麺館で
今日は音楽教室の日。先週は運動会で行けなかったんです。
時間よりずっと早く出かけて、ふみと東宮御所を回ってお散歩。
今日は少し肌寒い。
「ははは、なんでしたっけこれは、カリンとか?とにかく、じゃがいもではないよ。じゃがいもは土の中なんだから。でも似てるね」
だから、じゃがいもの中国語は“土豆”と言うんですよ。
「かりん?じゃ、かりんとうになるの?」とふみは嬉しそう。
もっと違うんだよぉ〜
もう少しさきになったら、この銀杏のとんねるは、黄葉のとんねるとなって、きれいよ。
銀杏の匂いもすごいけどね。
「あ、どんぐり!」とふみは拾って、ズボンのポケットにいっぱい詰めた。
お散歩の人々もすっかり初冬っぽい装い。
ふみは枝に枯葉をさして、「焼き鳥はいかが?」と店員さんごっこを始める。
違う違う。
でも似てるね、袖珍版って感じ。
歩いた歩いた。今日も歩いた。
音楽教室が終わり、もう12時過ぎてしまってる。
刀削麺の中国料理のお店の前に、立ち止まってメニューの写真を見てたら、
ふみは、食べたいと言い出す。
けど、ほとんど辛そうなばかりで、やめようと言ったが、ふみの意思は堅い。
メニューをよく見てみたら、「辛くない」と書いて3、4種類の麺があった。
じゃ、入ろうか。
長い階段を下って地下に降りて、ドアを開けた途端、中国語で喧嘩してるのが聞こえた。
レジのところで、コックさん格好の人と、普段着の格好の人と、中国語で口論してる。
コックさんが「そんな言い方はないだろう、本当に間違えたのだから」。
普段着の人が「おもしろい間違いだねあなた、200円と8000円はどうやったら間違えられるのか教えてもらいたいね」。
普段着の人、中国映画でよく出てくる“村長”の役にぴったりな感じ。
コックさん「わかったわかった、いい、いい、俺がついてないだけ、わかったよ」
村長は「その言い方は気に入らないね、間違いは間違いだろうが」
あの、客が入って来てるんですけど…。
コックさんはやっと厨房に戻り、レジにいる村長に、また大声でさっきの主張を続ける。
村長も負けてはいない、
「何回言っても同じだ、200円と8000円を間違えたのが不思議と言ってるんだ」。
厨房にいるもう一人若いコックさんが、何の関係もない顔して、わたしたちを席まで案内し、お水を持ってきた。
こんな雰囲気だと、中国語でしゃべらないほうがいいね。さっきの聞きとられたとわかったら、変な感じでしょう。
わたしは麻辣麺を頼み、ふみに、から揚げが載ってる辛くない麺を頼んだ。
もちろん両方とも刀削麺だけど。
厨房のガラス越しに、コックさんと村長の言葉はまだ飛び交ってるが、ただ、だいぶ火花が弱くなったって感じ。
若いコックさんが来て、「サービスです」と、水餃子二個を持ってきた。やっぱり平淡な顔をしてた。あの二人の戦火は彼まで飛び散ってないようだ。
独特な香辛料の味のする水餃子だ。ふみはあまり進まない。
若いコックさんまた来た。
「サービスです」と、また水餃子二個を持ってきた。
(@_@;)
「どうして?これはふみに?」と、ふみは不思議そうに言う。お店のしくみを、ふみすら理解しがたいである。
中国らしさだよ、これは、規定より、その時の気分なんだ。
さあ、麺が出てきた!
わたしの麻辣麺。おほほほほ、見るだけでも汗がでてきそう。
ふみの麺は、辛くはないが、違う種類の香辛料がやっぱりすごい。
ふみ、小皿に盛った麺を黙々と食べる。
「おいしい?」と聞くと、
「うん!」と答えた。
それから二人はそれぞれ黙々と食べ、気づいたら、いつの間にか厨房の戦火は完全に消えた。
村長が来た。
「おいしい?」とふみに聞いた。
ふみは「うん」と言うと、
「辛い?」と村長が再び聞くと、
「うん、辛い」と答えてしまうふみ。
村長は早足に行って、厨房に向かってガラス越しに、
「あの坊や、辛いって、はははは」
「辛い?そんなはずがない、あれは辛みなしの麺だよ」
まさかふみの一言で戦火が蘇るのかと懸念するわたしは、まもなく安心した。
村長は少しも気にしない様子で、
「ね、“蝦炒蟹”(シャーチョウーシェー)って、なにか知ってる?」とコックさんに声をかける。
「シャーチョウーシェ?知らないな、なにそれ」
「テレビで毎日言ってるじゃないか。シャーチョウーシェーがどうのこうので、あれね、北朝鮮のことだよ」
「きた、きたちょうせん」と若いコックさんはこの時にさりげなく一言。
「へへ、蝦炒蟹のほうが覚えやすいわ」と村長は言う。
村長またわたしたちのテーブルにきた。
日本語でふみに、「これ、わかる?アンニントウフ、わかる?おいしい、食べて」と小さいスプーンをさしてる杏仁豆腐のお椀を置いてくれた。
ふみのちょっと戸惑ってる顔を見て、
「あ、おかね、いらない、サービスサービス」。と村長は慈悲が満ちる顔で言う。
村長は戻り、ガラス越しに厨房に、
「さっき、あの坊や辛いって言ったからさ」
「あれは辛味の入ってない麺だよ」とコックさんは素早く訂正。
村長少しも気にしていない様子。
「あのさ、あの坊やぐらいの年齢の子はね、運動会が大変なんだ。なにがたいへんって知ってる?親だよ親。当日朝早く起きて、お弁当作る、おにぎり作る、バカじゃない、たかがガキの運動会だろう…」
うん、ちょっと同感。日本の運動会、なんで親まであんなに巻き込まれなきゃいけないのかね。
村長、また来た。
日本語でふみに「これはお母さんの。サービス。緑豆、うん、緑豆、体にいい、うん」と、わたしの前に小さいお椀に盛った緑豆の入ってる薄めのおかゆを置いた。
返事もなく、ただ、ぼーっとしてるふみを見て、
「飲む?あなたも飲む?緑豆、体にいいよ」と村長が。
ふみはうなずいた。
村長、颯爽と来て、もう一杯緑豆のおかゆを置いてくれた。
「不要銭、不要銭、あ、中国語で言っちゃった、えっと、サービスサービス」と。
ふみ、緑豆の湯は飲まない。
そもそも、もうお腹に入る場所がないんじゃないかな。
村長、緑豆の進み具合を見にきた!
ふみ、緑豆をお椀を持って、おいしい?おいしい?と聞かれて、困ったようす。
どうしようかとわたしまで焦ってきた時、ふみは、
「あの、これ、持ち帰りで」と言った。
村長爆笑して離れた。
これは残しちゃいかん、だって、ご厚意で出してくれたもの、わたし、飲む!
今日の昼食、自分の胃腸に申し訳なくて、「負担をかけちゃったね」。
辛いし、量も…。
(+o+)