第7回 『やるべきことなら手短に』

今日は、『遠まわりする雛』の一篇、『やるべきことなら手短に』をレビューしていきます。なお、これから7回に分けて『遠まわりする雛』の短編全7作をレビューしていく予定です。

この話は奉太郎らしさが顕著にあらわれた話です。
とりあえず、この話を読む場合は、『氷菓』を読んだ後にしたほうがいいと思います。まぁ、第4巻から買う人なんて、あまりいないと思いますが……
この話は、雑誌「野性時代」第45号(平成19年8月号)に掲載された話で、後に短編集『遠まわりする雛』として角川書店から発売され、文庫化もされています。
私が持っているのは、文庫の2012年4月30日発行の第13版です。

里志が、学校の課題である作文を書いている奉太郎に対して云った、『学校の噂』これが、元となって話が動き始めます。その話を要約すると、
『昨日の事だった。1年A組女子が、特別棟4階まで行った。閉門は18時。そのとき既に18時近く、校内の生徒もまばらだった。4階まで行くと、音楽室(これも4階にある)から、ピアノソナタ第14番作品27-2『月光』が聞こえてくるではないか! 女子は、忘れ物を取りにきた事を忘れ、その曲に心奪われていく。女子は音楽室に向かった。音楽室を開けようとする。見事に鍵は開いており、中に入る事ができた。暗幕によって真っ暗な部屋。ふと、ピアノを見ると、蓋は開いているものの誰もいない。女子は、目を左右に動かした。見てしまったのだ。長い乱れ髪をたらし、セーラー服を着た身体はぐったりとして、目を血走らせている女の姿を! 女子は一目散に逃げてしまった。後にわかったことがある。その日はピアノ部が音楽室を占有しており、部員は3年生だけ。しかもその3年生は手を怪我して、『月光』など全く弾けやしない状態だったのだ……』
要約と云うより、情景描写を省いただけですね(汗)。

早速、千反田(1年A組なので噂は聞いたようだ)は奉太郎にそのことを云おうとしますが、奉太郎は話を逸らし、「学校に秘密クラブがある」という話をします。
千反田、その話が気になって、奉太郎たちと調べると昇降口の掲示物コーナーに野球部のポスターの下に隠れて貼ってある、秘密クラブ「女郎蜘蛛の会」の文字が。
それがわかると千反田は「噂」を忘れてしまったようで、帰ってしまいます。

奉太郎は千反田(ああ、変換が面倒になってきた。えるにします)を見送り、帰りのアーケード街で早速里志からお言葉が。
「さっきのは、奉太郎好みではないよ」(本書54ページ、少々変更)
あ、確かに。気を逸らしてわざわざ音楽室まで行く必要をなくしたのはいいですが、もう1つの謎を解くのにちょっと出歩いてしまってちょっと省エネではない。その時は胸を張って云えばよかったのだ。「知らない」と。
そして、えるが自分に対して云った言葉を里志も奉太郎に向けて模倣する。
「不慣れなやつほど奇を衒う」(本書47,55ページ)
結局、奉太郎は里志にだけ「噂」の真実(推理ですが)を話して、物語は終わり、となります。

自分自身、結構好きな話です。
次回は、『大罪を犯す』です。
お楽しみに!