フィリップ・ガレル監督のこと

slowlearner_m2009-01-11


かつてフィリップ・ガレル監督の70年代の作品『孤高』を配給しました。
この映画は、スローラーナーで初めて独自で海外から輸入した映画でした。

何度か直接ご一緒する機会があり、個人的にも、ガレル監督から多くの影響を受けました。
彼は、35mmのフィルムで映画を撮る事、そしてモノクロで映画を撮る事を手放してはならないと、いつも言います。最初の作品『調子の狂った子供たち』を撮った16歳の時、彼は別の現場で働いた報酬として端尺の35mmの生フィルムを貰い、それでも足らなくて、CMの制作会社をまわって、冷蔵庫の隅に眠っている端尺の生フィルムをもらって、それで撮影を続けたそうです。
だから、とガレル監督は言います。
僕は基本的にワンテイクしか撮影しない。
映画を撮るという事は、デカルト的な経済の中にある。
しかし、それが、自分のスタイルになった、と。
例え予算がそこそこある映画のときであっても、ワンテイクしか撮影しない。
カトリーヌ・ドヌーヴに主演してもらった時も、撮影前に、僕はワンテイクしか撮影しないと宣言したそうです。

彼の映画が好きです。
『愛の誕生』をスクリーナーのビデオテープで観た時、どうしてもこの作品を日本で上映したいと思いました。
フィリップ・ガレル監督の作品に恋をしたのです。
あの映像が、あの俳優への演出が、基本的にワンテイクで撮影されていたというのは驚きです。
カメラが回るその瞬間まで、彼はどのような作業をするのでしょう…。

フィリップ・ガレル監督は、モノクロで映画を撮るときは、ラウル・クタールと一緒に映画を撮りたい、と話してくれました。しかし、高齢のラウル・クタールさんは体の調子が思わしくなく、そして、モノクロで映画を撮ることを映画の制作会社から警戒されてしまい、契約書に「モノクロで映画を撮らない事」という一条を入れられてしまうのだ、と悔しそうに話してくれた事があります。
だから、彼の新作の知らせが聞こえて来て、それがモノクロだと聴くと、何だか嬉しいような気持ちになるのです。