[ヤブコウジ]
春秋 日本経済新聞
- 「不来方(こずかた)のお城の草に寝ころびて/空に吸はれし/十五の心」。旧制盛岡中学の生徒のころ、恋と文学に夢中だった石川啄木がのちに自身を回想した一首である。季節は春だろうか。北国の高い空は、少年の不安や焦燥や野心をゆったりと吸い込んでくれたに違いない。
- まだまだ子どもに見られるけれど少し大人の感情も宿り、そのアンバランスに自分でも戸惑う――。15歳といえばそういう時期だ。だからこそ怖いもの知らずでもある。ソチ五輪のスノーボード男子ハーフパイプの平野歩夢選手はそんな「十五の心」と、よく鍛えた体とを会場の夜空に誰よりも高く吸わせて「銀」を得た。
- 若い、ほんとうに若い人たちの明暗のドラマが胸に迫る五輪だ。遠いソチの空に、大人たちの心も吸われていくのである。
(2014-02-13 日本経済新聞)