四月二十五日


   鞘の毛をむしつて静叱られる

        (柳多留 三二)




 むかし、奥州へ落ちのびた源義経の後を慕つて静御前信濃路に入つた。松本のあたりで土地の者に「奥州はどこでしようか」と聞くと平素、大塩をオウシユウと訛つているのでそこを教えた。さてこそ義経と逢える嬉しさでいつぱい。安曇平を入り農具川の橋で、「奥州は見えないでしようか」とたずねるとやはり大塩を教えた。
 桜の枝を折つてそれを杖とし辿つていつたが、奥州はなお幾百里の遙かのところ。静御前はがつかりしてはらはらと涙をこぼした。地にさした杖はその涙で芽を生じ生長して大きくなつた。
 北安曇郡美麻村大塩にある「静の桜」のいわれである。