ジグマー・ポルケ展『不思議の国のアリス』

ドイツの売れっ子絵描き、ジグマー・ポルケ(Sigmar Polke)の日本初個展、その巡回大阪展。売れっ子といっても、もうジイさんである。表題作を前面に出したポスターはなかなか素敵。

して、中身の方はというと、正直期待ほどではなかった。「不思議の国のアリス」など良い作品もあったが、どちらかというとポルケという作家のカタログ的な展覧会であった。様々なタイプの作品を一通り観ることはできるが、あまり点数も多くないので散漫な構成だったと思う。制作歴のカタログとしての理解以上にぐっと来るものはなかった。
年代も古い作品が多いため、なんだかフォークソングを聞いているような感覚に陥る。今の時代とのギャップは結構大きい。今をときめく作家というよりは、大御所の回顧展と捉えた方が良さそうである。

色々なタイプの作品があり、巨大なカンパスサイズや全身で描くようなスタイルは抽象表現主義を思い起こさせるし、ドットの展開はポップアートを思わせる。しかし、ポルケの場合はあくまでスタイルとして借りて来て、あとは自分の感性で柔軟に消化し作品化しているようだ。ミニマルな印象を与える「魔法陣」も酸化鉄を画材に含ませ、時間に色を変化させるといったポルケ自身の取り組みがある。
「作品に完成があるかどうかといえば、私はないと思います。完成する時は崩壊する時です。」という言葉からもわかる通り、変化ということに関心が強いのだろう。それは「不思議の国のアリス」という物語を象徴する言葉でもあると思う。定まれないからこそ獲得できる自由もある。ポルケは大人になりたくないのかな。

時代の空気に敏感なのか感化されやすいのかわからないが、それ故に一人の作家の仕事から、広い時代背景が見えて興味深い。
例えば、ドットへの執着って今の若い世代には持ちにくい感覚だと思う。テレビの普及や雑誌など紙面媒体の普及など、視覚へのイメージが強烈に変化したその渦中にあった世代だからこそ、そのイメージの構成要素であるドットに関心を持つのだろうか。生まれた時からピクセルに囲まれている世代とは、やはり違うんだろうな。ドットの断続性よりも粒子の連続性の方が、少なくとも若い自分の感覚には近い気がする。