『聊齋志異』の「酒蟲」、あるいは〈蟲〉と〈虫〉について


 怪談風朗読 芥川龍之介「酒虫(しゅちゅう)」 - YouTube
 今回力作の揃った感の、(批評中心の)文藝同人誌『群系』(永野悟氏主宰)40号に、荻野央氏が論考「芥川龍之介の『酒蟲』」を載せている。この短篇の典拠は、『聊齋志異』の「酒蟲」であるとのこと。ひさしぶりに書庫から、修道社版、柴田天馬訳『聊齋志異』全6巻を取り出して探索、巻五に「酒蟲」を見つけ、読む。日本語への翻訳の苦心の一端が「註」を見ればわかる。たった2頁の小品だが、愉快な挿絵もあって面白い。芥川龍之介の短篇については、それほど関心は湧かない。


挿絵:伊達圭次
 ところで、芥川龍之介の短篇のほう(だけ)を「酒蟲」とし、いっぽう『聊齋志異』のほうを「酒虫」としたり、短篇の登場人物について「さて虫が三匹(蟲)。」などと紹介しているのは、この論者は言葉の使用について大らかな人ではある(別に批評していない)。

 わが所蔵の荒俣宏著『世界大博物図鑑1〔蟲類〕』(平凡社)の「総説」の「1:虫と蟲のあいだに」で、〈虫〉と〈蟲〉のことばの歴史的な微妙な使用法について解説している。

 一般に〈虫〉は、マムシのようなヘビ類がとぐろをまいた姿をかたどった漢字であり、本来、ヘビ類を指したと思われる。しかし、ヘビも昆虫も、あるいはミミズもクモも、さして区別されなかった昔、中国では〈獣〉〈鳥〉〈魚〉を除いた、〈その他〉という意味合いにおいて、虫を理解したようだ。とくに、虫が3つ集まった〈蟲〉なる語ではその印象が強く、生きもの全般を示す用語にまで拡大されている。
 そこで、虫という生物をグループ化して区分する実験的な方法として、虫偏のつく名称をもつ生物を〈虫〉と認定しようという便宜的処置が考えられた。江戸時代最大の虫譜といわれる法眼栗本丹洲の労作〈千虫譜〉は、まさしくそのような記号学的方法によって、虫の範囲を定めた図鑑なのである。すなわち、蟹も蛯も、蜘蛛も、蝙蝠も、蛙も、蛔虫も、すべて虫だといえる。したがって〈千虫譜〉には、昆虫だけでなく多くの雑多な動物が収められることとなった。(p.8 )

 ナウシカの王蟲のモデルと衝撃の正体!原作の裏設定は凄まじかった | 鉄道・路線バスマニアでジブリ好きのブログ