ムスタングの謎?

ムスタングの謎?

子供のころ、よく兄とライトプレーンを作って飛ばした。
 田んぼが稲刈りを終えた秋口がもっとも盛んだったと記憶している。
近所の駄菓子屋には毎年この季節になると、、なぜかライトプレーンが店先に並んでいた。
 秋は田んぼが見事に大きな”遊び場に変身”していたので、子供達はそこで野球をしたり、飛行機遊びをした。
駄菓子屋もその季節による子供も遊びの変化を見抜いていたのだろうか。
ある年、兄が模型雑誌(模型とラジオ)のイラストに載っていた米国のムスタング戦闘機を模したライトプレーンを作りはじめた。
それは、胴体が板状で翼はゴム動力機の竹ひごでつくるものだった。プロフィール機というやつだ。

 雑誌に載っていたのは胴体はバルサという南洋の木材で作るとあった。バルサ=南米エクアドル産の軽量木材。
当時、九州の片田舎にはバルサという”高級模型素材”は付近の駄菓子屋なんてものには売っていないいわば”高級舶来品”であった。
 模型雑誌にはバルサは軽量で飛行機模型には適材と書いてあった。それは当時としては”夢のような素材”であった。
兄は考えた挙句、、、自宅にあって、簡単に手に入る、同じ軽量木材の日本産の”桐”に眼をつけた。
 当時、私には姉がいた。 古い日本のしきたりとして、女の子が生まれると桐を植える習慣があった。

画像出展:Wikiより
女の子が大きくなって嫁に行くときにその桐を製材して”箪笥”を作り、持たせるという習慣である。
 桐は割りと早く成長して大きくなるので、、その木質は軽くて多孔質で軟らかい性質を持っている。
桐はその多孔質のお陰で、箪笥は家が火事にあっても表面がこげて、断熱し、中のものは大丈夫といういわれがある。
それは熱帯雨林で成長する”バルサ”に比較的近い素材である。
 我が家にはその慣わしの証か?桐の丸太が納屋に保管してあった。
その丸太を兄と2人で薄い2〜3mmの板に製材するのである。
幸い、私の父は大工なので、、製材する鋸やかんななどの道具は立派にそろっている。
 こんなところも私が工作好きになった環境がそろっていた。
直径30cmはあっただろうか、十分に乾燥した桐の木を5mm厚ほどに鋸で割いて、薄板を2〜3枚ほど作った。
ずいぶん時間がかかり、苦労した記憶がある。あとはこれをカンナで2mm厚位に薄く削って仕上げた。
こうして出来た私製バルサ板にマジックインクでムスタングの側面を描き、ナイフで切り出した胴体に竹ひごの主翼や尾翼を
つけた。 完成した機体は羽がライトプレーンであるが、、、側面がリアルなムスタングとなっていて、、すごくカッコ良い!!!。
2人でその完成したムスタングを見ながらワクワクした記憶がある。
 兄がゴムを巻き、、、さて初飛行!!。飛ぶかな!?、、、。
ライトプレーンと同じように手をはなつと、、、、横に倒れながら、すぐさま墜落した。あれ-!!想定外の結果!????に唖然とする二人!!!。
 手の離しかたが悪いのか!?、、もう一度、やっても、同じようにまた墜落!!。
安定が悪いと考え、、、主翼の上半角をいろいろ調整して、飛ばしたが、、状態は同じでたちまち墜落であった、、、、、。
 近所の遊び仲間も集まって、わいわいと知恵をかりながら調整し、、飛ばしたが、、まったくうまく飛ばない!!!。
万策尽きた感じで、、そのうち、、”お飾り”となってしまった。シューンという気分、、、、。

 それから十数年、、、、、時は立ち、、、ラジコン飛行機に手を染めた私は、、、、ラジコン飛行機も科学的にうまく飛ばしたい!!と想い、、
初心者の失敗を繰り返さないため、、、独学で航空工学を勉強したが、、、。
 飛行機の3軸の安定理論を勉強するうち、、、、かつて飛ばなかったゴム動力ムスタングが脳裏によみがえった!のである。
そして、、その理由は何故かを追求した!!!。
その理由は方向安定の不足にあった。 ムスタングの機体はセミスケールとするため、薄板の平面である。
 その平面であるが故、空力中心位置から、前方の胴体側面の面積が後方の方向安定を司る垂直安定板(垂直尾翼)の面積を
凌ぎ、安定性を欠いていたのである。だから飛行もスパイラル不安定になり、斜め方向に傾きながら、、墜落してしまったのである。
航空工学の安定飛行力学では専門語で”螺旋不安定”とも言う。状態である!。

 加えて、ムスタングは大きな風防と主翼下のオイルクーラー冷却空気取り入れ口があり、平板のセミスケール胴体にすると
さらに、垂直安定板の効果の阻害を拡大する原因となっていた。
 つまり、プロフィール機のムスタングをうまく飛行するようにするには、実機のプロポーションより、垂直尾翼を大きくする必要があったのである。 実機でもこの問題を起こした例はたくさんある。そこで、設計にあたっては垂直尾翼容積比として、定数化されている。

 子供時分にここまで分析することは当時の知識材料では到底不可能であった(改めて言うまでもないが)。こうして飛行理論で原因を追究すると
納得レベル、タメシテ合点!する域に到達でき、今後作るラジコン飛行機に貴重な経験則として過去の失敗を生かせることが出来る。
 数年まえ、ニュージーランドでその憧れのムスタングの実機(動態保存)の飛行をみることが出来た。


近くで見るとわりと、意外にも小柄でスマートな機体である。

 近くに展示していた星型空冷のスカイレーダーとくらべても、戦闘機としての威圧感は薄い。

スタイルを決めている機種の直列エンジンのスマートな機首周り、窓枠のないバブルキャノピー、主翼の薄い層流翼型、
 枕頭びょうによるフラットな流面型など、がそうさせているのだろう。
当時の戦闘機のような無骨さは無く、長年、工業デザインを”なりわい”にしてきた筆者には キレイな空飛ぶ造形品に見えた!。

 いずれ、、このゴム動力ムスタングも再現して、螺旋不安定を解消した状態で飛ばして見たいと考える今日この頃である。