第58回会合(2008/9/22)

突然復活して書き始めた感じですが,引き続き第58回の会合について。今回は前回とうって変わってテーマはひとつ,「義務付け・枠付けのメルクマールについて」だけです。
今回の審議の目的は,前回の審議を前提として,各府省からの回答内容の検証結果から,メルクマール該当性についての委員会の考え方を取りまとめるというものです。前回の審議では,「どのような事務がどのようなメルクマールに該当するか」という観点から説明が行われていたのに対して,今回は各府省が「メルクマールのどれかに該当する」と考えているもののうち,委員会と行政法の専門研究者が「メルクマールに該当しない(非該当)」と判断したものについて,いくつか主要なものを抜粋して説明するという形式になりました。ただここで挙げられている「非該当」とされた義務付け・枠付けは,原則的には府省に廃止を求めるものの,必ずしも完全に国から地方への義務付け・枠付けをなくすという意味ではなくて,事務の性質によって義務付け・枠付けを緩めるという主旨だそうです。
この判断を行う対象となる法律・条文の量は非常に膨大で,小早川委員の報告によると535法律,10107条項だそうです。これに向き合った行政法学者の先生方は本当にご苦労なことかと…だいたい10000までの数字なんて数えることすらいやになるのに。詳細は事務局,ということで事務局からの報告の途中に,猪瀬委員から「読み上げでは非常にわかりにくい」という指摘があり,まあ確かに僕も聞いてて難解でかなりわかりにくいとは思っていたのですが,小早川委員が応えられていたように,限られた時間で委員会としての意思決定をしたいということを考えると,読み上げ以上のことをする時間を取るのは難しいわけで,苦しいところなのだろうなぁ,と。全ての委員が同じ水準で共通理解を得ることができたとはとても思えないわけで,それを考えると今回の審議はまあ「頭出し」という性格が非常に強い感じです。
委員からの指摘としては,まず猪瀬委員から,一部の義務付け・枠付けの中に分権委とは別の審議会などが検討を加えているものもある,という指摘があります。具体的には独立行政法人雇用能力開発機構で,政府の「行政減量効率化会議」でその事務自体の見直しが行われているとのこと。分権委ではこのような審議会間の競合がしばしば問題になるわけですが(特に規制改革会議,あとは統計委員会なども),この点はある程度すり合わせが望ましいのでしょう。しかし,政府が任命した委員の合議制組織である審議会間の「調整」っていうのは理論的にわかりにくいなぁ,と思うわけですが。本来は上位機関が意思決定すべきだという気がしますが。
それから,西尾代理からのコメントは,小早川委員の報告のときからも問題にされていたのですが,研究者によって「追加」された義務付け・枠付けの中に国が示す最低基準というものが含まれていることを問題視するものです。具体的には児童福祉法や老人福祉法の施設に関する最低基準や国交省の道路構造令など,委員会で実際に問題になったものばかりなのですが。西尾代理は,これらが「最も義務付けが顕著なもの」で,各省側が何を考えているのかわからない,と。それで,現在のところの解釈としては,「民間法人が経営する場合も自治体が経営する場合も共通に規制している場合は自治体に対する義務付けではない,と各省が理解した」というくらいしかないだろうということでした。前回の議論でも触れたように,義務付け・枠付けとして報告してこないものであればじゃあこれは義務付け・枠付けじゃないんですね,って見ればいいような気もしますが,今回は委員会で追加していると。ただ,小早川委員によると,この取りまとめがその最終的な境界画定になるということで,次に府省に回答を求めるときは,「これ以外に義務付け・枠付けはないんですね」という確認を入れるとのこと。
最後に井伊委員から,例えば国保の患者一部負担金の引き下げについての協議制を廃止するのは,社会保険制度全体としての負担という観点からどうなのか,という質問が出されます。この点については小早川委員と今回出席した東大の斎藤誠先生から,これは実質的な裁量に関する部分と手続きの部分を切り分けて,手続きの部分について義務付け・枠付けが不要だということにしている,という主旨の回答がありました。ただこの議論は聞いててよくわからなかったのですが,例えば市町村が小児医療費の患者負担金を引き下げるときに省庁と協議する必要がないということではないのですかね。もし協議する必要がないなら実質的に裁量を持って場合によっては社会保険制度を毀損する可能性もあると思うのですが,ここの実質的な裁量は別の方法で規律付けることができるということなのでしょうか。ちょっと詰める必要があるような気もしますが。
あと,今回の記者質問はいろんな意味で象徴的なところがあるのでちょっとだけ。まず朝日の今村氏からの質問は,「今回のように義務付け・枠付けが緩むことで具体的に何ができるようになるか挙げて欲しい」ということで斎藤専門委員と横尾委員に。これは今後極めて重要なテーマになるような気がしますが,率直な感想としては,委員側はまだ応える用意があるようには聞こえなかったなぁ,と。これから詰めるべき議論のひとつでしょう。で,次は朝日の坪井氏から「10107個の項目のうち非該当はいくつか」ということ。小早川委員が説明の中で数字が先走るのは好ましくないと言ってるのに聞くわけで,本当に数字が好きなんだなぁ,と。まあ交渉過程で当然「非該当」の数は減るわけで,それを後退として批判するのはあまりにも非生産的だと思いますが,どうしてもこの質問をしてしまうんだなぁ,と*1。もしそれ以外の目的があって,そのために数字が必要なのであれば,「出すのに反対」を明言する西尾代理や小早川委員をきちんと説得しようとすればいいと思うんですけどね。

追記

2008年10月6日の時事通信官庁速報によれば,義務付け・枠付けの代表例としてしばしば挙げられる道路構造令の見直しが検討されるようです。

◎道路構造令改正へ自治体アンケート=例外規定のガイドライン作成検討−国土交通省
国土交通省は、道路の設計基準を定めた「道路構造令」の見直しに着手した。地域の実情に合わない高価で過大な道路整備の一因になっているとの指摘や、弾力的な運用を求める政府の地方分権改革推進委員会の意見などを踏まえた。ただ、規制を緩和する例外規定があるにもかかわらず十分活用されていないため、同省は理由を探るためのアンケートを全自治体対象に実施中。この結果をベースに道路法政令である道路構造令の文言修正を含む改正や、例外規定の活用に関するガイドライン作成などを検討する。
アンケートの回答期限は10月15日まで。質問内容は大きく2つに分かれ、最初の項目では道路整備の際に道路構造令が支障となった事例や、規定の適用に当たって苦慮したケースを聞いている。具体的には、(1)当初の検討内容(2)構造令の規定が原因で変更した点(3)問題となった道路構造令の具体的条文(4)条文で支障になった点や苦慮した点(5)こうした事例を踏まえた道路構造令の規定・運用の見直しニーズ―について、実際に問題を抱えた経験のある自治体に答えてもらう。
道路構造令は「特別の理由によりやむを得ない場合」の緩和規定を定めている上、小区間の改築は適用除外とする特例規定があり、同省はこの緩和・特例措置を「二段構えの柔軟規定」と位置付けている。2番目の質問項目では、(1)柔軟規定の認知の程度(2)柔軟規定の適用頻度(3)適用していない場合の理由―を尋ねた。
(以下略)

結果が出てこないとわからないのですが,個人的にはこのように義務付け・枠付けを外していく行政的な分権というのは重要だと考えているので,このような前向きな検討は望ましいと考えているのですが,国交省はこれからどのくらい踏み込むことになるんですかね。ここでも書いてあるように,道路構造令には「例外」規定があるということで,第58回までの分権委会合で示された省庁が考える義務付け・枠付けの中に道路構造令が入っていなかったのですが,委員の間では国交省が道路構造令を義務付け・枠付けとして入れていなかったのはこの「例外」があるからではないかと解釈されていました。見直しに当たっては道路構造令の規定を緩めるのか,それとも「例外」を拡大する方向に向かうのかというのがひとつポイントになるのではないかと思います。記事でも「道路構造令の文言修正を含む改正や、例外規定の活用に関するガイドライン作成などを検討」するという表現になっていて,どのような見直しになるかは必ずしも明らかではありませんし。分権委の今までの議論や他の分野(特に厚労省関係か)の最低基準の議論を踏まえると,「例外」規定を拡大することで対応するよりも,道路構造令本体の方をなるべく「参酌基準」のような形にするのが望ましいのかなぁ,と思うのですが。

*1:「各省庁の担当者全員に聞いて回ればわかる」という小早川委員の「冗談」もきついですが