『ご冗談でしょう、ファインマンさん―ノーベル賞物理学者の自伝〈1〉』 (翻訳:大貫昌子)

下記は2004年2月14日以前に書いたメモです。最近研究室内で話題になったので載せておきます(具体的には蟻の話)。

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ご冗談でしょう、ファインマンさん―ノーベル賞物理学者の自伝〈1〉

ご冗談でしょう、ファインマンさん―ノーベル賞物理学者の自伝〈1〉

私は書評家ではないし、そんなことをするつもりもありません。例によって面白かったところをピックアップ。


「ドア泥棒は誰だ?」

ファインマン、君はドアを盗んだか?」「ええ、僕がやりました。」

まず、ここで初めてうけました。


「僕、僕、僕にやらせてくれ!」

「今、僕は詩と物理の類似を示しましたが、詩についてたとえどんなことを言われたとしても、物理だけでなくどんな分野とでも、同じようにこじつけて類推する方法をいくらでも見つけられますよ。そんな類似なんかでっちあげたって、無意味だと思いますけどね」

いろいろな学問が物理にあこがれた時期があったのではないかと推測してしまいます。

僕たちは「できるけどやらないだけのことさ」といつも自分に言い聞かせているわけだが、これは「できない」というのを別な言葉でいっているだけのことなのだ。

催眠術の話がでてくるところ。ちょっと考えさせられる。


「ネコの地図?」

実は電子とは僕たちが使っている仮設なのだ。これが自然のしくみを理解するうえで、ほとんど実在しているといえるくらい便利だということだ。

科学を専門にしない人にも分かって欲しいことですね。これは。

「モンスター・マインド」

まずアインシュタインの隣に座っていたパウリが立ちあがると、「くぉおの理論うぉこれこれの理由で正すぃいとは思えない」とスイス訛りで言ってアインシュタインの方に向き直り、「どうです、アインシュタイン教授、そうは思われませんかな?」とたずねた。

オリジナルを読んではいないけど、これをこのように訳してくれた大貫昌子さんはすごいと思う。

「アマチュア・サイエンティスト」

「よし、どうすれば一匹も殺さずにアリどもを食料置き場から追っ払えるだろうか?何しろアリは人道的に扱わなくちゃならなんから毒は使えない。何かいい考えはないものか」

面白いです。アリを人道的に扱おうって言うところが。

「猟犬になりすます」

しばらく触らずに放っておいた本は、乾いた味気ないにおいがするが、人の手が触れた本というものは、何となく湿っぽい特有の臭いがするものだ。

臭いをクンクン書いているところを想像してしまう。

「下から見たロスアラモス」

この会議のメンバーは、みなそれぞれ新しい事実を考えに入れて実にさまざまな意見を発表していながら、一方ではちゃんと他の連中の言ったこともおぼえているのだ。

天才達の会議を聞いているファインマン。物理学者が政治をやったらどうなるんでしょうね。きっと面白いと思うのですが。でも選挙にでても当選できないでしょう。

「全員がその全面的な説明を受けるのでなければ、ロスアラモスとしてはオークリッジの安全性の責任はいっさい負いかねる」

痛快です。頭の固い軍人さんがいたようです。

「君もあの印がバルブかどうか確かめてみればすぐにわかるよ」

ファインマン特有のユーモアですね。

僕の助手たちはこうしてめざましい働きをしたわけだが、この成果を生むにはただ単にその仕事の意味を教えてやるだけでよかったのだ。

これも軍人さんの秘密主義への揶揄でしょう。

このとき、我々が今生きている世の中に責任を持つ必要はない、という面白い考え方を僕の頭に吹き込んだのがフォン・ノイマンである。このフォン・ノイマンの忠告のおかげで、僕は「社会的無責任感」を強く感じるようになったのだ。それ以来というもの、僕はとても幸福な男になってしまった。

これはなかなか意味が深そうな言葉。ちょっと宿題にしておきます。

この第一回トリニティ実験を肉眼で見たのはおそらく僕一人だろう。

原爆実験のこと。アメリカでの核開発の一端が垣間見えて面白い。

「お偉いプロフェッサー」

いくら人が僕はこういう成果をあげるべきだと思い込んでいたって、その期待を裏切るまいと努力する責任などこっちにはいっさいないのだ。そう期待するのは向こうの勝手であって、僕のせいではない。

私は、この付近の文章を読んで救われた気持ちになりました。この本を読んで良かったと思いました。無責任を推奨するわけではありませんよ。含蓄がある言葉ですね。ぜひ本文を読んで欲しいところ。

前にあんなに物理をやるのが楽しかったというのに、今はいささか食傷気味だ。なぜ昔は楽しめたのだろう?そうだ、以前は僕は物理で遊んだのだった。

そう、遊んでいたんだ。だから楽しかった。今は?

他にも面白いトピック目白押し!「考えるだけでラジオを直す少年」の数学の記号を新しく作ってしまうところ。「アマチュア・サイエンティスト」のアリが液体の玉を捧げ持つシーン。「下から見たロスアラモス」の検閲や暗号などに関わるファインマンとその妻の面白いやり取り、そして妻の死にたいして・・・。「二人の金庫破り」のファインマンの金庫破りにかける情熱、暗号に自然対数e=2.71828・・・を使ってしまう物理学者の話など。「お偉いプロフェッサー」では学者にとって教えるということとは?など。