしか知らない。つは、未来は知りえない。一つは、未来は今日存在するものとも今日予測するものとも違う」(上田惇生訳)
ドラッカーいわく、たとえ誰かが予測したことが現実に起こったとしても、世の中では、誰も予測しなかったことで、はるかに重要なことが、あまりに多く起こっているのです。
したがって、予測という行為そのものにあまり意味はありません。


               学生さんに『ドラッカー思考』をプレゼント


ドラッカーによれば、未来を知る方法もまた二つしかないといいます。
一つの方法は、すでに起こったことの帰結を見ること。彼自身の予測についても、すでに起こったことの帰結、つまりすでに起こった未来を知らせたにすぎないそうです。
さまざまな兆候から、ドラッカーソ連の崩壊を予測し、それを見事に的中させました。
未来を知るもう一つの方法は、自分で未来をつくることです。
具体的には、子どもを一人つくれば、人口が一人増えるといった話です。これなら、誰でも未来をつくることができますね。
それと同じように、たとえ小さな会社でも何か事業を起こせば、世の中を変えてしまう可能性をもつのです。
歴史はそうやってつくられるのだとドラッカーは言います。
歴史とは、ビジョンを持つ一人ひとりの人間がつくっていくものだというのです。


                    最後に記念撮影を


未来をつくるためのアプローチとして、これもまた二つの方法があります。
一つは、「すでに起こった未来を利用する」こと。
もう一つは、「来るべき未来を発生させる」ことです。
ドラッカーは、『創造する経営者』で次のように述べます。
「すでに起こった未来は、組織の内部ではなく外部にある。それは、社会、知識、文化、産業、経済構造における変化である。一つの傾向における小さな変化ではなく、変化そのものである。パターンの内部における変化ではなく、パターンそのものの断絶である。」(上田惇生訳)
そして、来るべき未来を発生させる。ドラッカーはさらに述べます。
「未来は明日つくるものではない。今日つくるものではない。今日の仕事との関係のもとに行なう意思決定と行動によって、今日つくるものである。逆に、明日をつくるために行なうことが、直接、今日に影響を及ぼす。」(同)
未来を予測するだけでは問題を招くだけです。
わたしたちが、なすべきことは何か。それは、すでに起こった未来に取り組み、あるいは来るべき未来を発生させるべく働くことなのです。
最後に、学生さんたちに対して、「ぜひ、君たちが君たちの未来を創造するんだ!」というメッセージを送りました。
学生さんたちは、ドラッカーをまったく知りませんでした。
それで、拙著『最短で一流のビジネスマンになる!ドラッカー思考』(フォレスト出版)をプレゼントしました。とても喜んでくれました。
今日は、君たちに会えて嬉しかったぜ。がんばれ、学生さん!


2010年7月5日 一条真也