「高齢者虐待」

『読売』の記事;


増える高齢者虐待、被害者の8割が女性

 2007年度の高齢者への虐待件数は、家庭内で1万3273件(前年度比6%増)、介護施設内で62件(同15%増)あったことが、6日公表された厚生労働省の調査でわかった。いずれの場合も被害者の8割が女性。家庭内虐待では、4割が息子による虐待だった。


 調査は、高齢者虐待を見つけた人に通報を義務付けた高齢者虐待防止法(06年度施行)に基づくもの。全区市町村都道府県に、虐待件数や対応状況を聞いた。

 それによると、家庭内虐待の被害者は77%が女性で、40%が80歳代。認知症の症状が認められた人が少なくとも4割いた。加害者は息子(41%)が最も多く、次いで夫(16%)、娘(15%)の順だった。

 虐待の種類では、暴力を加えるなどの「身体的虐待」(64%)、暴言を吐くなどの「心理的虐待」(38%)、「介護放棄」(28%)、財産を奪うなどの「経済的虐待」(26%)の順で多かった。

 一方、施設での虐待は、グループホーム特別養護老人ホームで発生した事例がそれぞれ3割を占め、虐待者の84%が介護職員だった。

 区市町村が把握した虐待による死亡例は、前年度より4件減って27件に。13件が介護者による殺人で、7件が介護放棄による死亡、4件が心中によるものだった。

 自治体での取り組み状況では、ほぼすべての区市町村で、窓口の設置が完了した。この結果、通報件数が増え、家庭内虐待の通報は1万9971件(前年度比9%増)、施設内虐待は379件(同39%増)となった。

 虐待件数の増加について、厚労省認知症・虐待防止対策推進室は、「法施行から2年が過ぎ、高齢者虐待防止法への理解が進んだため」としている。
(2008年10月7日02時26分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20081006-OYT1T00651.htm

先ずこの記事を読んで、老人への虐待が増えているって酷いもんだねとか単純に思ってはいけないだろう。あくまでも「虐待」の「通報」が増えているのであって、「厚労省認知症・虐待防止対策推進室」も認めているように、それは「高齢者虐待防止法」の効果なのであって、実際に「虐待」が増加しているかどうかとは別問題であろう。その意味では、記事の最初の方はミスリーディング。犯罪関係の統計の多くはそもそもそうなのだが、これは実際の「虐待」というよりも、寧ろ「虐待」問題に対する(行政当局を含む)社会的な関心や敏感さを反映していると解釈すべきであろう。例えば、以前ならばあまり問題にならなかったようなカラカイとかが「虐待」として「通報」されるとか。
ところで、「家庭内虐待の被害者」の77%が女性であるというジェンダー的な偏りの方が問題としては大きいのではないか。勿論、平均寿命は女性の方が長いので、男女比ではどうしても女性の方が重くなるということはあるのだろうけど。以前、袖井孝子先生が米国の場合、若い頃から妻や子どもを虐待していた男性が年老いて動けなくなって逆に妻や子どもから報復というかたちで虐待を受けるケースが少なからずあるということを述べていたが(『定年からの人生―日本とアメリカ』)、日本ではどうなのか。
定年からの人生―日本とアメリカ (朝日文庫)

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