乱歩随筆

江戸川乱歩が活躍当時に諸媒体で発表したエッセイやコラムを自選した一冊、その復刻版。日本の探偵小説の第一線を走っていた作家によるジャンル論は明快そのもの。乱歩の読書歴になっているのも面白い。ほかは先祖の女傑によって一族の功が立ったという江戸時代のエピソードや、集団生活に適応しきれずに学校でいじめに遭ったり、サラリー生活を転々とした話などが読める。

ひそひそ星('16/監督:園 子温)

人類が絶滅間近となった未来、その穴を埋めるがごとく超性能コンピュータやアンドロイドが静かに宇宙を飛び交っていた。主人公は『鈴木洋子』と名付けられた一体の機械人間。彼女に任ぜられた仕事は星間宅配便である。滅び行く人間たちが、ガラクタのような品物を誰かに贈ろうとする心の不思議に、次第に『鈴木洋子』は魅せられていく… ストーリーはただそれだけなのだが、宇宙船の中身が彼女が嗜好で選んだ昭和アパート風だったり、藤城清治の静謐な影絵世界を思わせる演出を惑星訪問の一つに付けたりと、モノクロ(1カットのみとある企図によってフルカラー)仕上げとあいまって複数の効果が全体を物憂く優しく覆う。すでに喪われた者、かれらをいまだ忘れ得ない人たちに寄り添うにはどうしたらいいのか? 余計な声や音を控え、ただ耳を澄ませればいい。そこからきっと何かがはじまる。