三月は深き紅の淵を/恩田陸

『三月は深き紅の淵を』著恩田陸、読みました。


本書は全四章で構成されています。
一つひとつは独立した話ですが、どれも「三月は深き紅の淵を」という幻の本にかかわり巡り繋がり、全体で複雑な構造をした小説でした。

それぞれの章を軽く内容紹介します。
・第一章「待っている人々」
会社の会長の別宅に招待された鮫島功一。そこで彼はある幻の本の話とある賭けについての話を聞かされる。

・第二章「出雲夜想曲
堂垣隆子と江藤朱音は会社は違うが同じ編集の仕事をしている。ある日、隆子は江藤に出雲旅行の話を持ちかける。東京から出雲までの夜行列車の旅。

・第三章「虹と雲と鳥と」
二人の少女が公園の展望台の手すりから崖下に落ちて死亡した。二人の死に不審なところは何もなかった。二人とも美しく成績もよく、人気のある少女であった。

・第四章「回転木馬
いま、一人の作家がとある小説を書こうとしている。小説のタイトルは「三月は深き紅の淵を」にしよう。


久しぶりに恩田陸を読みましたが、やっぱり面白いですね。小説に引き込まれます。
個人的には第一章と第二章が面白かったです。
第一章のお洒落な館でお酒を飲みながら、不思議な本の話や読書の話を熱く語り合う雰囲気とかすごくいいです。
第二章の夜行列車でミステリーな話をする感じも好きです。


第一章で読書についていろいろ語られますが、そのなかで作者の性別について語られます。

「でも不思議ね。作品を読むという次元で見れば、作者の性別なんて関係ないはずなのに、やっぱり本を読む時、どこかで作者の性を気にしている。意識されていないようでいて、実は作者の性別というのは重大な問題なのよね」

面白いですね。確かに本を読むとき、どこかで作者の性別を気にしているような気がします。
女性の書く男同士の友情とかなんともいえない違和感があります。逆に男性の書く女性っていうのも女性から見ると違和感があるのかもしれません。女性作者の書く女性と男性作者の書く女性は確かに違いますね。

名前とか文章的な書き方でどちらかわからなくても、なんとなくこの作者は男性かな女性かなって考えることがあります。
というか、一番最初恩田陸は男だと思ってたような気がします。
あとは、「ごんぎつね」の作者の新美南吉も女性のイメージでした。


他に気になった語り。

「だいたいですね、僕はここでこうして本の話をしてますけど、今の若者世代じゃ本の話なんてほとんどタブーに近いですよ。読んでても、恥ずかしくて、読書してますなんて言えない。『お前試験勉強してるか?』『全然だよ』っていうのと同じです」

共感してしまう。


第二章から。

「今でも人間が小説を書いてることが信じられない時があるもんね。どこかに小説のなる木かなんかがあって、みんなそこからむしりとってきてるんじゃないかって思うよ」

面白い。


本書は恩田陸の要素が詰まった本だなと思いました。
ミステリー的なものや、少女的なものや、わけのわからないもやもやが残るものや、複雑な構成とか、そういう魅力がある本でした。
本書と関わりのある「麦の海に沈む果実」「黒と茶の幻想」も読みたいと思いました。


三月は深き紅の淵を (講談社文庫)

三月は深き紅の淵を (講談社文庫)