【読書】「メモリー・ウォール」を読んだよ

[あらすじ from 新潮社HP]
記憶を保存する装置を手に入れた認知症の老女。ダムに沈む中国の村の人々。赴任先の朝鮮半島で傷ついたタンチョウヅルに出会う米兵。ナチス政権下の孤児院からアメリカに逃れた少女――。異なる場所や時代に生きる人々と、彼らを世界に繋ぎとめる「記憶」をめぐる六つの物語。英米で絶賛される若手作家による、静謐で雄大な最新短篇集。

自分のタイムライン上で好評で気になっていたアンソニー・ドーア著,岩本正恵訳の『メモリー・ウォール』を読みました。人に残った記憶・これから作られる記憶・蘇る記憶・そして,受け継がれる記憶。そういった人を形づくる記憶を真ん中に据えた物語が集まった短篇集でした。

収録されている物語は全部で6つ。
それぞれが,老女・青年・若夫婦・少女と世代・男女様々な視点で,南アフリカアメリカ・朝鮮・中国・リトアニア・ドイツと世界各地の物語が目の前で広がるようにありありと書かれていることが驚きです。しかも時代まで違う。

どのお話もそれぞれに違った特徴を持ったものでしたが,個人的に強く印象に残ったのは「生殖せよ、発生せよ」「ネムナス川」「来世」かな。
冒頭に収録されている「メモリー・ウォール」と最後の「来世」の間にある関係性(老婆がメインの語り手,失われていく記憶−よみがえる記憶,次の世代に繋がれる記憶)も面白かった。

人は自分の人生を歩むなかで記憶をどんどん重ねていく。それは地層のように重なって,その時にあった物事をどんどんと過去のものにしていく。だけど記憶は消えずにいづれ誰かに掘り起こされるのを待っている。
それは死に際の自分かもしれないし,子供か孫かもしれない。そして自分もまたそういった記憶の地層の一部なんだよと。
この本を読みながらそんな事を考えていました。

いや〜最高!
ちなみに巻末の「訳者あとがき」によると,ドーアさんは長編の制作にかかっているとのこと。楽しみすぎる。