描写法、カットバック、大胆な省略
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で、この『乱れ雲』は、本編も良かったし、今回は、逢坂剛さんの解説(ちなみにこの方の父上は、池波作品の挿絵で有名な中一弥)が凄く勉強になった、ということを言いたい。
池波正太郎の描写法の特徴について書かれているのですが、なるほどー、であり、一番勉強になったのは、視点がころころ変わる文体は、池波正太郎ほどの大胆な省略を使える人間でないと使いこなせない、という点。はぁ〜。なるほどな。
小説を書くというのは、「何を書くべきか」と同じぐらい「何を書かずにおくか」も大事なんですよねえ。私はサービス精神が旺盛なせいか(笑)、何でもかんでも書き込んでしまうタイプなのでそこが悩み所。詳細描写を得意とする人が視点が頻繁に変わる書き方をすると、読者が感情移入できないんですって。そう言われればそうね。そう、この視点の扱いってのもポイントなんです。完全に第三者として、地の文による描写と適宜な台詞のみでいくのか、誰かの視点に絞るのか、視点を何人分か交代しながら書くのか。まあ作品によって替える人もいれば、視点統一文体の人もいればなんでしょうが。池波正太郎は、かなり視点が細かく変わるんですが、ついてけちゃうんですよね。確かに、ザクッと、ドバッと、省略が聴いている。
でもって、どんどん引っ張られて行っちゃう。何だろう、この…「書かない」ことの上手さと、引っ張り力ですね。よくよく詳細に批判してみれば、多分「描写力」だったら彼よりもっと上手い作家が、それこそ最近の有象無象の若手にもいるかもしれないんですが、話運びという点で本当に彼は天才的です。
というようなことをわかりやすくわからせてくれたので、解説が大変参考になった1冊でした。
今回の梅安2冊は長編ですが、短編も勿論いいんですよね。悪になりきれない悪と必要悪と悪を含む善。そういえば、山田風太郎は「必要悪」に対して「不必要善」ということを言っていたなあ。池波正太郎の場合は、善がどうであるかというより、悪とはどういうものかを色々と考えた人ですね。