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全国学力テストに関する疑問2つ

学力を育てる教育学』や『新しい学力テストを読み解く―PISA/TIMSS/全国学力・学習状況調査/教育課程実施状況調査の分析とその課題』を読んで以来,全国学力テストで学力を測れるのか,向上するのかについて,自分で立論するにはあまりにも知識が足りないなと考えるようになりました.
とはいえ,学力とは一応別の観点で,読む前から思っていた疑問は,依然として解決していません.ここに整理を試みました.

1. 平成19年度と20年度で,調査の目的が少し異なっているのを,どのように理解すればいいのでしょうか?

各年度の,調査の目的を引用します*1

○ 全国的な義務教育の機会均等と水準向上のため、児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し、教育の結果を検証し、改善を図る
○ 各教育委員会、学校等が全国的な状況との関係において自らの教育の結果を把握し、改善を図る

平成19年度全国学力・学習状況調査について

○ 国が,全国的な義務教育の機会均等と水準向上のため,児童生徒の学力・学習状況を把握・分析し,教育の結果を検証し,改善を図る
○ 各教育委員会,学校等が,全国的な状況との関係において自らの教育の結果を把握し,改善を図る
○ 各学校が,各児童生徒の学力・学習状況を把握し,教育指導や学習の改善等に役立てる

平成20年度全国学力・学習状況調査リーフレット

平成20年度に3番目の項目が追加されたように見えるわけです*2
そしてこれを,どのように解釈すればいいのでしょうか?
テストを実施する学校に対する,責任と権限を明記した,ということでしょうか?
こんなふうに毎年仕様を追加していきながら,継続的に,全国レベルでの学力テストを実施していくのだ,という意図なのでしょうか?

2. 「各学校が,各児童生徒に身につけてほしい知識・技能・活用方法,とってほしい生活習慣を,問題と質問紙調査という形で,全国共通かつ(事後)公開により提示する」という,隠された目的があるのではないでしょうか?
たとえば,悉皆調査ではなく抽出調査のほうが,正答率をより正確に求められるというのは,分析の観点では異論ないのですが,抽出調査において作成した問題は,公開できないのか,あるいは後の年度・他の地域や学校に再利用できないのかという,運用上(あるいはコスト面)の問題が考えられます.
そして,全国一律で*3問題を出すことで,教育学者らが,共通のリソースに基づき内容を分析でき*4,その提言を国・教育委員会・学校が把握しながら,教育内容を改善していけるのではないかというメリットも,想像できます.
少し乱暴な書き方をするなら,この全国学力テストが,学習指導要領とは別の手段により,義務教育で何を学ぶべきかを規定しようとしているのではないか,ということです.

*1:全国学力・学習状況調査の概要についてはHTMLですが,この文書には公表日時が書かれておらず,今後,書き換わる可能性があります.

*2:平成19年度の最初の項目には主語がなく,国に関することを1番目,学校に関することを3番目に分けた,とも解釈できそうです.

*3:学年と科目が限定されているのは,コストの議論の結果でしょう.加えて,B問題はいわば総合力を問うので,学年ごとに出題できるのかというと,難しそうに思えます.

*4:たとえば,『新しい学力テストを読み解く―PISA/TIMSS/全国学力・学習状況調査/教育課程実施状況調査の分析とその課題』pp.55-62, pp.114-122.