〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

20年間の監獄「砂漠の囚われ人マリカ」

ヒメオドリコソウ


「砂漠の囚われ人マリカ」

  • マリカ・ウフキル&ミシェル・フィトゥーシ著 香川由利子訳 早川書房
  • 1900円 2000年


主人公マリカ(長女19歳)は、モロッコ国王の養女だった。実父の関わったクーデターのために砂漠の牢獄に母と5人の兄弟(一番下は2歳)、2人の親戚とともに20年間も監禁される。飢餓や病気と闘い、やがて脱出を企て……。
過去の出来事ではあるが、そう昔のことではない。1990年代まで囚われていたのだから。


辛いその日々を支えたものは何だったのだろうと、考えた。

一つは、不自由には違いないが、日常生活を続ける努力をしたこと。
配給された材料で献立をたて、料理し後片付けをする。洗濯をし、掃除をし、おやつを作る。
二つ目には、品位を保ち、教養を身につけたこと。
まだ余裕のあった牢獄生活前半には、持っていった教科書で勉強した。形ばかりの時間割を作り、バレーボールや、体操もした。マリカは、牢獄にあってもだらしなさを一切認めなかった。食事中は行儀よくし、上品に食べ、「ありがとう」「失礼」と声をかけた。絶えず身だしなみに気をつかった。
三つ目は、創造的な生き方を追求したこと。
サソリを育てレースを開催した。散水ホースを盗んで電話のパイプにして夜になると各部屋をつなぎ会話した。マリカは、登場人物が150人におよぶ“お話”を創り出し毎日話して聞かせた。


監禁の後半には砂を這うような悲惨な生活で、心も体も蝕まれていく。
しかし、「私たちはすべてに耐えることができた。人間性を失わないでいるために」とマリカは語る。

これらがやがてすばらしい大脱出へ向かっていく。脱出のための準備などあまりに興味深くて、ここに書くのがためらわれる……。