山賀博之監督『王立宇宙軍 オネアミスの翼』

20年くらい前にTVでやっていたのを、つまらなさすぎて最初の30分くらいで観るのをやめた。その後、GAINAXの作品をいくつか観て、東大駒場でやっていた岡田斗司夫の授業にもちょっともぐって、つまらないと思ったのは自分がガキで馬鹿だったからで、いま見たらおもしろいはずだ、と思い始めて10年くらい経った。ようやく観る機会を得て思ったのは、やっぱりつまらない、ということ。
まず、主人公の声が森本レオで、これがまた何言ってるのか聞き取れないくらい下手くそ。他のキャラと較べて聴くと、やっぱプロの声優ってすごいなあと思える。冒頭のモノローグから、何だよこの声、ということでかなりいらいら。
で、2時間くらいの映画なのだが、3時間に感じるくらい退屈。ところどころに見せ場的なもの(殺し屋からの逃走シーンとか)があるが、全体のテーマが不明瞭で、部分部分が有機的に統一されている感じがしない。
テーマの候補としてはいくつかある。一つは、世界初の有人宇宙飛行を成功させる、という夢実現物語。ただ、これが各人にとってどのくらい力を持った夢なのかが描けていない。計画がスタートして、現実味が強まってきて、なんかみんなやる気になってきた、程度のことにすぎない。
もう一つは、主人公の成長物語。やる気の欠如した主人公が、雑踏で布教活動する少女と出会って覚醒し、最終的に宇宙に出て何らかの悟りを得る、という筋だが、その覚醒が、結局、なんかよくわからんグローバルエコロジー的平和主義への宗教的覚醒でしかなく、まあ陳腐だ。しかも、物語前半、少女と出会った時点で覚醒しているので、その後の展開が退屈で仕方がない。
この点については、次のいずれかのプロットのひねりがあるべきだったと思う。一つは、街頭で布教チラシを配る少女に対して、最初は、なにこいつカルトきめえ、という反応だったのが、いくつかの事件を経ることで、少女の言葉に含まれる真理を感得する、というひねり。ただこれだと完全に宗教アニメだ。私の好みではない。
もう一つは、神の教えを説く少女が、実は売春で身を立てていたことを知った主人公が、宗教的覚醒と少女への恋慕の両方を失いかけるが、いくつかの事件を通して、より高解の悟りに至る、というもの。観てる間は、こちらのプロットなのだろうと思っていた。殺し屋からの逃走シーンも、あの途中で少女の売春の現場を目撃してしまう、というためのものだと思っていたのだが違った。違ったがゆえに、たいした意味がないただのアクションシーンになってしまっている。いずれにしても、あの少女は売春をしているべきだし、していない方がシークエンス的に不自然だと思う。
世界観の作り込みはしっかりしていると思うが、『Avatar』のときにも書いたように、世界観だろうと表現だろうと、話がおもしろくないかぎりそれらを独立に評価する気にはならない。