白髪の王子様の会話ドラマ 時空神社シリーズ いかりや長介 ②ハナ肇との出会い

ハナ肇との出会い
◎いかりやさんはドリフターズに入る前にも色々なバンドを渡り歩いていたんですか
☆あゝ 掛け持ちしたこともあるよ バンドも未熟なバンドが多くギターリストやドラマーが足りなければ他のバンドから借りたりボーカルをヘッドハンティングしたりと渦潮の中に浮かぶ笹船から少しでも大きな船に乗り換えようと誰もが必死だったよ ドリフもそんな小さな笹船でロックの世界を漂流していたのさ ドリフとは漂流者とか流れ者という意味が含まれていて正にぴったりだったね
◎ドリフはロカビリーバンドでしたよね そこに坂本 九がいたなんて信じられないですね
☆あいつは器用だからポップスでもカントリーでもロックでもなんでもこなしていたよ だから水原弘の抜けたダニー飯田パラダイスキングに引き抜かれたのさ
◎でもロカビリーは長身で細面の人が腰をひねらせて歌うのがお似合いですよね そこに小柄で胡麻入りアンパンみたいな丸顔の九ちゃんがロックを歌うなんて似合わないと思うけどな〜 それならいかりやさんの方が長身だし人間離れした顔をしてるから似合うと思いますよ
☆人間離れした顔とはご挨拶じゃないか
◎御免なさい 日本人離れの間違いでした いかりやさんの声質はアヒルも驚くバリトンだし一度でいいからいかりやさんのロックを生で聞きたいもんですね〜
☆誉めてんだかけなしてんだか分からんがそこまで頼まれたらカラオケのつもりで一曲披露するとしようか
◎有難うございます どんな曲にします?
☆そうだな〜『津軽海峡冬景色』なんてどうかな
◎ちょっと待って下さいよ それってド演歌じゃないですか ロックですよロックを歌ってくださいよ
☆天国に来たら趣味が広がってな でもロックは長年魂を打ち込んできたから体の隅々までロック漬さ 名誉挽回でプレスリーの歌を一曲うなるぜ王子殿
◎待ってました大酋長
☆お主もエアギターで盛り上げてくれ それじゃ〜いくぜ〜 ワン ツー ワンツースリー ♪ハワイ良いとこ 一度はおいで 酒はうまいし 姉ちゃんは綺麗だ アッ アッ アー オ〜〜〜ッ♬♬♪♪。
◎あれっ? もう終わりですか それプレスリーの何という曲ですか?
☆有名な『ブルーハワイ』だよ
◎ブルーハワイってそんな歌でしたっけ だいたいブルーハワイのブルーが出て来ないじゃないですか
☆よく聞きなよ 最後にアーオーと英語を日本語に訳して歌ったじゃないか ところでどうだね俺のロックは
◎正直言って『駄目だこりゃっ』ですね 
胡麻入りアンパンに負けたか
◎話を元に戻しますがいかりやさんがロカビリーバンドを渡り歩いていた時知り合った仲間達にはどんな人がおりましたか
ミッキーカーチスやジミー時田それに寺内タケシとも一緒にプレーしたしその頃知り合った平尾昌晃とも仲良くなって彼が作詞作曲した歌もプレゼントしてくれたよ ドリフターズが歌ってヒットした『ミヨちゃん』がその歌だよ
◎平尾昌晃さんと言えばつい最近79歳で亡くなりましたよ
☆知ってるよ 49日が過ぎたら迎えに来てくれ一緒に飲もうと先日連絡が入ったよ
◎えっ? いかりやさんはスマホを持ってるんですか?
☆宅急便の回覧板が回って来たのさ
◎天国の連絡網は今一理解出来ませんな〜 ところでいかりやさんの人生の中で最も印象的な人物との出会いと言えばどなたですかね
☆それはクレージーキャッツのリーダーだったハナ肇だろうな 印象的と言うよりドリフターズに最も大きな影響を与えた人物だよ なんたって俺を含めてドリフのメンバー全員の名付け親だもんね 
◎それは初耳でした 随分と面倒見が良かったんですね
☆面倒を見てくれたんじゃなくて 面倒を押し付けてきたようなもんさ でも思いつきで付けた名前がどれも覚えやすくて好評だったんで誰も文句を言わなかったよ なにせあの頃のハナ肇は次のナベプロの社長はハナ肇だと噂されるくらいに権勢をほしいままにしていたからね誰も文句が言えなかったのが本音だよ
◎そうですか そんなハナ肇さんも大分前に亡くなりましたが天国でお会いになったことは有りませんか
☆ないよ むしろ遠くから歩いて来るのを見付けたら電信柱に隠れてでもやり過ごすだろうね 
◎天国にも電信柱が有るとは知りませんでした ハナ肇さんはワンマンでも有名でしたからいかりやさんを見付けたら『ここは天国だからお前の名前は今日から長介ではなく天助にしろ』と言いかねないですからね
☆そうとも 戒名まで替えられたらロック時代の笹船に載せられてブラックホールに飲み込まれてしまうよ
◎いかりやさんも相当なワンマンと聞いておりますがハナ肇さんは並外れたワンマンだったようですね
☆バンドのリーダーはある程度ワンマンでないとメンバーを統率できないんだよ メンバー全員の意見を聞いて多数決で決めましょうなんて言ってたらリーダーなんかいらないじゃないか 時には有無を言わせず『黙って俺に付いてこい 責任は俺がとる』と強いリーダーシップを見せないと誰も付いてこないもんさだからリーダーは孤独でもあり強いプレッシャーとも日々闘う宿命にあるんだ お主だって王子ともなれば同じであろう 王に代わって責任ある決断を下さなければならない立場ではないか
◎あれっ?いつの間にか矛先がこちらに回ってきましたね
☆一つ位はお主に質問してもいいじゃないか なあ お主は王子としてどんなリーダーシップを発揮しているのかね
◎あの〜その〜 皆の意見を聞いて多数決で決めています
☆駄目だこりゃ

つづく