〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

コラム > 春秋

  • 石川啄木は、没年の明治45年までの4年間は東京で暮らした。こんな歌も残している。〈浅草の凌雲閣のいただきに/腕組みし日の/長き日記(にき)かな〉
  • 凌雲閣は明治半ばに造られた。れんが造りの12階建てで高さは約50メートル。
  • 凌雲閣が関東大震災で姿を消したあとの東京では、歳月を経て、333メートルの東京タワーが主役になった。主役は交代するのか。高さが2倍近い東京スカイツリーが完成し、来月下旬からは人が昇って大パノラマを楽しめるようになる。
  • スカイツリーがある場所と凌雲閣があった場所は隅田川をはさんで割と近い。“現代の凌雲閣”もはるかに凌ぐ雲の上にいる明治の歌人に、時代を重ねた日本はどう映るだろう。そこからの眺めを詠んでほしくなる。
  • 啄木が見下ろす2012年の日本の首都で、景気が良いのは日本一のタワーの完成話くらいのもの。詠み残した〈はたらけど/はたらけど猶(なほ)わが生活(くらし)楽にならざり/ぢつと手を見る〉人が多いことに驚くかもしれない。

(2012-04-13 西日本新聞