ミス・ポター('06 米・英/監督:クリス・ヌーナン)

ピーターラビットの作者ビアトリクス・ポターの半生をコンパクトに描いた佳作。人生に波風は立つものの、タッチはおしなべて滑らかで上品に仕上がっていた。ただ、史実からの翻案も複数あるようで、その点は鑑賞後に留意しておいた方が良さそう。あらゆる伝記要素の入った作品に言えることだけど。…この映画の場合は、ポター自身よりも20世紀初頭のロンドンの雰囲気や湖水地方の空気感(なお、両所を主人公が行き来する際には汽車が橋梁を渡るという典雅な遠景クリシェが用いられる)、女性が自ら選択して生きていこうとする時の戸惑いや困難といった別の軸足があるようにも思うわけだし。常時、屋内や屋外関わらず光の演出に目配りおこたらず、時にアニメーションを合成してポターの内面世界への共感を呼ぶ工夫もさりげなかった。愛らしく、しみじみする視聴後感。昔の人はあまり社会階層に関わらずはかない生涯だったんだなあとも。

戦う司書と雷の愚者

戦う司書と雷の愚者 BOOK2 (集英社スーパーダッシュ文庫)

戦う司書と雷の愚者 BOOK2 (集英社スーパーダッシュ文庫)

エピソードの設定上、前巻よりさらに頻繁に時間軸上を行きつ戻りつしているが、分かりにくさがないのは相当に推敲するタイプの作家なんだなという印象。あと、たとえば悪役に相当するサブキャラにも、くだくだしいバックボーン描写があるわけでないが、それとなく人柄や生涯を想像させる1シーンを挿しこんだりしている一手間は評価されるべき点だと思う。…それにしても一度は肉体が死んでもレアケースで甦りが可能という設定も相当な飛び道具だ。このあたりが世界観や人物観の特異さにつながっていくと面白いが、それは少々ライトノベルの範疇外となるか。