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2013年02月28日

[] トランプ配りの本質は

「http://d.hatena.ne.jp/takehikom/searchdiary?word=*[5×3]」でお越しの方へ:2013年3月より,「かけ算の順序」関連の記事には [OoM] というカテゴリーをつけています.総集編1総集編2も,どうぞご覧ください.

本日は,トランプ配りの等分除への適用について検討します.かけ算の文章題などでトランプ配りを適用しようとする話は,トランプ配りと,うまくやっていく配る(3. 猫にキャンディ,3×2とできるか?)で書いてきました.国内外の本や論文から知り得る限り,かけ算に適用しようとする先生も授業例も,子どもたちの認識というのも,見当たりません.

「トランプ配りの等分除への適用」を問題意識として,昨年末あたりから書籍を見ていくと,妙な共通性に気づきました.分ける対象が,一列に並んでいるのです.

手元の本から,例を挙げます.

Anghileri&Johnson (1988)

f:id:takehikom:20130227051638j:image(FIGURE 6-1, p.147)

f:id:takehikom:20130227051639j:image(p.156)

f:id:takehikom:20130227051640j:image(p.160)

Greer (1992)

f:id:takehikom:20121207052146j:image(p.281; dealing out

教科調査官が語るこれからの授業 小学校―言語活動を生かし「思考力・判断力・表現力」を育む授業とは

f:id:takehikom:20121212055536j:image(p.71; 2012年のトランプ配り

アイディアシートでうまくいく! 算数科問題解決授業スタンダード

f:id:takehikom:20130227051637j:image(pp.57-58; 関連:2. どっちの式でもいいのかな - 北数教

ここまでいずれも,配られる対象が一直線になっています.

それらを目にして,「数を大きく見せる手法」(後述)を連想しました.最後の板書例は,「クッキーが□こあります」として,その総数が最初に明示されていませんが,それでも,配る人数が決まっていることと,1個ずつ取り出せることを前提とすれば,配っていくことができるわけです.


等分除を,アレイ図で表現する事例も,あります.

数と計算の指導―小学校算数指導資料

4.1.2 除法の素地

先に述べた乗法の素地となるような経験は,見方を変えれば,いずれも除法の素地にもなっている。例えば,数えることに関しては,「8個のみかんは,2個ずつまとめて数えると4回になる。」などという見方ができるようにする(図1)。これはまた,減法で表すと,8−2−2−2−2で数え終えたことになる。

また,分配を,計算とは別に,実際にそうさせることもある。例えば,「8個のみかんを4人に分けるにはどうしたらよいだろう。」などという場面を考え,各人に1個ずつ配り,まだ余りがあったらまた1個ずつ配るという活動をさせる。

(pp.144-145)

f:id:takehikom:20130227051636j:image(図1)

算数科「問題解決の授業」に生きる「問題」集

f:id:takehikom:20121107061750j:image(p.85; 3年のわり算かけ算

アもイも正解です.問題解決学習では,「アが正しい」,「イが正しい」,「どちらも正しい」という反応を出させてから,アは等分除,イは包含除でどちらも正しく,「わり算は,同じ絵でも式が違う場合がある」とまとめることになります.


木村教雄『小学算術教材ノ基礎的研究』には,「包含除の本質は累減にあると見ることが出来る.」と書かれていました.

これと同様に,トランプ配りとは何なのかを,表現することができそうです.すなわちトランプ配りの本質は,等分除に対する累減の操作にあると言えます.

減らすためには,「減らす分(数量)」が定まっていないといけません.

トランプ配りは,減らす分=配る分が「1個」と,明らかです*1

逆に言うと,昨日の記事で例示した,ショウユや糸を等しい量(かさ・長さ)に分けようとすると,累減のための「減らす分(数量)」が自明ではありません.

字数を増やしていいのなら…トランプ配りの本質は,分離量を対象とした,等分除を実現するための累減の操作にある,といったところでしょうか.


「数を大きく見せる手法」について補足します.

以前に30分×10人=300分を書きました.これは,かけ算によって,大きく見せられるというものです.

小学校学習指導要領解説 算数編 p.65にも,見ておくべきものがあります.1年向けですが,8本の鉛筆を2本ずつや4本ずつに分ける話です.これを読む際に,注意しないといけないのが2つあって,一つは,1年生にとって「8つ」という数が必ずしも,具体物・半具体物を見ても瞬時に認識できるとは限らないこと,もう一つは,この分け方は包含除によるものである点です.

同じページに,「具体物を等分することについては,全体を同じ数ずつ幾つかに分けたり,全体を幾つかに同じ数ずつ分けたりする活動を扱う」とあります.表記上は,包含除と等分除を同等に扱っていて,その2種類の分け方が,除法の素地となるわけです.しかしそのあとの例示や,ページ下段の8つの○の分け方,そして添えられている式を見ると,ここもまた,包含除先行・優位であるように見えます.

もし,等分除先行・優位(もしくは,包含除と等分除の同等性)を押し進めていくだとか,トランプ配りの乗法への適用を,算数教育において確立しようとするなら,この段階から,素地となるような工夫が必要なように感じます.

(リリース:2013-02-27 早朝)

(最終更新:2013-02-27 朝)

*1:配る際に,配る分が常に同じである必要は,ありません.360円(百円玉3枚と十円玉6枚)は,3人に120円ずつ渡すことができます.「1回に配る分」が同じであれば十分です.

2013年02月20日

[][] 優しい本

かけ算の意味について,新書で「優しく」書かれている本を読みました.

算数再入門―わかる、たのしい、おもしろい (中公新書)

算数再入門―わかる、たのしい、おもしろい (中公新書)

9 掛け算について

f:id:takehikom:20130220062235j:image

「左の絵にはリンゴがいくつありますか?」と問えば、8個という答はすぐに返ってくると思われます。しかし、このリンゴの数え方にはいろいろあるでしょう。「1、2、3、4……」と1つずつ順に8まで数える人もいれば、「2、4、6、8」と2個ずつ数える数え方をする人もいることでしょう。

この「2個ずつ4つある」という考えが、掛け算の素地と言えます。

私たちの身の周りには、同じ数ずつあるものがたくさんあります。6個パックに入った卵、12本ずつ箱に入った鉛筆など、すこし探せば同じずつまとまっているものがすぐに発見できるでしょう。その総和を求めるときに、「何個のいくつ分」ととらえるから、掛け算の思考が始まります。掛け算を教えるときは、「2+2+2+2」というように、同数累加(同じ数ずつ足すこと)から始まり、「2個ずつの4個分」という考えを理解した上で、「(1つ分の大きさ)×(いくつ分)=(全体の大きさ)」という掛け算(乗法)の意味を表した「言葉の式」として一般化した式で考えるようになります。この式はやがて「(基準量)×(割合)=(割合にあたる量)」へと発展し、中学校では、多項式の項である単項式の意味になります。例えばy=ax^2+bx+cという二次方程式多項式ですが、この多項式の項であるa¥times x¥times xを表すax^2b¥times xを表すbxや単独の文字や数字のcはすべて単項式となります。

また、「倍」という関係を表す言葉も、日常的に使われています。「倍」とは「ある量を基準とする大きさで測ったとき、基準とする大きさのどれくらいに当たるか」を表しています。図のリンゴ8個は、2個ひとまとまりのリンゴの4倍です。つまり、「倍」は、基準とする大きさを1としたとき、ある量が基準のいくつ分に当たるかという、割合の1つの表現と見ることができます。

(pp.40-41)

「優しい」と感じたのには,大きく2つの理由があります.

一つは,押しつけでないということです.他のかけ算の考え方や教え方を,排除していないわけです.

もう一つは,小学校1年生から大人までで,かけ算と関わる場面とその経過・発展が目に浮かぶ点です.「雄大」と言ってもいいかもしれません.

1年からのかけ算,とは,「掛け算の素地」のことです.“2ずつ”などの「まとめて数える」活動は,1年から入っていますし,米国のCommon Core State Standards for Mathematicsにも,"Work with equal groups of objects to gain foundations for multiplication."が2年に書かれています(乗除算は3年です)."foundation"が,「素地」の英語表現としてぴったりです.


先日入手した本に移ります.

どのお皿にもミカンが3個のっています。お皿は全部で4皿あります。ミカンを集めて大きな袋に入れると、全部でいくつになるか?

f:id:takehikom:20130220062236j:image

これを次のように表す。

3個/皿×4皿=12個

あるいは、

4皿×3個/皿=12個

(略)

少しやさしい言葉でいえば、

(1当たり量)×(いくつ分)=(全体量)

または、

(いくつ分)×(1当たり量)=(全体量)

となる。

(pp.42-44)

ふむ,一つの場面に2つの式ですか.「やさしい」ですか.ともあれ読み進めます.

■ かけ算の順序

「どのお皿にもミカンが3個のっています。お皿は全部で4皿あります。ミカンを集めて大きな袋に入れると、全部でいくつになるか?」という問題の答えを

3個/皿×4皿=12個

という順序で表さなくてはいけない、と思い込んでいる人が多い。

4×3=12 だから、12個

とか、

4皿×3個/皿=12個

と書くと間違っていると思う人がいるというのだから困ったものである。

1皿当たり3個のミカンがのっていて、そのような皿が4皿あるのだから、4皿×3個/皿=12個と考えるのは自然な発想なのである。この自然な、ある意味では合理的な思考を無理にやめさせようという考えは無理が生じるのである。

「かけ算の順序」について、「(1当たり量)×(いくつ分)」にしなければならないかを、子どもたちにいかに教えたかという小学校教師の奮闘記が新聞で紹介されたことがあるが、そんな先生の苦労を解放してやらなければならない。

「意味のないこと」「無駄なこと」「間違ったこと」を一生懸命教える先生がいなくなることを願うばかりである。

(pp.46-47)

この一節は,「優しい」と正反対の位置にあります.

言葉を拾うと,「と思い込んでいる人が多い」「小学校教師の奮闘記が」「一生懸命教える先生が」と,“人”が何度か出てきます.

しかしそれらの“人”は,その認識や行いを改めるべき対象として書かれています.もちろん著者の外の存在です.『算数再入門』の引用では,「私たち」が1箇所で,全体として,著者と読み手が認識をシェアできるように書かれているのと,対照的です.

さて…その記述に該当する“人”が,上記引用やその前後を読んで,「そうか,かけ算ってこう考えればいいんだ,よし改めよう」と思うのかというと,難しそうです.小学校の先生方はおそらく,「4皿×3個/皿=12個」のタイプの表現を,教科書や書籍からも,日常生活からも,見つけることができないのです.

参考文献がないこと,「かけ算の順序」という言葉が定義なく出現していることから,上の引用で「そうだそうだ」と思う人々---想定する読者---はあるわけです.小学校の先生方とは,氷炭相容れずなのかなあとも思います.

「思います」ばかりも好きではないので,テクニカルな話を2点.

  • 「どのお皿にもミカンが3個のっています.お皿は全部で4皿あります.ミカンを集めて大きな袋に入れると,全部でいくつになるか?」

  • 「お皿は全部で4皿あります.どのお皿にもミカンが3個のっています.ミカンを集めて大きな袋に入れると,全部でいくつになるか?」

とで,かけ算を学習した子どもたちが書く式の割合(「3×4」に何%,「4×3」に何%,など)は異なります.そのものずばりの実験をしなくても,学力調査・学術調査から,推論できます.

字数の都合もあるのでしょうが,かけ算の構造だとか,子どもたちの認識だとかの部分が,おろそかになってしまったのは,残念なところです.

「小学校教師の奮闘記」はasahi.com(朝日新聞社):2×8ならタコ2本足 - 花まる先生公開授業 - 教育と思われます.しかしそこには,「かけ算の順序」も「1当たり量」も出てきません.そしてあの記事から学ぶべき最も大事なことは,順番を逆にして書くと意味が変わっちゃう(変わり得る)という事例です.


本ではないのですが,「優しい」方に質問をする機会がありました.

今月某日,座長を務めた件の,最後のご発表です.日本舞踊の研究はほとんど知らないけれど,CHやじんもんこんで,それなりの頻度,発表されているのは,知識として持っていました.事前に発表者をWebで検索し,名前の読み方などをチェックしていたところ,今回の発表者が高名な教授であることを知りました.

質疑の時間に,超過を承知で(座長!),尋ねました.デモされていた動画を見て所作の良し悪しが分かる“デジタル”な人も,それではなく人の動きで分かる“アナログ”な人も,日本舞踊をしている人にはいそうで,先生は,アナログ・デジタルの両方が分かる方なのではないか,といったことを含め,当を得ない質問内容になってしまいました.

回答は,発表と同様の柔らかい語り口の中に,踊りの稽古のご苦労を入れながら,お話をされていました.3分ほどオーバーしてしまいましたが,得がたい経験をしました.


関連:

2013年02月19日

[] トランプ配りと,うまくやっていく

0. トランプ配りの基礎資料

1972年1月26日の『朝日新聞』に小学校のテストをめぐる論争がのった。それによると,昨年の秋,大阪府松原市・松原南小学校の2年生のテストに,つぎのような問題があったという。

「6人のこどもに,1人4こずつみかんをあたえたい.みかんはいくつあればよいでしょうか」

これに対して何人かの子どもは,

6×4=24

と書いたが,その答案は,答えの24こにはマルがつけられ,式の6×4にはバツがつけられ,4×6と訂正されたという。

(p.114)

ミカンを配るのに,トランプを配るときのやり方で配ると,1回分が6こ,これを4回くばるのだから,それを思い浮かべる子どもは,むしろ,

6×4=24

という方式をたてるほうが合理的だといえる。

これが,もし,つぎのような問題だったら,どうだろう.「教室の机は1列に6つずつ4列ならんでいます.机はみんなでいくつありますか」という問題では,4×6でも,6×4でもいいとせざるをえないだろう.

(p.116)

本日は,「トランプ配りの乗法への適用」に焦点を当てて見直します.「トランプ配りの等分除への適用(にこにこわり算など)」については,別の機会とします.

1. みかんの配り方 - 都算研の学力調査より

いきなりですが問題です.

子どもが 3人 います。みかんを 1人に 4こずつ ふくろに 入れて くばります。くばる みかんの 数を もとめる しきを かきましょう。

出典はhttp://tosanken.main.jp/data/H22/jittaityousa.pdf#page=5です.休養期間中に,都算研2011に書いた件です.都算研の正式名称は,東京都算数教育研究会です.

ページ下部では,「評価基準及び割合」が図表になっています.上の問題では,正答(A1)が54%,「4+4+4=12」(A2)が1%,「3×4=12」(C1)が38%,その他(C2)が9%です.

それらのラベリング(とくに英字),およびページ内の記載内容から,「4×3(=12)」と「4+4+4(=12)」を正解扱いとし,C1については間違いと判断してよさそうです.

問題文を見直しますと,「みかんを1人に4個ずつ袋に入れて配ります」と,配り方を指示しているのが,特徴的です.

この指示の意図は,「一つ分の大きさ(1つ分の数,1あたりの数,1あたり量)」を4に限定することなのでしょう.

そして,トランプ配りを防止しているようにも見えます.

もしそれでも,みかんを1人に4個ずつ,3つの袋に入れる際に,トランプ配りのやり方で入れることができると主張するなら…

そういった入れ方は,「みかんの産地」や「みかんの大きさ」などと同様に,問題を解くのには使えない付加情報だ,というだけのことです.

2. どっちの式でもいいのかな - 北数教

休養期間中に,最新は?として書いた件です.北数教の正式名称は,北海道算数数学教育会です.

本の監修者は,筑波大学の先生で,日本の算数教科書がスペイン語へ翻訳でも取り上げました.編著者2名のプロフィールには,共通して「北海道算数数学教育会」が書かれています.奥書の一つ手前,執筆者一覧では,監修者を除く全員の所属が,「北海道教育大学」または「札幌市立」から始まり,「小学校」を含みます*1.といったわけで,北海道の算数指導に携わる先生方の間で,本にする価値のある指導内容が取りまとめられた,と思ってよさそうです.

「どっちの式でもいいのかな」は,pp.52-55の4ページです.p.52は文章による解説,p.53は「アイディアシート」による,授業指導のための構図,そしてpp.54-55の見開きで,板書例や指導上の注意が記されています.

その4ページで,コアとなる出題は:

3まいのおさらにりんごが6こずつのっています。りんごはぜんぶで何こですか。

これを,「「あれ?」を生む問題」としています.当ブログでは《BA型》と書いていたパターンです.「基準量が後に示された問題」(例えば『確かな学力を育てる算数科学習指導略案集 低学年編』)といった表現でも,知られています.

本ですが,「意味が欠落した手続き」では,「(最初に出てきた数)×(後から出てきた数)」として考え,3×6という式を立てる,と持っていきます.

ここで,トランプ配りやアレイの考え方をもとに,3×6という式を立てる子は,出てきません.推測ですが,それまでのたし算やかけ算の学習をしてきていると,それらの考え方は発生しないのでしょう.ネットでよく言われる別解は,大人の後付けの推論なのです.海外事例ですが,長期調査で取り上げた,子どもたちの解き方の分類・分析も,そのことを支えています*2

それでもなお,授業で,トランプ配りやアレイの考え方をもとに,3×6という式を言う子がいたら,どうなるでしょうか.

本では「もし3×6だと…」と進めます.解説には「もし3×6だったらちがうお話になっちゃうよ」(p.52),板書では「もし // 3×6だとしたら // 6まいのおさらに // りんごが3こずつ // のっています。 // になる!」(p.55)とあります.

それらの「もし」は,話の流れとしては,それまで学習した「かけ算の意味」が欠落して,3×6と書いた向けの対応なのですが,トランプ配り対策にも使えるわけです*3

また別の観点でも,この4ページはなかなか周到にまとめられています.というのも,「かけ算の順序」対策もしているのです.

ざっと数えたところ,「順序」が2回,「順番」が10回,出現しています.そして,「順序」「順番」の前には,「お話の」「数の」「数字の」が書かれてあり,「かけ算の」は見当たりませんでした.

「順序にこだわる子どもには」(p.53)と,こだわるのは(ネットでよく言われる)教師や教え方ではなく,子どもの側であるのも,興味深いところです.

3. 北数教の指導集

「北海道算数数学教育会」で,一つ情報を見かけました.

積分定数 2011/12/27 18:51

(略)

それから参考までにこんなのを拾いました。

北海道算数数学教育会小学校部会

http://hokkaido-sannsuu.com/s_sidouan.html

http://hokkaido-sannsuu.com/pdf_sidouan/02/2nenkakezan3.pdf

>自分が計算しやすいように1あたり量を任意に決めてかけ算を使う経験の積み重ねが、乗法による処理の有効性に気づかせ、生活に生かそうとする態度を養うことになる。

>式から形式的に交換法則をとらえるのではなく、「前から見ると…」「横から見るとと…」などと1当たり量を柔軟にとらえる見方こそが大切である。

http://d.hatena.ne.jp/filinion/20111224/1324684685#c

URLの後者のほうは,ジェットコースターだ…別件で知ったのをきっかけに,ジェットコースター問題を書きました.ジェットコースター問題の主眼は「一つの数をほかの数の積としてみること」であり,それに対し,よく論争になっている出題は「乗法が用いられる場合とその意味」を問うものです.

前者にアクセスすると…6学年4領域の表で,学習指導案PDFファイルにリンクされています.

興味を引いたところを,抜き出します.

  • 2年 数と計算
    • かけざん(関口清吾):「C3:お皿が3枚で、ケーキが4こずつで3×4で12です」
    • かけざん1:「6×5? 5×6? どちらの式がいいの?」
    • かけざん(大江則夫):「そのことによって、3×5と5×3との違いを見つけていけると同時に、3×5=5×3という交換法則を導けるだろう」
  • 3年 数量関係
    • しきのみかた(西田成子):「○○さんは、1まい何円かのシールを6まい買ったら代金は48円でした。シールは1枚何円でしょう」
    • しきのみかた(仲倉優):箱のなかに何個かのケーキが入っています。ケーキを8人で分けたら、1人分が3個になりました。何個入っていますか」

「3年 数量関係」では,□を使ったかけ算・わり算の式を取り扱っています.以前に3年のわり算かけ算で読みました.

ともあれ,北数教の指導集を読んだ限り,3年まで,乗法の意味を重視した指導をしていると,見なしてよさそうです.

ジェットコースター問題,論争になっている問題,学習指導案から思い浮かぶ算数の授業…それらを結び付けて言うなら,「一つの問題(場面)に対し,複数の答え・反応が考えられる」という点でしょう.これについては,以下のように書いたのでした.

  • "There should be permitted more than one way of solving a problem." --- Yes, the class typically encourages the pupils to produce various answers based on diverse ways. And one of them (or more) is what they will share, the teacher wishes, in the class and some of them are correct in a mathematical sense but less interesting, and some are the answers or approaches which the children will see as wrong. (snip)
Towards Japanese Multiplication Instruction

4. 1988年のmultiplicative structures

  • Vergnaud, G. (1988). Multiplicative Structures. In Hiebert, J. and Behr, M. (Eds.), Number Concepts and Operations in the Middle Grades, Vol.2, pp.141-161. isbn:0873532651

1983年に,同じ著者が同じタイトルで書いた件の焼き直しだろうと思っていたら,ずいぶんと違っていました.

ともあれ本日は,補強版となっている箇所を取り上げます.

1. Connie wants to buy 4 plastic cars. They cost 5 dollars each. How much does she have to pay?

a) 5+5+5+5=20

b) 4・5=20

c) 5・4=20

d) 4+4+4+4+4=20

(1. コニーは4個のおもちゃの車を買いたい.1個は5ドルする.いくら払わないといけないか?

a) 5+5+5+5=20

b) 5×4=20

c) 4×5=20

d) 4+4+4+4+4=20)

(p.144)

和訳にあたりあえて,b)とc)では「×」を使用し,日本の算数の表記にしています.以降の訳では,「・」は大人の議論として使用します.「a・x」は「a倍のx」と読み,aを乗数(しばしばxの係数)とみなします.

Connieだとかコニーだとかの前に「1. 」があるのは,かけ算に関する文章題と解き方(procedure)が何通りかあるためです.問題は5まで,解き方はn)まであります.2番目の問題の解き方は,「a)」と振り直すのではなく,「e)」となっています.そのようにして,異なる問題でも同じ式になる場合に,そこから共通点・相違点を探ろうという試みをしています*4

もし,かけ算の対称性を重視する,というか「かけ算に順序がない」価値観なら,b)とc)の関連づけを重視し,あとはa)とb),d)とc)の関連性にも考慮を払うかもしれません.しかし著者は,a)とb),c),d)と分けて議論していきます.まずa)は累加です.それをかけ算の式にしたのが,b)となります.

そうすると「5ドルが4つ」あるいは「5ドルの4倍」という関係が見えてきます.これは図になっています(p.145).

f:id:takehikom:20130219053724j:image

次にc)です.著者は,この式は次の図で考えればよいと説きます(p.146).

f:id:takehikom:20130219053725j:image

日本式に言うと,c)の式「4×5=20」における「4」は,おもちゃの車の個数です.「×5」は,「1個5ドル」という,車の数と価格とをかけ算によって結びつける操作(「multiply the number of cars by the price of 1 car」(p.145))を表します.

d)という伏線の回収と合わせ,この件の著者によるまとめは,次のようになっています.なお,isomorphic(同型)とlinear(線形)を,f(x)=axという式によって同等視していることを前提とします*5

The comparative facility of isomorphic over functional properties is even easier to show by considering all four procedures a, b, c, and d. Procedure b is a meaningful concatenation of procedure a. The cost of 4 cars = the cost of 1 car, plus the cost of 1 car, plus the cost of 1 car, plus the cost of 1 car. Expressed formally in terms of the isomorphic property for addition, this is f(1+1+1+1) = f(1)+f(1)+f(1)+f(1), and in terms of the isomorphic property for multiplication, f(4・1)=4・f(1). Procedure d is meaningless in terms of cars and costs. Twenty dollars cannot be 5 cars + 5 cars + 5 cars + 5 cars. Young students apparently are aware of this and never user procedure d. So there is a strong asymmetry between procedures b and c. They are not conceptually the same, although because of the commutativity of multiplication they may be mathematically equivalent.

(同型性は,4つの手続きaからdまでをまとめて検討することで,より容易に示される.手続きbは,手続きaと意味をもってつながっている.4台の値段とは,1台の値段+1台の値段+1台の値段+1台の値段である.加法における同型性を,式で表すと,f(1+1+1+1)=f(1)+f(1)+f(1)+f(1)であり,乗法における同型性によって,f(4・1)=4・f(1)となる.手続きdは,車の数と価格の観点から,無意味である.20ドルは,5台の車+5台の車+5台の車+5台の車にはなり得ない.幼い生徒たちはどうやらそのことに気づいているらしく,決して手続きdを使わない.そのため,手続きbとcの間には強い非対称性がある.それらは,乗法の交換法則によって数学的には等しいかもしれないが,概念的には同一ではない.)

(p.146)

日本の算数だとどうか…a)とb)が正解とされるのは,都算研の出題から予想できます.d)は,解答類型にも出て来ない,子どもの発想にない式です.都算研の出題で,もし「3+3+3+3」と書いたなら,「それだと,3人と3人と3人と3人で,12人になっちゃうね」と言えばよさそうです.

c)の立式が正解・不正解になる状況を探ってみます.まず低学年では不正解とされます.先生方の授業・テストなどを通した観察により,「第2学年や第3学年では、読み取った数を、「1つ分の数×いくつ分=全体の数」と表現できることが重要であり、逆に、この立式ができているかで、数の読み取りができているかを判断できる」(『小学校指導法 算数 (教科指導法シリーズ)pp.91-92)が確立されています.

c)の考え方が,小学校で認められるのは,小学校高学年,ただし比例の式y=k×xを学習する前までと思うのがよさそうです.高学年では□=△×4のような,「2つの数量の関係を式で表すこと」を学習します.比の話で,2×30gにて2通りの表の見方を示しましたが,これは比に限定することなく,比例関係がある対象において成り立ちます.

比例の式を学習したら,「1個(あたり)5ドル」は比例定数となり,「×5」ではなく「5×x」と書くよう指導されます.

5. おもちゃの車とトランプ配り

上記のc)では,「4×5」(原文では「5・4」)と表したときの「×5」に「1個5ドル」という解釈が含まれています.パー書きの単位をつけて表すと,

  • Vc) 4個×5ドル/個=20ドル

です.

遠山の問題,

6人のこどもに,1人4こずつみかんをあたえたい.みかんはいくつあればよいでしょうか

に当てはめると,

  • Vo) 6人×4個/人=24個

となります.

この式の構文について,外部情報を2つ,示しておきます.一つは外部といってもサブアカの日記でして,かける数が1あたりにて整理しています.もう一つは『数とは何か?―1、2、3から無限まで、数を考える13章 (BERET SCIENCE)』p.46でして,「どのお皿にもミカンが3個のっています。お皿は全部で4皿あります。ミカンを集めて大きな袋に入れると、全部でいくつになるか?」という問題に対し,「4皿×3個/皿=12個と考えるのは自然な発想なのである」と述べています.この本は,後日また取り上げます.

それに対し,トランプ配りでは,

  • Do) 6個/回×4回=24個

となります(『数の現象学 (ちくま学芸文庫)』p.69).おもちゃの車の問題は,

  • Dc) 4ドル/回×5回=20ドル

としてみましょう.ここで「1回」とは,4個のおもちゃの車それぞれの前に,1ドル紙幣を置くこととします.

パー書きを用いた場合,みかんの問題,車の問題で,期待される式も,書いておきます.

  • Ao) 4個/人×6人=24個
  • Ac) 5ドル/個×4個=20ドル

(文字の意味は次のとおり:A:AMI数学教育協議会), D:dealing-out(トランプ配り), V:Vergnaud's, c:car, o:orange

Ao)とAc)を既知とし,式を見比べると,2つの手続きの違いを確認することができます.まず,Vergnaudの与えたc)では,Vo)とAo),Vc)とAc)を比較すれば分かるように,かけられる数・かける数の位置だけが異なります.その上で,「1あたり量」が乗数となるような解釈(乗法的構造の一つで,累加とは異なるもの)を示すことによって,その式が説明されます.

トランプ配りの式では,Do)とAo),Dc)とAc)との比較になります.かけられる数とかける数の両方の単位を,問題として与えられたものから,変換しています.その変換は,「トランプを配るときのやり方」に象徴される操作によるものです.

そのもとで,「1あたり量×いくら分=全体量」に当てはめて,式を得ることができる,という次第です.

これらは(そもそも本記事は)大人の議論であり,こういった解釈をどこまで認めてよいか,また日本の小学校の算数で受け入れられるかについて,私は答えを述べる位置にはいません.ともあれ,

  • 「算数」にない考え方が必要そう
  • 式に単位を添えて書くことのメリット・デメリットはどのように議論されてきたのだろうか

といった問題意識が出てきまして,まだまだ先かなと思っています.

6. 英文の味わい

英語の解説書を好んで読み,ブログで取り上げているのには,いくつか理由があります.

まずは単純に,学習欲・知識欲です.海外ではそして歴史的には,どのような検討がなされてきたのかを知り,日本のいまの(そしてこれからの)算数・数学は,どうなっている(いく)のだろうかというのを,イメージしていきたい,というわけです.

次に,読み手への配慮がしっかりなされた文章である点を,指摘しておきたいと思います.一例を挙げると,Vergnaudの分析には,「正解」「間違い」といった表現は出てきません.記述の内容をどのように取り入れ,算数や世の中への見方を充実させればよいかは,読み手に委ねられているというわけです.

それから,自分は職業として(常時ではないにせよ)英文を読み書き,聞き話ししないといけないので,英語力を,なじみのあるコンテンツから仕入れることができるという点も,一つの動機となっています.本日引用した中では,「may」のつく位置が,これまで読んで当ブログで取り上げてきたのと,また異なる位置にあり,小さな感動を覚えました.

必ずしも和訳できない,英文の味わいには,助動詞の使い方と,名詞の単複があるように思います.Vergnaud (1983),Vergnaud (1988)とも,タイトルは「Multiplicative Structures」であり,もしこれが単数の「Multiplicative Structure」であれば,「かけ算の構造とはこれだ!」と言っているようなものです.「s」がつかなくなっただけで,多様性や寛容性が激減してしまうように感じるのです.

さまざまな「構造」について,かけ算の問題の構造と題して整理を試みたことがあるので,関心のある方はどうぞ.

7. トランプ配り封じ一覧

以下は自分用のメモであり未整理です.内外の情報にリンクをしていきたいと考えています.

  • 出題で,トランプ配りをさせないようにする.
  • トランプ配りの適用が非現実的であることを確かめる.
  • 別の解釈ができることを示す.
  • トランプ配りは別のところ(等分除)で使うと伝える.

(最終更新:2013-02-21 深夜)

*1:1名だけが「小学校長」,他は「小学校」で終わっています.

*2:そこでは「トランプ配りは不明」と書きましたが,一つずつ数えたり,まとめて数えたりしていく限り,トランプ配りの出てくる余地はなさそうです.それらの調査・分析の方法が間違いだとおっしゃる方には,きちっと調査をして取りまとめ,公表することを,要望します.話は,学術的批評に耐えるエビデンスが上がってからです.

*3:「アレイ」をかけ算の意味に使っている日本の算数のクラスは,たぶんないと思うので,除外しています.そのあたりに関心のある人はSMSGで調べるか,当ブログからだとかけ算の式と言葉の順序 メモをご覧ください.

*4:「かけ算に順序があるというなら,長方形の面積は縦×横か? 横×縦じゃダメなのか?」という周回遅れな方向けにも,長方形の面積問題が5番目に入っています.式は「m) 4・5=20」「n) 5・4=20」です.b),c)と比較してこの場合には対称性があるよなあ,product of measuresであってsimple proportionとは別物だよなあ,と記されています.

*5:「cost (4 cars) = 4・cost (1 car)」という式もp.145に見られます.このうちcostが線形関数です.

2013年02月18日

[][] 小話集

もくじ

1 おやつの じかん

 よにんの しまいが いました。アヤコ,カナコ,サワコ,タダコ という なまえです。

 あるひ,おとうさんが よにんの こどもに いいました。

「おやつの じかんだね。みんなで おいしいのを たべるか」

 こどもたちは よろこびました。

「ちょうど,『ひとくち みかん ゼリー』を もらった ところで,ほとけさまに おそなえして いるから,とって こよう」

「いくつ?」

「そうだなあ。ひとり,6こで どうだ」

 こどもたちは またも よろこびました。

「ちょうど いい,かけざんの もんだいだぞ。6こずつ 4にんで,ぜんぶで いくつだ?」

 こどもたちは,こえを そろえて いいました。

「ろくし,にじゅうし!」

「その とおりだ。だから 24こ もって くるよ」

 おとうさんが,ゼリーを もって,おかあさんと いっしょに,4にんの ところに もどりました。

「ほら,やるぞ」

 こどもたちは ますます よろこびました。

「そら。1こめは,アヤコ,カナコ,サワコ,タダコ,おかあさん,おとうさん。2こめは,アヤコ,カナコ,サワコ,タダコ,おかあさん,おとうさん。3こめは,アヤコ,カナコ,サワコ,タダコ,おかあさん,おとうさん。そして 4こめは,アヤコ,カナコ,サワコ,タダコ,おかあさん,おとうさん」

「あれっ?」

「みんな,4こずつ あるよな」

「おとうさん,おかしいよ」

「どうした?」

「さっき,ひとり 6こって いった じゃない!」

「いって ないよ」

「いったよ!」

「そうか? かけざんの もんだいだぞ。6にん いて,4こ ずつで,ぜんぶで いくつだ?」

 こどもたちは,こえを そろえて いいました。

「ろくし,にじゅうし! あれ?」

「いいよな。わがやは 6にん かぞく なんだから,6にんに 4こずつで,ゼリーは ちょうど 24こだ。めでたし,めでたし。はい,おとうさんの ぶんは,ごちそうさま。おまえたちも,はやく たべるんだよ」

「おとうさん,ぜったい おかしいよ!」

2 りんご 15こ

 ここは ホテルです。しはいにんが,じゅうぎょういんを つかまえて,いいました。

「わかって いるよな。きょうの ひろうえんは,だいじな おきゃくさまだ」

「はい」

「しんろうの かぞくは,この あたりで ゆうめいな りんごのうかでも ある」

「はあ」

「それで,りんごを あずかって いて,いくらかは りょうりに つかって もらう。その まえに,かたちが よくて,きず ひとつ ない りんごだけを よりすぐって,わが ホテルで とびっきりの おさらに もって,ひろうえんの テーブルに おいて ほしい。あちらさんの ねがいでも ある」

 じゅうぎょういんは,きく ばかりです。

「それで,その かずだが」

 しはいにんは,かみと ペンを とりだして,5×3と かきました。

「15こだ」

「すみません,この 5×3は?」

「5まいの さらに,3こずつ,だ」

「わかりました。ほかの ものと てわけして やります。その かみを もらっても よろしい でしょうか?」

「おまえは まったく けいごが できとらんな。ほら,やるよ。まちがえるな」

 じゅうぎょういんは,うけとって,いいました。

「すみません。いわれて みれば,5まいの さらに 3こずつか,5こずつ 3まいの さらに なのか,まちがえそうです。なんとか なりませんか?」

「ふむ,そうだなあ」

 しはいにんは かみを とって かきたし,「さら 5まい×3こ りんご」と しました。

「これで,まちがえる ことは ないだろう」

 じゅうぎょういんは,うけとりました。

「かしこまりました」

「さいしょから,そういえってんだ!」

 ひろうえんが はじまる 15ふん まえ,しはいにんが,じぶんの へやで そわそわ している ところに,だれかが ドアを ノックします。

「なんだ? はいれ」

「しつれいします」

 がらがらと,だいしゃに のって,はこびこまれたのは,3つの はこです。

「なんだ,これは。もって こいとは いってないぞ」

「あの,せんぱいから いわれまして,ホテルで とびっきりの おさらを 15まい えらんで,5まいずつ,3つの はこに いれなさい,と」

 その じゅうぎょういんは,しはいにんに,「さら 5まい×3こ りんご」と かかれた かみを わたしました。

「これは,わたしが かいた ものだ。だが,よういしろと いったのは,15まいの さらでは ない! 15この りんごだ」

「りんご ですか? りんごは ありません でしたが」

「なぜ ないのだ?」

「わかりません。ちゅうぼうに,りんごを いれていた はこが ちょうど 3つ ありましたので,これに おさらを いれて,しはいにんの ところに おもちすれば いいんだと おもいまして」

「いらんよ,こんなもん!」

第3話 複素数の計算

 私は大学生です。アルバイトで塾の講師をしています。

 この間,机間巡視をしていて,

(3+2i)(5−4i)={5・3−2(−4)}+{3(−4)+2・5}i

    =15+8+(−12+10)i

    =23−2i

と書いている生徒がいたのでびっくりしました。

「なあ,ちょっといいか」

「先生どしたの?」

「そこの計算,最初,5かける3じゃなくて,3かける5じゃないのか?」

「あれ,先生に言ってなかったっけ? ボクが小学校2年のとき,これで騒動になったんだよ。『お皿が5枚あります。お皿にりんごを3個ずつ乗せます。りんごはいくつでしょう?』ってのでね…」

話は延々と続きます。そばの生徒が耳打ちしてくれました。

「騒動のあとね,3×5=5×3だからって言って,普通なら3×5と書くところ,あいつ,いつも『5×3』と書くようにしてるんだって」

第4話 的当てゲーム

 私は大学生です。前のお話の「私」です。

 小学生のころ,入っていた子ども会が,催しをするというので,久しぶりに小学校の体育館を訪れました。

 部屋の半分はバザーで,残り半分では,子どもたちが,昔懐かしいゲームを取り仕切っていました。

 その中に,的当てゲームがありました。ダーツみたいなのですが,針ではなく,マジックテープになっています。点数は中心部が5点で,外に行くにつれて1点ずつ下がっていき,的に当たらなかったら0点です。

 じいっと見ていたら,やってみてよと,誘われました。10個の羽(はね)をもらい,投げました。「兄ちゃん,上手いね」なんて,ひとまわり年下の子どもに言われ,むずがゆくなりました。

 あっというまに終了。別の子どもが,得点計算を紙に書いてくれていまして,受け取りました。

  • ×=15
  • ×= 0
  • ×=15
  • ×= 2
  • ×= 0
  • ×= 0
  • ごうけい32てん

 塾の高校生だけでなく,ここの小学生も,3×5を5×3と書くのかな…?

 書いた子が,胸を張って言いました。

「お兄ちゃん,分かる? 赤い数字が,的の点数で,青い数字が,当たった回数だよ!」

 お礼を言い,体育館をあとにしました。

第5話 3+2×3=?

 こんにちは,私です。大学生やっています。アルバイトで塾の講師もしています。

 いつもは高校生を指導しているのですが,塾長先生から,小学生の面倒を見る人が足りないと言われまして,手伝ってきました。

 4年生の算数だったと思うのですが,計算問題がありました。

  3+2×3=

 これ,かけ算のほうをたし算より先にするという問題ですね。

 なのですが,ある子が「15」と書いていました。

「そこはね…」

「先生,僕,電卓で計算したんだよ! 間違っているって言うの?」

 凄い剣幕です。電卓の数字は,15になっていました。

 先生用の座席に戻って息をつき,手の届く距離にある電卓を引き寄せ,3,+,2,×,3,=,と押すと…15が表示されました。

第6話 九イズタイムショッ九

「現代は,かけ算との戦いです」

 途中は省略しまして

「参ります…タ〜イムショッ九!!」

(ぽーっ,ちちちち…)

「9個入りのチョコレート,4箱でいくつ?」

  「九四,36個」

    ぴぽん♪

「2人ずつ座っているベンチ,3つで何人?」

  「二三が6人」

    ぴぽん♪

「9人,2チームで野球の試合,全部で何人?」

  「九二,18人」

    ぴぽん♪

「つのつの一本 赤鬼どん♪ 8人で,つの何本?」

  「一八が8本」

    ぴぽん♪

「7グループのネコ,それぞれ4匹で何匹いる?」

  「四七,28匹」

    ぴぽん♪

「5人乗りの車,4台あったら何人まで…」

  「五四,20人」

    ぴぽん♪

(とたったらったー♪)

「5枚のお皿にみかんが3つずつ,お皿は何枚?」

  「一五が5枚」

    ぴぽん♪

「ではさっきの問題,みかんは何個?」

  「五三,じゅ…三五,15個!!」

    …………

「この問題が終わったら,開始から何秒経過?」

  「五九,45秒」

    ぴぽん♪

「毎月のおこづかいは2千円,半年でいくら?」

  「二六…1万2千円」

    ぴぽん♪

(…じゃらじゃらじゃらじゃら)

「高さ7センチのブロック,8個積んだら高さは?」

  「七八,56センチ」

    ぴぽん♪

「三輪車三輪車三輪車。ひらがなにすると全部で何文字?」

  「六三,18文字」

    ぴぽん♪


「素晴らしい! 11問正解でした」

「いや,全問正解,したかったんですけど」

「それにしても,何秒経過の問題は,即答でしたね」

「あれは出ると思っていました。8問目か9問目で」

「最後に,一言どうぞ」

「どんな問題も解けるように,準備していたんですが…誤算でした」

第7話 小学校では¥sqrt{2}を教えないの?

「もしもし,お電話かわりました」

「あのさあ,小学校では¥sqrt{2}を教えないの?」

「はい,どういうことでしょうか?」

「2の平方根のうち,正のほうの数のことですよ」

「はあ」

「だから,¥sqrt{2}平方根も,教えないの?」

「それは中学校で学ぶことに…」

「何言ってるの!」

「はあ」

「1辺が1cmの正方形があるでしょ」

「は,はあ」

「その対角線の長さは?」

¥sqrt{2},センチメートル,ですか」

「そうでしょ」

「それと小学校とでどういった関係が…」

「小学校の算数の中でも,¥sqrt{2}になる数は現れるでしょ」

「えっと,まあ,そういうふうにすれば,出てきますね」

「だからこの数について教えるべきなのです」

「は? そうは言われましても」

三角定規あるでしょ。直角二等辺三角形のほうの」

「ええ,まあ」

「あれの斜辺は?」

「……」

「分からないの? 底辺の長さの¥sqrt{2}倍ですよ。あなた本当に算数・数学指導できるの」

「いやそうおっしゃられましても」

「変な敬語ですね。あと,A3はA4の何倍ですか?」

A3? A4?」

「紙の寸法ですよ」

「ああ,そういうことですか。えっと…」

「知らないの? 面積ではA3はA4の2倍。だから相似比は¥sqrt{2}:1になるんですよ」

「……」

「もう,ここまでルートのことを知らない人が,教育に携わっているなんて。腹立つなあ!」

第8話 子ども手当,バツからマルへ

2011年6月,とある土曜日…

 田植えが無事に終わり,シャワーを浴びてほっとしているところに,テーブルの上に,市からのハガキがあるのに気づきました。

 文面は保護されていて,ぺらぺらっとはがすと,「子ども手当支払い通知書」でした。

 なのですが,対象となる期間が,今年の2月から5月までで,支払金額が…1人分,長女ひとりの4か月分だけです。

 あれ,これ世帯ごとだっけと思ったら,横の注意書きにちゃんと「所得に関係なく1人あたり1万3千円(月額)が支給されます」とあります。

 2月に生まれた双子の姉妹,次女・三女の分を,申請していなかったってこと?

 妻ともども,びっくりしました。

 今あれこれ考えても仕方ないので,週明けに,市役所に電話することにしましょう。

◆つぎの火曜日の昼間…

 本当は「つぎの月曜日」に電話すべきだったのですが,大学の業務に時間をとられてしまいました。

 ハガキに記載のナントカ課の番号に,かけました。

 やはり,子ども手当増額の手続きが必要で,それをしていないためとのことです。

 そして,今月中に手続きをすれば,来月分から支給の対象となるのですが,これまでの分は支払えません,ともおっしゃっていました。

 電話を切って,自宅へ。妻に経過を報告したのですが,怒りは収まらないようでして,自分から電話すると言い出すので,番号を伝えました。

 子ども手当増額の手続き,するに決まっているのに,なぜしなかったんだろう…記憶をふりしぼってみると,公務員扱いされた可能性が思い浮かびました。

 そこで部局の事務の方に,この件はやっぱり自分と市との間で解決しないといけないのか,勤務先は関係ないのかを確認するメールを送り,あとは自分の仕事,具体的にはその週の金曜日の授業準備を進めました。

◆その日の晩…

 帰宅して,妻が「おかえり」のあとに言うのはやはり,ナントカ課との電話のことです。ある職員さんではラチがあかないので,上司さんに替わってもらい,さらにその上司さんとも話をしたとのこと。相当強い調子で言っても,ダメでしたか。ただ,不服申し立ての制度があり,県のカントカ課に対して行えることを,引き出しています。

 夕食をとって次女三女にすまんのおと言いながらあやし,それから2階でパソコンに向かうと,大学の事務の,馴染みでないお名前の方から,昼間の件で返事が来ていました。送った事務の方から,本部のある部門に,転送されていたようです。

 やっぱり大学はノータッチとのことでした。かつて児童手当という制度で,しかも大学が国立大学,教職員は国家公務員だったときには,勤務先での手続きとなっていましたが,いまは公務員ではありませんものね。市の職員によっては,国立大学に勤めているといえば,イコール公務員と勘違いされたのかも,ともありました。

 丁重に返信をしたあと,出生届を出したときにもらった書類を探しました。1分もせずに見つかりました。

 1枚1枚,読み直していく中で,「お知らせ」というA4判の紙を発見しました。「出生届を提出された後」のあとに,3項目,記されています。

 まず「出産・育児一時金」は,国民健康保険ではないため,手続き不要のバツ印が,鉛筆書きで,ついています。次の「乳幼児医療費助成制度」についてはマルが添えられています。そこに書かれている,ドーノコーノ課へ行った記憶があります。

 そして最後,「子ども手当制度」のところに,バツ印がつけられています。これが,子ども手当の手続きをしないよう,市役所の人が誘導した根拠になりそうです。

 具体的にいうと,こうです。まず出生届の手続きにおいて,本人確認で保険証を提示しました。私の場合,文部科学省の共済組合員証です。職員さんがこれを見て,公務員だからということで,子ども手当の手続きは不要と判断し,説明された,という流れです。

 もう一度,相談するとしましょう。妻も同意しました。翌日は仕事が立て込んでいるので,時間に余裕のある,あさって木曜日に,市役所へ行くことにしました。

◆2日後の木曜日…

 書類を渡すことになるかもしれないので,「お知らせ」ほかは,出発前に,コピーをとっておきました。

 9時過ぎに,妻と市役所に入りました。子ども手当のナントカ課ではなく,出生届に関係する,ナンダカンダ課へ行きました。窓口の職員さんに,「子ども手当通知書」と「お知らせ」を見せ,事情を説明したところ,課長さんという方がお越しになり,課内の打ち合わせスペースに案内されました。

 事情説明をやり直ししました。ですが基本的には,なごやかな空気でした。ナンダカンダ課とナントカ課とで,協議することになりました。「お知らせ」の紙を渡しました。その裏面に,連絡先の電話番号を書いてほしいと言われ,自宅の番号を書きました。

 ではよろしくお願いしますということで立ち上がり,課長さんが「お知らせ」をクリアファイルに入れる際に,ちらっと別の用紙が見えたのですが,こちらの氏名や家族構成など,個人情報が書かれていたっぽいです。打ち合わせスペースに着くまで,こちらの個人情報を明かさなかったので,火曜日に妻が強く抗議したナントカ課から,このナンダカンダ課に連絡が回っていたのかもしれません。

 市役所の中で妻に,じゃあ行ってくるねと言い,いつもより1時間半遅れで,大学の門をくぐりました。この日は6時まで授業があり,残務処理をしていると,帰るのも定時の1時間半遅れです。

 そうしてただいまをすると,妻から,朗報を得ました。電話がありまして,協議の結果,確かにナンダカンダ課の落ち度なので,郵送する書類に書き込めば,遡って支給するよう対応する,となりました。ただし,妻からの伝聞ですので,実際に「落ち度」だとか「遡って」だとか,電話越しで言われたかどうかは,分かりません。

◆その次の月曜日…

 市から封書が来ていました。中には,白紙の「子ども手当 額改定届」。何か所か,鉛筆でマル囲みがあり,付箋で記入の注意事項が貼り付けられていて,まあこれに書けばいいってことですね。

 それと別に,記入済みの額改定届がありました。上に書いた「次の火曜日の昼間」,したがって前の週の火曜日のうちに,妻が市役所ではなく出張所にて,この申請をしてくれていまして,受理日のスタンプが押されています。

 出生届を出した日付の「子ども手当請求書等受理票」と,切手付きの返信用封筒も,同封されていました。

 付箋の指示のとおり記入し,ハンコを押しました。「次の火曜日」の申請で受け取り,その日付のスタンプがある「子ども手当請求書等受理票」が必要ということで,妻からもらって,返信用封筒に入れました。出生届を出した日付のほうは,手元に置いておきました。

 翌火曜日に,投函しました。

◆それでも引っかかるのは…

 こちらからすることは,上でおしまいです。市役所の方々のご英断に感謝します。そして私の住む市では今後,このようなトラブルは起こらないでしょう。といっても,市民でありかつ国立大学法人の教職員が,出生届を出すケースがどれだけあるのか,分かりませんが。

 それはそれとして,心の中で引っかかるものがあります。

 今回の出来事を一言であらわすと,「バツとされたことが,抗議によってマルに変わった」のです。

 そこで連想するのは,「かけ算の順序」をめぐる論争です。『さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。』という出題に対して,5×3=15という式がバツというのはおかしい,マルにすべきだ…という話です。

 まず思うのは,不条理に思えたとき,直接抗議をしたり,そこまで行かなくても事情を説明して相手さんの考えを引き出したり,さらにそれより外の活動として,Web上などで書いて情報交換するのは,極めてまっとうな活動である,ということです。

 また,今回の件であれば市役所内,かけ算に関しては(とりあえず)小学校が,抗議を受け入れ,主張を認めるか否かを,最終的に判断するということになる,という共通性も,見ることができます。

 そしてある意味で共通点であり,にもかかわらず結果が分かれてしまうのが,「根拠」の存在とその活用です。実際のところ,バツ印つきの「お知らせ」という物的証拠がなかったら,ここまでの行動はできませんでした。

 かけ算の件はどうでしょうか。数学者の著書を中心として,マルにすべき根拠が知れ渡ることとなりましたが,その一方で,大きめの書店に行くか,教育学部のある大学であればその蔵書から,りんごのかけ算の出題意図を知ることができます。それらでもいいですし,ブロガーなどの紹介文・批評文も読み比べた上で,あとは初等教育に直接関与しない者として,どちらの主張が教育にかなっているかを判断すればいいのです。

◆今回のドタバタで…

 手元に残った書類は,スクラップブックにでも入れ,大事に保管するとします。次女・三女が成長し,生まれたときのことを知りたくなったときに,家の写真,乳児としての双子の写真とともに,取り出して,解説をしてやろうと思います。

 そのときには,子育てを支援する給付制度は,残っているでしょうか。家ではまだ,田植え・稲刈り・畑仕事をしているでしょうか。そして私自身,笑い話にできるでしょうか。

リンク


編集後記

 2011年にとりまとめた「小話集」を一本化して,ブログの記事にしました.

 8つの話のうち,最初だけ,2012年に書いた,子ども4人と大人2人で配るものに変更しました.他は,表記を統一させ*1,本文は,わずかな変更にとどめました.

 中心となるかけ算の式を「6×4」に差し替えようか,とも思ったのですが,「的当てゲーム」では6点という,やや中途半端な的が必要になること,「九イズタイムショッ九」の最後を変えるのが困難だったことから,「5×3」のままにしました.

 一口みかんゼリーを「配る」ことによって,“6個ずつ4人”と言っていたのが“6人に4個ずつ”に変わったのは,2つの意図があります.一つは,トランプ配りが数の構成を多様にすることの確認です.もう一つは,「おとうさん」のように場を支配する人に対して,弱い「こども」の立場でどんな行動をとれるかを,考えるべきではないかという提案です(朝四暮三もご覧ください).

 「1 おやつの じかん」「2 りんご 15こ」の中心的なところは,『板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 小学校算数2年〈下〉』p.47の絵が示しています.そのほか,「3人の子どもが4つずつキャンディを持っている状況」と「4人の子どもが3つずつキャンディを持っている状況」とを比較して,キャンディの総数は同じだけど前者のほうが子どもたちは"luckier"であると記した洋書もあります(Anghileri & Johnson (1988)).

 これからも,思いつきを形にしてから,あとで本を読んで「昔の人も同じように考えていたのね」と理解していくとします.

(リリース:2013-02-09 早朝)

(最終更新:2013-05-12 夕方.チョコレート→ゼリー)

*1句読点については,関数一発です.

2013年02月17日

[] 算数教育・資料集(教科書・論文・その他)

目次

小学校学習指導要領 算数科編(試案) 昭和26年(1951)改訂版

以下の引用はいずれもV. 算数についての評価からです.

三年の乗法九々の学習で,三の段がひととおりすんで,こどもたちは三の段の九々がすらすら唱えられるようになった。そこで,教師は次のようなテストを行って,こどもがかけ算の意味を理解して,九々を適用する力が伸びたかどうかを調べてみた。

問題 3人のこどもに,えんぴつを2本ずつあげようと思います。えんぴつがなん本いるでしょう。どんな九々をつかえばわかりますか。

どんな九々をつかうかという問に対して,3×2=6と答えたものが予想以上に多いことがわかった。これによってこどもは問題に出てくる数を,その数の意味を深く考えもしないで,出てくる順に書き並べ,その間に,かけ算記号を書き入れることがわかった。問題に出てくる数を頭の中にいったん収めて,演算の決定に導くように問題の場を組織だてる力が欠けているらしいことがわかった。そこで,その欠けていることについての再指導に入るわけである。

3は人数を表わしている数である。それを2倍した答の6は何といったらよいか尋ねてみる。それで,6人となって問題の要求に合わないことを説明する。このようにして3×2=6とするのが誤であることを明らかにしたとする。

しかし,上のような指導だけでは,問題をすこし変えてテストしてみると,ほとんど進歩しないことがはっきりわかってきた。つまり,一方を否定するような消極的な指導だけでは,前に述べたような問題を組織だてる力を伸ばすのに,ほとんど役だたないことがわかった。これが再指導に対しての評価であって,指導の方法を修正する必要をつかんだわけである。そこで;問題解決を,同数累加の形にもどして,倍の概念をしっかり押えるように指導したのである。今度は成功した。この事実を教師が見届けたのもやはり評価である。

(《BA型》)

四年で「1個12円のりんごを5個買うと,代金はいくらになるか」という問題を解決する場合のことである。こどもは,まだ,二位数に基数をかけて繰上がりのある計算を学習していないのである。

(略)

りんごがたいそう安くて1個6円だったら,5個の代はいくらかになるだろうと発問してみた。6×5=30の九々を使うことができた。これに力を得て,1個のねだんを7円,8円としだいに増して,かけ算を適用する考えを固めた上で,12×5の計算ができればよいことを,こどもに気づかせるように導いた。

小学校学習指導要領解説 算数編

例えば,「12個のおはじきを工夫して並べる」という活動を行うと,いろいろな並べ方ができる。下の図のように並べると,2×6,6×2,3×4,4×3などのような式で表すことができる。

(図省略.図の下に「2×6 または 6×2」「3×4 または 4×3」)

(p.81.《複数解》)

式を読み取る指導に際しては,例えば,3×4の式から,「プリンが3個ずつ入ったパックが4パックあります。プリンは全部で幾つありますか。」というような問題をつくることができる。

(p.99)

さらに,除法の逆としての乗法の問題,例えば「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか。」のような場合にも,乗法が用いられることを理解できるようにする。

(p.107.《BA型》.第3学年)

「内容の取扱い」の(4)では,「乗数又は被乗数が0の場合の計算についても取り扱うものとする」と示している。例えば,的当てで得点を競うゲームなどで,0点のところに3回入れば,0×3と表すことができる。3点のところに一度も入らなければ,3×0と表すことができる。0×3の答えは,実際の場面の意味から考えたり,乗法の意味に戻って0+0+0=0と求めたりする。また3×0の答えは,具体的な場面から0と考えたり,乗法のきまりを使って3×3=9,3×2=6,3×1=3と並べると積が3ずつ減っていることから,3×0=0と求めることができることに気付くようにする。また,こうした0の乗法は,30 × 86 や54 × 60 のような計算の場合にも活用される。

(p.107)

整数の乗法については,「一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かを求める」,「何倍かに当たる大きさを求めたりする」などの場合に用いる。

第5学年では,乗法を乗数が小数の場合にも用いることができるようにしたり,除法との関係も考えて,より広い場面や意味に用いることができるようにしたりして一般化していく。その際,数量関係を表している文脈が同じときには,整数の場合に成り立つ式の形は,小数の場合にもそのまま使えるようにする。

(p.166)

小数の乗法では,乗数が小数の場合にも用いることができるように意味の拡張を図る。例えば,120×2.5の意味を考えるとき,下のような数直線を用いて表したり,「120を1とみたとき,2.5に当たる大きさ」と言葉で表したり,公式や言葉の式を利用したりして,乗法の意味を説明することになる。

(p.169)

東京書籍 平成23年度版 小学校教科書 新しい算数

平成27年度用 小学校教科書のご紹介|東京書籍

ボートが 3そう あります。

1そうに 2人ずつ のって います。

ぜんぶで 何人 のって いますか。

(2年下p.16.学力調査結果に見るつまずきへの取り組み p.1.《BA型》)

つぎの 2つの もんだいの,しきと 答えを 考えましょう。

(1) えんぴつを 1人に 2本ずつ,5人に くばります。

えんぴつは,ぜんぶで 何本 いりますか。

(2) えんぴつを 2人に 5本ずつ くばります。

えんぴつは,ぜんぶで 何本 いりますか。

(2年下p.21.http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/text/shou/subject/sansu/tsumazuki/ebook/pdf/2.pdf)

1本136円で,280mL入りのジュースを4本買います。

代金はいくらですか。

(3年上p.104.算数デジタルカタログ見本 p.16.「条件過多の問題など,本文中では扱いにくい問題も取り上げています。」が添えられている)

大日本図書 教科書 平成23年度版 たのしい算数 2年下

大日本図書|大日本図書

つぎの 2人の つくった もんだいは,2×6と 6×2の どちらの しきで もとめれば いいでしょう。

2つの ふでばこに えんぴつが 6本ずつ 入って います。

えんぴつは 何本 あるでしょう。

(つばさ)

えんぴつを 1人に 2本ずつ,6人に くばります。

えんぴつは 何本 いるでしょう。

(あおい)

(p.45.《AB型》《BA型》.内容解説資料 9/25の下段右から2番目,「きほんのたしかめ」が丸囲みされているページをクリックすると,http://www.dainippon-tosho.co.jp/h23/sansu/sansulink/sa11/default1.html に移動し,その右側のページより参照できる)

東京都算数教育研究会による調査

東京都算数教育研究会が昭和44年1月に東京都の2年児童約2,000人について行った調査によると,次のように報告されている.

〔問題〕8×6のもんだいをつくりました.よいものに○をつけなさい.

(1)( )みかんが一つのおさらに8こ,もう一つのおさらに6このせてありますが,みかんはなんこありますか.

(2)( )えんぴつを6本かいました.このえんぴつは1本8えんです.いくらはらえばよいですか.

(3)( )1まい6えんのがようしを8まいかいました.いくらはらえばよいですか.

この正答率は34.1%であり,誤答率は61.5%,不答率は4.4%であったという.

(花村郁雄: かけ算の意味と方法 -つまずき事例- , 整数の計算 (リーディングス 新しい算数研究), p.117.《AB型》《BA型》)

「計算の力」の習得に関する調査

http://www.sokyoken.or.jp/kanjikeisan/keisan_h18.xhtml末尾のPDFファイルから,出題と正答率を知ることができます.

小学校算数 これでバッチリ!計算指導 (指導のこつシリーズ)』ならびに「2011年以降の書籍」で挙げた同書も,ご覧ください.

「計算の力」の習得に関する調査〜第3回調査、2005年実施〜(財団法人 総合初等教育研究所)

(p.3)

(1) 小学校第1学年から第6学年まで(略)学年ごとに問題を構成する.

(4) 各学年で習得した「計算の力」が、それ以降の学年でどのように定着しているかを明らかにするために、当該学年の問題や前学年までに学習した問題を「共通問題」として位置づける。

(p.116)

全国より抽出した(略)地域から、11、382人の児童生徒を対象に実施した。

(p.118)

(1)実施時期

平成17年1月に予備調査を実施(対象976人)

平成17年3月に本調査を実施

(p.119)

練馬区児童・生徒学力調査

  • http://www.city.nerima.tokyo.jp/kusei/tokei/kyoiku/gakuryoku.html
  • [http://www.city.nerima.tokyo.jp/kusei/tokei/kyoiku/gakuryoku.files/19renkei.pdf: 小中連携の視点からの授業改善

平成19年10月23日実施,小学校算数の解答者は第4学年.

現在はWeb上で原文が確認できません.archive.orgのWayback Machineからも,取得できませんでした.

小学校では、第2学年で乗法の意味を指導する際に、1つ分の大きさが決まっているときに、そのいくつ分かにあたる大きさを求める場合に用いるとし、被乗数と乗数の意味の違いを明確に指導している。しかし、その後は、計算技能の習熟に多くの時間が費やされること、交換法則を学習すること等から、被乗数と乗数の意味の違いをあまり意識しないようになりがちである。

今回の調査結果で、6×15と立式するところを、問題文に出ている数字の順に15×6と立式した誤答が60.0%と圧倒的に多かったことはそのことを示している。第3学年以降の整数や小数、分数の乗法の学習でも、単元の初め等で数直線を活用し、被乗数と乗数を意識して式を立てる指導を繰り返し行うことが重要である。

一方、中学校になると、文字を使った式の学習で、「文字と数の積では、数を文字の前に書く」と約束するようになる。「かけ算の記号は省いて書く」こと等と合わせて、文字式では新しい約束で表していくことを丁寧に指導する必要がある。

(「小中連携の視点からの授業改善」 p.3.《BA型》)

B県学力検査

子どもが 4人 います。みかんを 1人に 3こずつ ふくろに 入れて くばります。くばる みかんの 数を もとめる しきを かきましょう。

正答率(2学年) 49%

誤答例 4×3

(p.1.《BA型》)

東京都算数教育研究会 平成22年度実施 学力実態調査

[3] 子どもが 3人 います。みかんを 1人に 4こずつ ふくろに 入れて くばります。くばる みかんの 数を もとめる しきを かきましょう。

しき 4×3(=12)

(略)

[3] 乗数、被乗数の関係を考えて立式できるかをみる問題である。正答率は54%である。36%の児童は問題文に出てきた順に立式したものである。乗法の指導においては、問題場面を絵や図に表すだけでなく、式を半具体物で表したり絵や図で表したりする活動や、身の回りの事象から乗法の式で表せるものを探す活動を通して、「1つ分×いくつ分」という関係が体験的にとらえられるようにしていきたい。また、問題文に出てきた順序と逆に立式する問題を取り入れ、「1つ分」に当たる数はどれかを考える態度を育てていきたい。

(p.5,第2学年の結果と考察)

本年度は、22年度末に実施された、新学習指導要領全面実施直前の移行期の内容を加えた「数と計算」「数量関係」領域における学力実態調査の集計と考察を行いました。集計児童数は、50地区314,710人*1でした。

正の量と実数とに関する一考察

乗法の意味の指導について

(略)そのねらいに沿って,こどもが実際に受け入れているか,また,とくに数学的な考え方の育成の一つの手がかりとして,このような意味の拡張に着目させることが果して,こどもの段階からみて適切なのかどうか.このようなことを念頭において,次のような点について,まず,こどもの実態を明らかにしようとしたのが,この調査のねらいである.

① 乗法の指導を通して,拡張の必要について,こどもがどの程度に意識してきているか.

② (拡張された)乗法の意味を,具体的にどんな内容としてつかんでいるか.

③ 被乗数と乗数とを区別して意味づけを行なってきていることが,乗法の意味をさらに抽象していく上に,どのような影響を及ぼしているか,など.

(pp.2-3)

問2 7×2.4のように,かける数が小数のかけざんは,どんな考えを表わしているといえますか.次のうちで,自分でもっともよいと思うもの1つだけに○をかきなさい.

□ア.7を2.4回加えるという考え

□イ.たとえば,たて7cm,よこ2.4cmの長方形の面積を表わすという考え

□ウ.(もとにする大きさ)×(割合)の式で,「もとにする大きさ」が7,「割合」が2.4という考え

□エ.たとえば,下の図のように,7の大きさを1目もり(単位)にして数直線をかいたとき,2.4の目もりのところになる大きさを表わすという考え

□オ.たとえば,次の図のように,Aのじくで1の長さがBのじくで7に広がるようなしかけがあるとき,Aの2.4がBでどれだけになるかを表わすという考え

□カ.7.24は,7×1の大きさを1とみたとき,2.4にあたる大きさを表わすという考え

(p.3.図は省略)

問4 次の式で,○や△は,どれもいろいろな数を入れるところを表わしています.

    ○×△

次にのべたことのうち,この式のことを正しくいっていると思われるものに,すべて○をつけなさい.

□ア.○に入れる数をきめておいて,△に入れる数を2ばい,3ばい,…,または¥frac{1}{2}¥frac{1}{3},…になるように変えていくと,この式の表わす大きさも,2ばい,3ばい,…,または,¥frac{1}{2}¥frac{1}{3},…というように変わる.

□イ.△に入れる数をきめておいて,……(アで,○を変数とした場合)

□ウ.○に入れる数と△に入れる数をとり変えても式の表わす大きさは変わらない.

□エ.○や△に,どんな数を入れても,○×△の表わす大きさは,○や△の表わす数よりも,いつも大きい.

□オ.○×△に,どんな数を入れても,答は一つの数で求められる.

(p.5)

乗法の意味についての論争と問題点についての考察

累加の考えをさけようというのは,算数の指導についての基本的な立場の相異によることであって,乗法という問題だけで考察することは適切とはいえない.(略)しかし,乗法と加法の特別な場合を簡潔に表すという立場から意味づけることは,とくに,低学年の場合には,教育的にも意味のあることであり,さきのラパッポルト氏の反論にもある.

わが国でもこの立場をとっているが,アメリカの新しい計画による教科書でも,この立場をとっているものが多い.これには,ラパッポルト氏の指摘にもあるように,整数の段階では,集合の直積に近い意味づけをしても,累加の考えに帰著してほぼ処理できることや,直積の考えのままでは,実際に乗法を適用するに当たって,困難をともなうことなどの理由があげられよう.

(p.76)

b) 小数・分数(有理数)の場合に,どんな意味づけをするか.

累加の考えの問題点は,周知のように,整数の場合ではなく,乗数が有理数の際に起こる.わが国の場合は,累加という考えをそのまま用いないで,次のような意味に一般化(拡張)する方法をとっている.すなわち,

A×Bについて,A,Bを次の意味に対応させる.下の図では,A×Bは,Bの目盛に対応する大きさをよみとることに当たる.

A……基準(単位)とする大きさ

B……Aを単位とした測定数(measure)

(略)

この考えの長所として,次のような点をあげることができる.

ア.乗数が整数の場合,すなわち,累加の考えを特別な場合として含んでおり,整数,および,小数・分数に関係なく,一貫して用いられること.しかも,実数の場合の発展も困難ではない.

イ.この指導を通して,整数の場合にとった乗法の意味を拡張することの必要性を意識させ,拡張の考えを用いる機会をこどもに与えることができること.

ウ.小数,分数の乗法が適用される場合を,この意味にもとずいて一般的に理解させ,乗法の適用判断を統一的に能率よく行なうことができること.

(p.76)

4) 4×2は,英語ではfour times twoまたはfour twosなどという関係で,乗数と被乗数がわが国の場合と反対になっている.

8) 以下では,乗数,被乗数の順については,わが国の表記による.

9) (略)なお,註4)で,アメリカでは,乗数を先にかくとのべたが,最近では,わが国の場合のように,乗数をあとにかく方法(乗数をoperatorとしてみる場合に統一的にでき便利である)をかなり取り入れるくふうがされている.この場合,3×4は3 multiplied by 4などと呼んでいる.

(p.77)

小数の乗法における学習状態の移行

本稿の目的は,小数の乗法の指導によって,小数の乗法の文章題における演算決定に関する学習状態がどのように移行していくかを明らかにすることとする。以下では,「小数の乗法の文章題における演算決定に関する学習状態」を単に「小数の乗法の学習状態」と略記する。小数の乗法とほ,乗数が小数である乗法のことである。被乗数が小数である乗法は,整数の乗法に含める。本稿では倍(multiple)に関する小数の乗法を考察の対象とし,積(product)に関する小数の乗法は取り上げない。(略)

(p.1)

その結果次のようなことが明らかとなった。短期的な指導効果として,小数の乗法の演算処理と演算決定の両方ができるようになった児童は少なかった。全体的な傾向として本稿で設定した学習状態は,基本的には1段階ずつ移行していくものと言える。

学習状態が移行した児童と移行しなかった児童を比較したところ,次のような活動が学習状態の移行に有効である可能性が示唆された。

(1) 小数の範囲における比例を理解すること。

(2) 具体的場面と小数の奏法とを関係づけること。

(3) 多様な表現手段によって小数の乗法を表現すること。

(p.7)

算数教育における文章題指導のあり方に関する研究

以上,これまでみてきたことをまとめると,構造図をはじめとする我が国の文章題指導の工夫は,問題の読みから立式までの過程において,問題場面の理解や問題文に記載されている数的関係をいかに子どもにとらえさせるかに集中していたとみることができる。文章題指導の目標の一つには,先にも示したように,「数理を現実の世界で活用する」「実際の生活上で起こった問題を解決する」といった点が存在する。これまでの,文章題の指導は,どちらかというと現実世界への活用能力の育成というよりも,技能面に焦点をあてた指導がなされてきたように受け止められる。このことは,指導者側がよかれとして行ってきた努力が,文章題解決の技術的な側面を強調する結果となり,子どもたちが「文章題は実際的な問題とはあまり関係のない,算数の時間だけのものである」といった意識を強める一つの要因となったのではないかと考える。

(p.5)

学級対抗のサッカー大会があります。選手,コーチ,保護者を含めて540人います。みんなはバスでグラウンドに行きますがそれぞれのバスには40人が乗れます。グラウンドに行くために何台のバスが必要でしょう。(学校からグラウンドまでは約5kmはなれています。)

(p.8)

整数の乗法の理解過程に関する研究

一般に乗法の指導は乗数が有理数に拡張される部分が難しいとされ、先行研究も多い。しかし、筆者の経験では小学校2年生の整数の乗法の段階でもに学習に困難を感じる児童が存在し、一般には次のような姿がみえる。

・文章題が解けない・立式ができない

・場面に適した絵図などが描けない

筆者はこれらの児童の理解を支援するために、授業の時間以外にも、個別に指導の時間を取ったり、家庭学習に頼ったりしてきた。しかし、それだけでは解決しない現状があった。原因は多様であるが、1つに筆者自身が児童の実態について明確な視点で捉えられないまま指導していたことがある。

そこで、乗法の学習後、乗法の意味の理解が不十分とみられる児童を対象に実態を捉えながら再指導を行い理解過程を探っていくことで乗法の概念形成における指導の改善の示唆を得ることができるのではないかと考えた。

(p.75)

第2に乗法の定義である。整数の乗法を単位が決まったときに、その単位を基にして、それを繰り返し加えて全体の数量を求めるための計算方法や表現方法とする。例えば、文章題の場面で、四則計算のどれにあてはまるかと考える場合にそこから単位(1つ分の大きさ)にあたる数といくつ分にあたる繰り返しの数を読みとり乗法で立式ができることである。この定義については導入時に学習する。鵜飼(1994)、人見(1997)の実践に見られるように同数同士の加法と他の加法との比較により、1つ分に着目させたり、峰崎(1995)や山崎(1988)の実践に見られるように、乗数、被乗数にあたる部分を未知にすることによって1つ分、いくつ分に着目させる指導がある。いずれにしても、被乗数と乗数にあたる数の意味が異なることを理解させる必要がある。

(p.75)

茂男は解決に行き詰まると倍々の加法と累加に見直す活動を繰り返しながら単位を再構成を行い乗法の概念を形成していった。このことから、茂男の単位の認識の深化のプロセスに茂男自身が持っている倍々の加法のストラテジーが橋渡しとして働いていることがわかる。

(p.81)

茂男と和男の調査を通して以下の知見を得ることができた。

① 数える活動が、累加や乗法的操作に発展していくためには下記の2点が重要である。

a数を様々なまとまりの単位として扱えること。

b単位としてのまとまりを再構成するプロセスを持っていること。

② 累加や乗法的操作への発展のプロセスでは、単位のアイデアに関連した児童自身のストラテジーが媒介として機能した。

(p.83)

算数の問題解決における図による問題把握の研究

数学教育協力における文化的な側面の基礎的研究

具体例を挙げて、少し説明を加える。かけ算の導入は、日本では次のように扱われる。

『しょうがくさんすう2年下』(中原他, 1999, p.16)

みかんがひとさらに5こずつのっています。4さらではなんこになりますか。

この問いに対して、1さらに5こずつ4さらぶんで20こです。このことをしきで

5 × 4 = 20

とかき「五かける四は二十」とよみます。

それに対して、英語ではかけ算を表す順序が逆で、“four plates of 5 oranges”という英語での表現より、4×5=20となる。そこで問題となるのは、例えばタイでは自然な語順が日本語式であるにもかかわらず、教科書は英語式の順番に従っている。単にかけ算の順序が逆になっただけで小さなことのようであるが、初めての学習者にとってはかなりの認知的な負担が強いられるだろう。この例に見られるように、認識的な差異を考慮に入れないでカリキュラム開発をするならば、教科書という基本的な教材の中に、基本的な問題を抱えこんでしまう可能性がある。

(p.38)

数学も新しいものの見方を要求している。例えば冒頭に挙げた「どちらが何台多いでしょう」の事例では、答えはほぼ出ているにもかかわらず、子どもは教師が求めるように式を書くことができない。我々の多くにとっては既に当たり前になっていることが、子どもにとって実はかなりの負担を要する活動であることを示している。そこで、子どもが必要性を感じ、記号によって書くことができるようには、記号化を必要とする状況を教師が意図的に設定することが求められる。

この場合の必要性とは、美しさ、単純さ、整合性、有用性などによって支えられるもので、もちろん各文化によって価値の置き方が異なる。ある種の記号化の容易さは、その価値の置き方によって異なってくる。極端な場合では記号化において、数学という文化と自分の置かれている文化の2つの間に分断が起きることも考えられる。

(pp.36-37)

不備のある算数文章問題に対する小学生と高校生の解決方略

問題① えんぴつが5本ずつはいっているふでばこが3つあります。このふでばこは何円でしょう。

問題② バケツのなかに水がどんどんたまっていきます。1分たったらバケツに10cmのところまで水がたまりました。2分たったら20cmのところまで水がたまりました。では,3分たったら何cmのところまでたまるでしょう。

問題③ 山本君の家と学校は,500mはなれています。木村君の家と学校は,300mはなれています。では,山本君の家と木村君の家は,何mはなれているでしょう。

問題④ 1この重さが5kgのりんごが6つあります。合計何kgになるでしょう。

問題⑤ 4このボールと5このボールがあります。かけるといくつになるでしょう。

問題⑥ 熱さ80℃のお湯が1リットルあります。そこに40℃のお湯を1リットルたしました。お湯の温度は何℃になるでしょう。

(p.469)

不備のない算数文章題2問を用意した。2問の文章題は,「42リットルの石油を3リットルずつバケツに入れます。バケツはいくついりますか」と,「ハイキングにクラスの全員が行くことになりました。バス代が1人200円で,クラスは20人います。ひ用は全部で何円になりますか」である。

(p.470)

問題③は,計算をするために必要な条件設定が不足していることが原因となって,答えがひとつに定まらない文章題である。算数の教科書に掲載されている文章題は,すべて答えがひとつである(金田,2001)ことを考えれば,小学生が計算できる「500−300」と「500+300」の加減の演算によって異なる2つの解が算出されるこの文章題は,算数の文章題としては不備のある問題である。問題③が,問題②と異なる点は,小学生が計算できる四則演算を使用することによって算出される答えが,2通りあるか,1通りしかないかの点にある。問題③の答えは,「200m」と「800m」の2通りであるのに対し,問題②の答えは,「20+10」や「10×3」などの異なる演算を使用しても,「30cm」の1通りしか算出されない。小学生は,算数の学習場面において,問題③に対して,「200m」と「800m」のいずれかひとつしか答えを算出しないことが知られている(Verschaffel,De Corte & Lasure,1994)。

「小数のかけ算」に関する教師の不十分な意味理解と教員養成系学生への援助

質問4 ある小学校5年生の子どもから「2.7×3.6」について「この式の意味を考えたんだけど,2.7を3.6回足すってどういうことかわかりません」と質問されたらあなたはどう説明しますか。(略)

(p.6)

(7)「かけ算の意味」と「答の出し方」の区別

皆さんの中には次のような疑問をもつ人がいるかもしれません。それは,「⑤うさぎには耳が2本ある。ウサギが4匹いると耳の数は全部でいくつか」の場合は,「1あたり量×いくつ分」になっているのは分かるけれど,同時に,2+2+2+2にもなっているから,かけ算の意味を「足し算の繰り返し」と捉えてもいいのではないかという疑問です。

これについては,「かけ算の意味」と「かけ算の答の出し方」を区別するというのが答になります。つまり,かけ算の意味は「1当たり量×いくつ分=全体の量」だ。そして,足し算の繰り返し(2+2+2+2)は,かけ算の意味ではなくて,答えの出し方の1つなのだと捉えます。

「答の出し方の1つ」と書いたのはこういうわけです。⑤(うさぎの耳)の答を出すときは,2+2+2+2でなくて,4+4でもいいわけです。だって4匹のうさぎの左の耳を数えると4本で,右の耳を数えると4本で,合わせると8本だ,でも答が出るわけですよね。これに対して,2+2+2+2というのは,1匹ずつの耳の数を足し合わせて答えを出すという方法を使ったわけです。

(p.17)

乗法の意味に関する児童の理解の実態調査

問4

7×2.4の式で求められる問題を1つ作りましょう.ただし,問2の②のような面積を求める問題はのぞきます.今まで学習したことを思い出して考えてみましょう.(式・答えは書かなくてよい.)

(p.10)

<表4:問4の解答分類>*2

①. 7×2.4 17.9%(57名)

②. 2.4×7 26.6%(85名)*3

③. 2.4倍 13.5%(43名)

④. その他 22.6%(72名)

<表5:問4の正答率>

◎正しく問題をつくれたと判断するもの(解答類型a g)13.2%(42名)
○おおよそ正しく問題をつくれたと判断するものを含めたもの(解答類型a g b h)21.0%(67名)

(p.5)

誤答例としては,2.4×7の問題(解答例5)をつくった児童が多かった.やはり乗数が整数の方がイメージしやすいのではないかと考えられる.

<解答例5>

2.4mのリボンが7本ありました.それをぜんぶつなげると何mになりますか.

(p.6)

小学校児童による有理数の乗法における乗数効果の分析

1) “乗数効果”とは「被乗数として用いられる数のタイプは演算としての乗法を知覚する上での困難性に対して効果なく,乗数として用いられている数のタイプが重要となる」というもので,1より大きい数では整数よりも幾らか困難なだけであるが,1より小さい数は非常に困難であるという傾向である。文章問題においても計算問題においても共に乗数効果の存在が指摘されている(Greer,1990,1992)。

(pp.212-213)

本研究の目的は,小学校児童における乗数効果の存在の有無を確認し,もし乗数効果が存在する場合にはその原因を明らかにすることを通して,克服に向けての示唆を得ることである。この目的に対して,小学校第4,5,6学年の児童を対象にした質問紙調査を実施する。

(p.206)

2) 正答者ではなく通過者としたのは乗数と被乗数を交換する児童や,乗数が帯小数と純小数の場合に,例えば×1.2を×12÷10と計算の工夫によって立式する若干名の児童を集計上除外したからである。

(p.213)

課題2 たかし君は次のような計算をしました。

3×0.8=2.4 計算をしてから,たかし君は考えました。

「かけ算なのに,答えがもとの3よりも小さくなっちゃった。何か変な感じだなあ」

さて君なら,たかし君に何ていってあげますか? くわしく書いて下さい。

(p.207)

課題3 次の①から⑤のうち,正しいと思う番号に○をつけなさい。

かけられる数×かける数=こたえ

① かけ算のこたえは,かける数がかけられる数より大きいとき,かけられる数よりも大きくなる。

② かけ算のこたえは,かけられる数がかける数より大きいとき,かけられる数よりも大きくなる。

③ かけ算のこたえは,いつでも,かけられる数よりも大きくなる。

④ かけ算のこたえは,かける数が1より大きいとき,かけられる数よりも大きくなる。

⑤ かけ算のこたえは,かけられる数が1より大きいとき,かけられる数よりも大きくなる。

(p.207)

学年別にみた場合,特に第4学年における対称問題の通過率が低いことと併せて,各問とも学年の上昇に伴い通過率の向上が指摘できる。また問題別にみた場合,×整数に対して,×帯小数,×純小数では通過率が明らかに下降している。しかし,非対称問題では同様な傾向は確認できない。上述の検定結果と併せて,特に第4,第5学年において明らかな乗数効果を確認することができる。

(p.209)

小学2年生の乗法場面に関する理解

作問a 5×6になる算数のお話をつくりましょう

作問b 絵をみてかけ算になるお話をつくりましょう

文章題a 1はこに 4こずつ ケーキを 入れていきます 6はこでは なんこに なりますか

文章題b おかしの はこが 3つあります 1つの はこには、おかしが 5こずつ はいっています みんなで なんこに なりますか

(p.41)

対象 大阪府の公立小学校の2年生3クラス108名(男59名、女49名)、平均年齢は8.0歳であった。調査は2007年3月に実施した。(略)また、国立大学生21名を対象とした調査を2007年1月に実施した。

(p.40)

さらに、次の基準A,Bを設定した。基準Aでは、被乗数と乗数の位置を問わず正答とした。例えば、「5×6」の話を作ることが要求されている作問課題に対して「6×5」の話が作られたときも正答とした。同様に、文章題では「5×3」の式を作るべきところ「3×5」の式でも正答とした。これに対して、基準Bでは、そういった場合を正答として認めなかった。算数の正答基準として適切なのは、基準Bであると考えられる。

(p.42)

Figure 2は、小学2年生の作問課題と文章題の正答率をまとめたものである。基準AとBでの正答者数に関して、McNemar検定をおこなった結果、文章題bでのみ差がみられ(z=3.62, p<.01)、文章題bでは基準Bのときに基準Aのときより正答率が低い*4ことが明らかになった。その理由は、被乗数と乗数が逆になった解答が多くみられたためであった。

(pp.43-44)

Figure 3は、大学生の作問課題と文章題の正答率をまとめたものである。基準Aでは、すべての課題で正答率が100%であった。基準AとBの正答者数に関してMcNemar検定をおこなったところ、文章題bでのみ差がみられ(z=3.32, p<.01)、文章題bでは基準Bのときに基準Aのときより正答率が低い*5ことが明らかになった。その理由は、被乗数と乗数が逆になった解答が多くみられたためであった。

(p.44)

第2は、被乗数と乗数に対する理解の程度に関することである。小学2年生では、文章題bにおいて被乗数と乗数が逆になった解答が多くみられた。この結果から、被乗数と乗数の区別に関する理解は、交換法則を学習していない小学2年の時点で不十分である可能性が示唆される。一方、大学生についても、文章題bにおいて被乗数と乗数が逆になった解答が多くみられ、その比率は、小学2年生よりも高かった。これより、大学生は被乗数と乗数のちがいをほとんど意識していないか、または、乗法の計算式が「被乗数×乗数」で表されることを理解していないと推測される。

(p.46)

長方形の面積の公式における「縦×横」の変遷と多様性について

縦×横という言葉から、何を連想するだろうか。“たて×よこ”というフレーズは現行、小学4年生の算数の面積の単元の中で、“長方形の面積の求め方”として扱われている。50年前に小学生だった人も、“たてかけるよこ”の響きから、まず長方形の面積の公式を思い浮かべると思われる。英文で表された等式【The Area of a Rectangle=Length×Width】の日本語訳を聞かれると、ほとんどの日本人は、【長方形の面積=縦×横】と答えるのではないだろうか。(略)

Lengthは長方形の長い辺(の長さ)、Widthは長方形の短い辺(の長さ)を表している。つまり、【The Area of a Rectangle=Length×Width】を直訳すると【長方形の面積=長い辺(の長さ)×短い辺(の長さ)】となる。

(pp.5-6)

では、長方形の面積の導入には横縦方式が最も適しているのであろうか。確かに平行四辺形や三角形の面積への自然な移行を考えると、横縦方式が理に適う。それでは何故、日本では、明治期、長短方式をやめ、縦横方式を採用したのだろうか。前節で述べたように、当時長方形の直角を挟む二辺に当てられていた漢字は、和算で用いられた長平、長幅、長寛、縦横などであった。和算では、“長”(振り仮名はナガサ)と書けば、長い方の辺を意味するわけだが、日常生活では、ナガサという言葉から長いという意味は出てこない。ナガサ×ヒロサもしくはナガサ×ハバすると一般には、どれとどれの積であるか不明になる。ナガサ、ヒロサに代わるものとして、明治35年国定教科書制度設置に際し、日常生活でも用いられ、児童にも受け入れやすい言葉である(和算における縦横ではない)“たて”と“よこ”が採用されたのではないだろうか。そして、語順も慣れ親しんでいる“たてよこ”の順になり、“よこたて”ではない縦横方式の導入がなされたと考える。

(p.12)

具体的操作をもとに意味理解を深める学習展開

たこが2ひきいます。

たこの足は、1ぴきに8本ずつあります

たこの足は、なん本ありますか。

(p.110.《BA型》)

子どもたちが作った問題は,どれも1あたり量が先に書かれているので,立式も単純に数が出てくる順に式にしているとも考えられる。そこで,教師が子どもの問題文に手を加え,いくつ分が先にくるようにした。この場合でも,子どもたちは間違えずに,8×2と式に表すことができた。理由を聞くと,たこの足の1あたり量だから,2ではなく8。だから8×2になる。」と得意気に説明することができた。

(p.110)

かけ算の導入

2年生の導入時では,被乗数と乗数を明確に区別して扱っているが,これもかけ算の意味の理解を確かにするためと考えられる.図1のみかん全部の個数を4×6=24と表すときに,被乗数4が一つ分の大きさ,乗数6が幾つ分を表していることを大切に扱う必要がある.ただしこの意味は世界共通でなく,例えば英語ではこれを6×4=24とするので,被乗数,乗数の意味は逆になる.なお昭和44年の「小学校指導書算数編」では,基準にする大きさのいくつ文かにあたる大きさを「表わす」ことに触れているが,表現という側面からは被乗数と乗数の意味が特に重要となる.またかけ算の学習は,例えば2の段では被乗数が2の場合に乗数を1から9まで系統的に変化させ(図2),8×2などはここで扱わないが,これもかけ算の意味を大切にしていることの一つの現れであろう.

(p.50)

かけ算の意味理解を促すための問題状況の図示の試み

(リリース:2013-02-09 早朝)

(最終更新:2013-02-13 早朝)

*1http://www.jyukennews.com/02sigaku/tokusyu11-2308.htmlによると,平成22年度,東京都の国立・公立・私立小学校に通う児童の数は595,669人です.集計児童数(解答者数)は,半数を超えています.

*2:原文には解答類型a-d,e-f,g-i,j-mで4つの表が差し挟まっています.

*3:この行と解答類型eおよびfについて,原文は「7×2.4」となっています.しかし前後を読めば,「2.4×7」の誤記と判断できるので,引用に当たり書き換えました.

*4:正答者数や正答率の数値が本文にありませんが,Figure 2を読み取ったところ,文章題bにおける基準Aの正答率は100%にほんのわずか足りず,基準Bの正答率は80%を少し超えたくらいです.

*5:正答者数や正答率の数値が本文にありませんが,Figure 3を読み取ったところ,文章題bにおける基準Bの正答率は30%台です.