猫と人間の相互作用
ニャーニャービンクスとシャーちゃんは、向かいの家で飼われている雌猫で、勝手に私の家の引き戸を開けて中に入ってくるほど仲良くしている。ニャーニャービンクスは三毛猫で、シャーちゃんは灰猫である。
シャーちゃんは、ちょっとしたことに対してでもすぐにシャーと怒り声をあげるほど気が荒く、時には噛み付いたりもする。昔はひどく愛想の良い猫だったのだが、去年の冬、向かいの家が葬式を出して以来人を恐れるようになり、シャーの頻度も高くなった。それでも、私の姿を認めれば走ってくるし、遠くで地面に背中をすりつけて猫愛想もする。
ニャーニャービンクスはシャーちゃんより幾分年若いように見え、また、性格も対照的で、脳みそがないんじゃないかと疑ってしまうほど温厚で、いつもご機嫌にニャーニャー独り言をいいながら歩いている。
シャーちゃんとニャーニャーが遊びにきてくれたら、猫缶を一口程度振る舞うようにしているだが、餌に向かう二匹の態度から、猫とはいえ微妙な力関係の均衡の中で食うか、食わないか、いつ食うか、どうやって食うかを決めているのが見て取れる。
シャーちゃんは気が荒くけんかっぱやいから、猫だけいる空間ではニャーニャーよりも上位にいるようだ。餌はあるけど私がいないときには、たいていシャーちゃんが猫缶をむさぼり食っている。
けれども、そこに私が現れると、人間が怖いシャーちゃんは餌に未練を残しながら物陰に隠れてしまうので、ニャーニャーは餌を独占できる。餌を出してそのまま私がいると、シャーちゃんは餌に近寄りもしない。私の存在が、シャーちゃんとニャーニャーの力関係を変えてしまっている訳だ。そして、なぜそのような力関係のが逆転がおこるかといえば、シャーちゃんが人間嫌いになったことが原因にある訳で、シャーちゃんの人間嫌いを引き起こした原因は、去年の冬の向かいの青い屋根の家にある。それを解明することを私のライフワークにしてゆきたいと思う。