『キューティーハニー』前夜祭 庵野秀明実写映画の系譜

かなりオタクっぽいイベントというか、もうオタクそのもののイベントに行ってきました。入り口には等身大のサト衿、それをバックに記念撮影しやがる輩輩。そして、お、この列かー。先頭は座り込んじゃって、まー。と思ったらそれは翌日の初日舞台挨拶に並んでる人たちでした。…おい。オタクってすごいのねー。ひとくくりにするのはよくないのかもしれないけれど。とにかく、階段に所狭しと座り込みつつ、新発売の鰹バーガー食べたのだがあまりの混雑に味すら朦朧。タケノコの食感だけ記憶に残しつつ、2hあまり歓楽街のど真ん中で待ち続ける。軽い拷問でした。
並んだ甲斐あって、通路を前にした見晴らしのいい席を確保。劇場も今は亡き東急文化会館並みに広く、最近こういうとこであんまり見ないなあとか思っていたら、ふいに司会の人が現れ、そのあと庵野監督をイントロデュース。腰が低い。最初の5分で笑えるポイントが3ヵ所はあるといい去っていく。そういう発言はかえって客にとってプレッシャーになる。それと、上映前に制作関係の人間が出てくるのはどんな形であってもマイナスに働くだろう。その後流れる作品を同情的に見てしまうかもしれない(感情移入しやすくなる)し、発言によっては作品の内容を彼ら自身で「縛って」しまうおそれすらある。実際、最初の5分に笑いどころは3つあったかどうか定かでなかった。ただ、監督が言っていた「笑いたいところでは大声で笑って、泣きたいところでは思い切り泣いてください」というのは彼の今回の作品作りのコンセプトなんだろうなと思えた。それがどこまで反映されていたかは別として、予想外にサト衿の演技は切れて冴えていたし、悪役陣の衣装・美術はそれはもう美しいものだった。なにより(結局ここに落ち着くのだが)実日子with glassesが似合いすぎてもう、目が離せませんでした。あの頑固一徹なキャラクタ、そして日本鬚龍??咾塙Tシャツ、枯れた観葉植物が並ぶ部屋も素晴らしい。あのくらいに一人のキャラが作り込まれているとこちらも感情移入しやすい(ちょっとひいき目ですが)。
で、肝心の内容ですが普通に楽しめました。もともとが子供向けのホンだけに、メッセージ性とかそういうところまではあまり期待していなかったのですが、人間とアンドロイドの狭間で揺れるハニーが最後には人間の元に還っていくという監督の原点「ウルトラマン方式」がとられていてそこは興味深かった。ハイテクの使用に関してもかなり頑張ったなーという感じで、まああまり感心できるものではありませんが子供には勧められるんじゃないでしょうか。監督も確か言ってましたが「広い世代に見てもらいたい」というのはおそらくエヴァからの明らかな反動でしょう。それにしてもトークショーでのあのおのろけた空気といい、収奪された人間の作るものはこんなにも毒気がないのですね。驚きました。

そのあと実写作品を何本か。「実写版エヴァ」は初見、クォリティの低さにただただ驚き。松たか子PVは模索感がありありと感じられ、「24人の加藤あい」ではそれがさらに最高潮に達している。しかし「流星課長」ではそれらをみごとにまとめ上げて一つのカタルシスを生み出すことに成功している。(大画面で見るとまた迫力が違う。)そしてこの日の裏メインは『DAICONFILM版帰ってきたウルトラマン』。このクオリティの高さは一体何なんだと驚かされる。ウルトラマンを演じる庵野監督のバイタリティ、それはもはや今ここには失われているものもありある意味でははっきりと受け継がれている部分でもあるような気がした。

式日』は写真美術館で見たときの数倍はスクリーンがあり、音も数倍よかったということもあり、印象がかなり異なっていた。結論を言うと、監督がこの作品でやりたかったことはエヴァの世界の再構築であって最終的にそれはひとつの帰結点を迎えて映画は終わりを迎える。最近エヴァを全話通してみたこと、それから直前に『ハニー』を見たことも影響してか、客観的に見ることがなかなか出来ない状況だった(時間が時間だったというのもある)。エンディングがCoccoの「raining」で少し懐かしかった。あのころは何を考えてこの曲を聴いていたのだろう。とか思いながらすっかり明るくなった新宿の街へ出て行った。初日待ちの列は未だに座り込みを続けていた。頑なに。